2010-08-19

「乙女の密告」をめぐって

テーマ:読書
文藝春秋(9月特別号)を買ってきて、赤染晶子(あかぞめ・あきこ)の「乙女の密告」を読んだ。第143回の芥川賞受賞作だ。
以下、結末部分にも触れるので、これから同作を読もうと思っている方はご注意ください。また、あらすじをトレースすることはしないので、読んでいない方はつまらないかもしれません。
一読後の率直な感想は、「ふーん、なかなかよく出来ているけど、コミカルな部分とシリアスな部分が噛み合っていない感じ。それに乙女、乙女って盛んに出てくるけど、乙女って何? バージンのこと? それとも、未熟だけれども潔癖な精神性のこと?」というものだった。
本編を読んでから「選評」を読んだが、私にはこちらのほうが興味深かった。
小川洋子は《最後、みか子にアンネを密告させる。もちろんそれはアウシュヴィッツへ送りこむための手段ではなく、アンネを本当の居場所へ安置するための密告である》と書いている。
同じ部分について、宮本輝は《アンネの居場所を密告したのが、ほかならぬアンネ自身であったという小説》と書き、受け取り方がまったく違っている。失礼ながら、ここは宮本先生の誤読ではないかとすら思う。
村上龍は《誰がアンネ・フランクを密告したか、という有名な謎があり、この作品ではそれは「名前のないわたし」、つまり一般的な「人々」であって、その中には主人公の「わたし」も含まれる、という構図になっている。だが、文章が正確さを欠いているためにわかりにくく、誤解を生みやすい》と書く。この文章が、私には腑に落ちた。

私が戸惑った「乙女」について、川上弘美は《もう少し、「乙女」というものの内実にかんして、深く表現してほしかった》と、私と同じような感想。
だが、池澤夏樹は《学生たちは「乙女」と呼ばれるが、「乙女」の資格ないし定義はあいまいなままで、(中略)「乙女」の曖昧な定義はユダヤ人の定義に重なり》と、その曖昧さは意図されたものだと解釈している。
小川洋子も《乙女が何なのか、そのグループに入ることにどんな意義があるのか、全く無意味なのだ。オランダ人かユダヤ人か、乙女かそうじゃないか、という無意味なレッテルから自由になり、本当の自分を取り戻そうとしてアンネもみか子も苦悩する》と、ほぼ同様の見方。
「なるほど、そう読みますか」と思うが、高樹のぶ子の《生死のかかったアンネの世界に比べて、女の園の出来事が趣味的遊戯的で、違和感がぬぐえなかった。頭で考えられ、嵌め込まれた二つの世界だが、差別が発生する本質は同じだ、という他の委員の意見が印象に残った》という感覚のほうが私には近い。

池澤夏樹が《かくも重い主題をかくも軽い枠に盛り込んだ作者の伎倆は尋常でない。(中略)このような力ある知的な作家の誕生を喜びたい》と書き、黒井千次が《「乙女の密告」は、「アンネの日記」の上に組み立てられた堅固な構造をもつ小説である》と書いているように、赤染晶子は知的で戦略的な作家なのだろう。『のだめカンタービレ』の奇矯な指揮者・シュトレーゼマンを連想させるバッハマン教授などを造形したのも、読者を作中にいざなう仕掛け、なのかもしれない。
だがしかし、川上弘美が他の候補作に触れて書いた《この三作に足りないのは、「やむにやまれず、書いてしまうのだ。誰が何と言っても」という切羽つまったなにか、なのではないでしょうか》とまでは言わないにしても、《切羽つまったなにか》を表現するための器がこれでよかったのか、とは思うのである。
ともあれ、ひとつの作品をめぐって、プロの物書き9人(文中で触れていない選者は石原慎太郎と山田詠美)が、こんなにも意見が違うところが面白かった。
それでも、《最初の投票から『乙女の密告』が最も多くの点数を集め、その流れのまま受賞作と決まった》(小川洋子)のだそうだ。
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2010-08-16

戦後65年

テーマ:日常
野坂昭如の『「終戦日記」を読む』読了。5年前に刊行された本が、このたび朝日文庫に入った。作家・政治家・女学生などの当時の日記を引用しつつ、主に自分の戦争体験を書いている。納得するところ多し。ポキポキ折れていくような、簡潔な文体が良い。カバーそでの著者紹介文に《03年に脳梗塞で倒れ、リハビリを始める》とある。お元気なのだろうか。
テレビでも、ヒロシマ・ナガサキの被爆体験や元兵士たちの証言番組を多く見た。戦後65年の節目ということもあるだろうが、こういう番組がまだ作られることに、少しホッとする。だが、証言者の多くが、すでに80代、90代だ。早く聞いておかなければ、と思う。また、NHK制作が多いのも気になる。民放は金がないのか、企画が通らぬのか。それぞれに事情はあるのだろうが、寂しい限り。
それら「戦争」を検証する番組を見ていると、両極に引き裂かれるような思いがする。大本営発表の嘘、軍部の無策・無責任、戦後の人心の荒廃など、うんざりする部分がある。その一方で、亡くなっていった戦友たちに「申しわけない」という思いを未だに持っているご老人がいる。また、被爆者手帳を申請できるのに、それをせずにきたご婦人がいる。「そんな気になれないの」と。それは、井上ひさしの『父と暮せば』にも描かれた、涙が出るほどうつくしい心情だと思う。そして、その両極にいるのは、同じ日本人なのである。日本人って、いったい何なのだろう。
日本人論は私の手に余るが、戦争は絶対にしてはいけない、ということは言える。先の戦争で亡くなった方たちも、きっと賛同してくださるだろう。合掌。
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2010-08-09

足の爪

テーマ:日常
太っていると、足の爪が切りにくい。私の体が硬いせいなのかもしれないが、大きな腹が邪魔をしているように思われる。切りたいところが切れず、あるいは切り過ぎて血が出たりする。
そんなとき、足の爪を切ってくれる人がいたらなあと思う。この場合の「人」は、やはり女性であろう。いや、それしか想定していないが。
ひざ枕で耳かき、というのも「男の夢」としてよく例に出されるが、そうなのか? と思う。ひざ枕はいいとしても、耳かきは力加減が難しいからだ。とば口のあたりで遠慮がちにカサコソやられても気持よくないし、かといって奥までグイグイこられると、もう結構と言いたくなってしまう。ここまで書いて、なんか別のことを連想してしまったので、中止。
そうそう、男の夢の定番、肉じゃがは否定しません。

爪切りにせよ耳かきにせよ、「してあげる」というのが麗しいので、決して「させる」つもりではないことを付け加えます。フェミニズムだかなんだか、そういうことに気を遣わなければならないのも、ご時世とはいえ、いささか面倒くさい。ならば、ヨーガに精進して痩せるのが最良の方法である、という結論になりますか。
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