リフレに対する素朴な疑問(6) アイルランドに学べ | ロンドンで怠惰な生活を送りながら日本を思ふ 「東京編」

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ロンドン・東京そしてNYといつの間にかいろんなところを転々とそしてまた東京に。海外なんて全く興味なかったし今もないという予想外の人生でした。今は東京に戻りしばらくお休みしていましたが少しずつ再開してみようかと思ってます。よろしくお願いします

アイルランドがEU/IMFから資金援助を受けることになった。

単純に言えば金融機関の規模が大きくなりすぎて政府が救済できる規模を超えすぎたために金融機関の損失を埋めきれることができなかったためだ。


[世] [画像] - 実質経済成長率の推移(1990~2010年)の比較(アイルランド、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、ドイツ)

アイルランドといえばどんなイメージだろうか?


1980年代まではポルトガルとならぶ西欧の最貧国のひとつであり産業といえば農業しかなかった。

しかし90年代に入ると法人税を大幅に下げることで外資を呼びこむことに成功。自国の産業も育ち、主にITや医薬品、金融業を中心に急速に発展し工業化もすすめ輸出立国として一気に先進国の仲間入りをした。上のグラフでもわかるように94年以降の成長はすさまじいい。

解雇規制もたしか強くないし、社会福祉制度もアメリカ型のようだ。

低い法人税と個人所得税の組み合わせで自由貿易・EU内における移民の自由などをうまく利用し成長したひとつのお手本の例であり称賛されるべき国だった。


しかし、リーマンショック以降、大きくなりすぎた金融機関の損失を埋めるために多額の税金を投入せざるをえなくなり財政が急激に悪化したのは周知のことだろう。


アイルランドの失敗の原因はどこにあったのだろうか?もちろん、精緻な分析はこれからなされていくべきことだろう。


個人的に思うことがいくつかある。(多くの人が言っていることでもあるが)

①ユーロに加入したことによって本来あるべき金利から極端に低利の金利での借り入れが可能になったことがアイルランドの金融機関ならびに国内の不動産バブルを起こしたこと。


やはり、これがやはり一番の原因だろう。アイルランドはECB(欧州中央銀行)が設定する彼らにとっては低すぎる政策金利のせいで本来の実力を超えて成長してきたのだ。その結果が金融機関の資産の膨張であり過剰なリスクテイク。さらに不動産バブルということができるだろう。

当然そのツケが今の金融機関の損失が国家を押しつぶそうとしている姿であり不動産市況悪化に端を発する国内景気の低迷といえる。

過度な金融緩和による実力以上の成長のツケは払わなければいけないといういい例だろう。


(個人的にはなぜアイルランドの長期金利がこのような高成長にもかかわらず低く抑えられていたのかということに若干の疑問がある。通常であれば金利は景気の過熱に対応して上昇すべきだからだ。このあたりに関してはいろいろ考え、調べていきたいと思っている)


②極端に低い法人税。と低い個人所得税、そして財政はバブル下で不動産取引税に依存。


という図。低い法人税は低い政策金利と相俟って投資を促進する。特にアイルランドの個人所得税と社会保障費に対する負担の低さも多くの企業にとってアイルランドに拠点を置くインセンティブになったと考えられる。

これらのミックスは外資を呼び込みながら国内の産業も成長させるのに非常に有効であったと考えられる。僕自身も日本の法人税はさらに引き下げられるべきと考えているからこの政策は間違いではないと思ってはいる。


しかし、上記のアイルランドのような組み合わせ当然、緩和的な財政政策として成長を潜在成長率以上に押し上げる要因であったとも考えられるだろう。(この点、法人税引き下げを主張する際には注意せねばならないと思う。)


彼らの中ではサプライサイドの障壁を取り除きさらに低い法人税のもとで順調に成長。わが国経済に一点の曇りなしという気持ちだったのではないだろうか?いや、多くの人がそのように褒め称えた。僕も褒め称えたい。


しかし、リーマンショックという大きなショックが訪れ不動産バブルの後に残ったのは実は上記の極端な低い法人税と過度に不動産取引税に依存した持続不可能な財政のあり方であったということだろう。なにせ法人税はわずか12.5%なのだ。


以上の二点を考え合わせると僕はやはり日本の「リフレ派」が唱えるリフレ政策は非常に危険だと思う。


まず、なんでもいいから金融緩和でインフレを起こして景気をよくしろと言う人たち。

日本の本来の実力の潜在成長率がどこにあるのかなんて彼らにとっては関係ない。(内閣府がいつも需給ギャップがーーと統計を出しているが潜在成長率を量るのは非常に難しい。実質ベースで年率1%程度しか日本の潜在成長率はないという試算も多々あるのだ)

なんでもいいからリフレで景気を浮揚させろという。しかし、させるはいいがおそらくその結果として実力を上回った経済成長のツケは必ず払わされるということがこのアイルランドの例からもわかるだろう。


また、一方で「上げ潮」派という人たちもいる。構造改革+金融緩和という主張だ。これもリフレ派の一種だろう。僕は構造改革(言葉の定義はあいまいで意味するところは人それぞれだろうが・・・)に関しては賛成だ。

しかし、極端な金融緩和を日銀に強要することは日銀の利上げのタイミングを遅らせて、やはり経済を本来の成長率以上に加熱させる可能性がある点は変わりがないだろう。


その上で僕が特に懸念するのはアイルランドの例のように各種の改革によって経済が成長軌道にのったのかそうではないのかの判断を政治家や日銀ができるのかということだ。しかも上げ潮派は財政再建はインフレと成長によって達成可能だから先送りせよという考え方の人が多い。しかし、一時的な経済の過熱で税収が増えたとしてもなんらかのショックによって経済が落ち込めばまた税収が減ってしまうのだ。財政再建が進まないどころかアイルランドのようにかえって悪化してしまうリスクはないだろうか?


このように考えると状況は違う面も大きいが、われわれはアイルランドを反面教師にしなければならないだろう。

彼らの成し遂げたサプライサイドにフレンドリーな政策はすばらしかったが、財政政策の舵取りを誤ったことやECBの作り出した低金利によって成長が過度に押し上げられていたことに対する認識不足という間違いも記憶にとどめておかねばなるまい。


サプライサイドでの改革を進めながらも、粛々と財政再建も進めていく。日銀は現在緩和的な金融環境を維持しているのであるから、これ以上の非伝統的な金融政策による金融緩和を強要しないというオーソドックスな政策こそが日本には必要だろう。


いずれにしても人為的なリフレ政策は非常に危険であるという結論がここでも導かれるのではないだろうか。


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参考記事

リフレに対する素朴な疑問(5 )(2010/11/18)
リフレに対する素朴な疑問(4) 長期国債を買えばいい?( 2010/11/11)

リフレに対する素朴な疑問(3) 貨幣でじゃぶじゃぶにすればいい?( 2010/11/4)

リフレ派への素朴な疑問(2) インフレってそんなにいいのか?( 2010/10/28)

リフレに対する素朴な疑問(1)  (2010/10/20)