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 夜中と早朝は深い霧に覆われて、リビングの窓ガラスは真っ白い景色に変わる。昨日よりキトから約200km離れたエスメラルダ県のラ・ウニオンという小さな町に来ている。大型の長距離バスの料金は5ドルほどしかしなかった。格安とはいっても車中は綺麗で快適である。
エクアドルは知る人ぞ知る石油産出国でもあり、1日に出る石油の量は
50万バレル。ガソリン代も1ガラン(約4ℓ)でUS$2ほどである。

 バスは
山を越えているという感覚を実感できるほど右に左に急カーブしながら登っては下る。低地まで下りると太陽の強い日差しとしっとりとした空気に体が包まれ、着ていたフリースはすぐにバッグの中で休ませることになった。
宿泊させてもらうお家は
22haの農園に囲まれ、見たこともない様々な果物や木が植わっている。
ここへ来た目的の一つは日本へバナナを輸出している、田辺農園を訪ねるためであった。



                バナナの洗浄


 コンコルディア地区のプランピロトにある田辺農園の敷地は350ha。ここで栽培されるバナナは全て日本へ輸出されている。
品質管理責任者の田辺洋樹さんが農園を案内してくださった。田辺さんはエクアドル出身、
19年間日本の商社で働いたのち、現在はこの農園をお兄さんと一緒に運営している。
農園内はきれいに道が整備されており、枯れた葉っぱが付いているバナナの木は一つもない。乾期の時用のダムも完備されている。

 バナナを収穫、パッキング、トラックに詰めるまでの一連の作業を見せてもらった。収穫されたバナナの束は重さと大きさを計り、区画ごとにデーターを付けている。傷がつかないように束ごとにクッションがはさまっており、塩素の入った水とオゾン雑菌で
20分ほど洗浄される。ピカピカになったバナナが規格ごとに仕分けされ、丁寧に袋詰めされていく。まるで生まれたばかりの赤ん坊を扱うかのような手つきでバナナは手から手へと渡っていく。バナナ色のTシャツを着た従業員の人達は手際よく作業をこなし、尚かつ仲間と一緒に楽しそうに仕事をしている。13.5℃の状態に保たれる冷蔵コンテナトラックはほぼ毎日4200箱をグアヤキルという港町へ運ばれ、そこからパナマ経由で約25日間をかけ日本へ到着する。





      肥料に使用されるバナナとパルミット(奥)


 田辺農園のバナナは無農薬で栽培されており、品質の安全と糖度の高い味にはとても定評がある。東京にいる時は値段が高いイメージのせいかなかなか買う機会がなく、今日が始めての試食となった。完熟したバナナは口当たりが良く品のある甘味がした。例えるなら甘くない高級和菓子を食べているような感じである。



               ミミズたい肥


 その美味しさの秘密でもある肥料を見せてもらった。一つ目はパルミット(ヤシの芯)を50℃~60℃の温度まで発酵させて作るEM菌が入った“ぼかし肥料”と呼ばれるもの、マグネシウムや酵素を補う、牛の糞と糖蜜を発酵させた液肥。そしてミミズの糞で土を作り、土質を改良していく“ミミズたい肥”。担当者のおじさんが土を掴むと土の間から大量のミミズが現れた。1haに対し2万匹のミミズに1年間餌を与え、囲いが満杯なるまで土を作るのだそうだ。



研究所で働く左:浜崎さん 中:高橋さん 左:田辺さん


 農園内にある研究所では葉っぱの黒カビを防ぐために、Bacillus Subilis ver.Nattoと呼ばれる納豆菌から殺菌剤を作るための研究が行われている。
日本から来た高橋さんと浜崎さんが日々研究に励んでいる。高橋さんは日本で酪農を営んでいたそうだが、様々な縁が重なりエクアドルへ来そうだ。昔は“世界の酪農を知る”というテーマを掲げて世界各地を旅していたという面白い経歴を持っている男性である。

 広大な農園で働く従業員は
450人。そのほとんどが近くの村から来ている。田辺農園は村の人達の生活を支える貴重な仕事場でもあるのだ。
昨晩から降り続いた雨のお陰で涼しいうちに農園を見学することができた。風邪気味だったにもかかわらず、田辺さんは最初から最後まで手を抜かず丁寧に農園の説明をして下さった。

 赤道直下のエクアドル農園で太陽のエネルギーをたくさん浴び、手間暇かけて育てられたバナナ達は遠い日本の市場に並ぶ。次に日本で田辺農園のバナナに出会う時は、風に吹かれて大きな葉をゆさゆさと揺らすバナナの木と、黄色の
Tシャツを着た明るい従業員の人達の顔が浮かぶことだろう。




          案内して下さった田辺洋樹さん




ERIKO