2012-08-09

木下惠介を見直す

テーマ:映画
シネ・ヌーヴォで「生誕百年 木下惠介監督全作品上映」が始まっている。全49作品が一挙に上映されるのは、世界初。しかも東京発ではなく、この大阪だけの企画である。
木下惠介といえば『二十四の瞳』『喜びも悲しみも幾歳月』あたりが有名で、抒情的でセンチメンタルというイメージが強いかと思う。私もそう感じていた一人だが、今回あらためて見直してみて、それだけではない幅の広さと透徹した人間観察眼に驚いている。
『お嬢さん乾杯』『破れ太鼓』などはコメディで、しかも実に上質なセンスの良い笑いに接することができる。
『二十四の瞳』にしても、小豆島の美しい風景(余談になるが、今日8月9日は長崎に原爆が落とされた日。それを教訓として生かせず、再びこの風土を放射能で汚してしまったのかと、木下作品の美しい風景を見るたびに思う)、無垢な12人の子どもたちと大石先生との心温まる交流だけでなく、当時の貧困、太平洋戦争へと突き進んでいく世相の息苦しさ、そして戦争の悲惨さ理不尽さもきっちりと描かれている。
『少年期』という作品も素晴らしい。ここにも戦争が影を落としているが、疎開した家族を通して、価値観を押し付けられることの怖さ、それでも節を曲げない人間の潔さ誇り高さを、静かに映し出している。
『惜春鳥』もいいなあ。中学時代に仲の良かった5人の青年が、20歳ぐらいになって再び集う。しかし、それぞれの経てきた人生があり、もう昔と同じ5人ではない。将来を嘱望されていた一人は、詐欺事件にかかわって逮捕される。貧困の苦しさを知っている一人は、見合いの相手が友の好きな人だと知りながら、条件の良いその話に乗る。しかし、とことん友に尽くし、守ろうとする一人もいる。8月4日にシネ・ヌーヴォでトークをしてくださった追手門大学名誉教授の佐々木徹さんは、その著書『木下恵介の世界』の中で《『惜春鳥』は、友情の挽歌である。》と書いておられる。言い得て妙、という言葉が浮かんできた。
木下監督の実験精神・チャレンジ精神にも舌を巻く。オールロケで、登場人物はほぼ男と女の2人だけという『女』。そうかと思えば、オールセットで歌舞伎仕立ての『楢山節考』。相思相愛の人がありながら、犯された男の妻にならざるを得なかった女の情念を描いた『永遠の人』では、なんとフラメンコが映画音楽に使われ、しかもその歌詞は日本語!
『日本の悲劇』『女の園』などは、山本薩夫も真っ青の社会派作品と言ってもいいだろう。
というわけで、何を見ても面白く、作品ごとに期待も高まるのだが、今のところ「私の」木下作品は『野菊の如き君なりき』である。泣くもんか、泣くもんかと思いつつ、最後にはこらえ切れずに涙してしまう。こんなにうつくしく、陶酔できる恋愛映画があるだろうか。政夫と民子の健気さ、他者への思いやり、秘められた一途さがたまらない。それゆえ、流す涙でこちらの心が洗われてゆくように思えるのだ。
「生誕百年 木下惠介監督全作品上映」は、9月7日までシネ・ヌーヴォでやってま~す。
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