全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー


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今回取り上げるのは、神奈川県の湘南地域では誰もが知っているケーキ屋さん「葦(Ashi)」です。地域に根づいた「ご当地」のケーキ屋として親しまれ、今年は創業から58年になります。

 

エネ経会議の会員でもある葦は、エネ経会議が実施する無料の省エネ相談を受けたことをきっかけに、エネルギーについて積極的に取り組み、大幅な電気代削減につなげました。 

 

葦本社の一階にあるカフェ

 

新電力への切り替えをはじめ、空調や照明などの設備を省エネ機器に交換したことで、省エネされたことに加えて快適性もアップしたとか。今回は地域とともに歩んできたケーキ屋さんの取り組みを通じて、中小企業には敷居が高いと思われがちな省エネの取り組みと効果について紹介します。

 

 ※会員でなくても受けることのできるエネ経会議の「エネルギーなんでも相談所」についてはこちら

 

◆今回の内容

 ・地域にこだわった老舗ケーキ屋

 ・空調の交換で大幅な電気代削減

 ・ショーケースの照明もLEDに

 ・「湘南電力」への切り替え

 ・省エネが日本経済を良くする

 

◆ 地域にこだわった老舗ケーキ屋

 

 葦は、拠点を置く平塚を中心に、茅ヶ崎、藤沢など湘南地域に10店舗をもつフランス菓子とパンのお店です。今回訪ねたのは、JR平塚駅前にある「葦」の本社。出迎えてくれた社長の芦川浩さんは、「ケーキには美味しさだけでなく、夢や楽しさがないといけない」と語ります。お父さんの代に始まった町のお菓子店を引き継ぎ、発展させてきた2代目になります。芦川さんは、お父さんには先見の明があったと言います。

 

 「もともとは菓子問屋をしていたんだけど、親父は企業規模だけで値段が決まってしまう問屋の世界に行き詰まりを感じたんですね。自分の店の個性を出せないと。それでこれからは日本人も洋菓子を食べるようになるだろうって、だいぶ早い時期からやり始めました」。

芦川浩社長

 

平塚駅西口にある葦の本社ビル

 

 1959年には、平塚駅西口に洋菓子を扱う喫茶店として最初のお店を出しました。その後、浩さんの弟さんがケーキ職人の修業を行い、1977年からケーキ屋さんとしての商売を始めます。葦は湘南地域では店舗を増やしていますが、東京の都心にお店を出さないか、と誘われてもこれまでは断ってきました。

 

 「今の時代を生き残っていくには、どこでも買えるのではなく、商品のブランド力が大切です。またナマモノを扱うので、地域が広がってしまうと商品のクオリティが保てなくなる可能性もある。どこでも作れるものではなく、手作り感のあるものを追求するためには、目の届く範囲で商売をしたい」と社長は語ります。

 

葦の人気商品のひとつ「湘南チーズパイ」

 

 ◆空調の交換で大幅な電気代削減

 

 葦が行った省エネ対策は、大きく分けて2つあります。ひとつは自社ビルの空調機器の更新です。2014年に、環境省の実施する事業の無料診断を受けて更新しました。それまでの空調機器は、各階ごとに調整できずに不便でした。たとえば夏の冷房では、カフェスペースがあり多くの人が出入りする1階を快適にすると、上の階にあるオフィスが寒くなってしまいました。また、設置から20年以上経った設備なので、故障がちでした。

 

 空調の設備機器の更新には、全額でおよそ3000万円がかかりました。初期投資としては大きな金額ですが、そのうち3分の1程度は、環境省が募集していた補助金を受けることができました。事前の省エネ診断で、機器を交換した場合はどれくらいの電気代を削減できるかシミュレーションすることができたので、社長としても決断しやすかったと言います。

省エネの中心となった空調と照明

 

 省エネ効果として、更新前は空調を含めた電気代として月に120万円から130万円ほどかかっていましたが、空調の更新後は月に90万円程度とのこと。月平均で30万円前後の削減効果がでているので、投資額は10年以内に回収できる見込みです。さらに空調の効きが良くなり、階ごとの調整ができるようになるなど快適性も向上しています。 

 

「うちはちょうど空調を交換するタイミングだったので、どうせやるなら大幅に省エネできる方がいい、となりました。やってよかったと思っています。省エネだけを優先して交換することはできませんが、まずは無料の省エネ診断をしてみて、タイミングが合えば機器を交換してみるというのはいいでしょうね。他の中小企業の経営者の方にもお勧めしたい」(芦川社長)。

 

◆ショーケースの照明もLEDに

 

 もうひとつの対策は2016年に交換した照明機器です。こちらは本社ビルだけでなく、全10店舗のうち8店舗で、蛍光灯照明およそ300基に加えて、ダウンライトなどもすべてLEDに交換しました。天井に加えて、ケーキのショーケースの明かりも特殊なLED照明に交換しています。

ショーケースのLED照明

 

 交換費用は総額で250万円ほどかかりましたが、設備の購入には補助金を入れず、2016年6月に全額を会社が支払いました。芦川社長は、補助金を使うと交換のタイミングを指定されるため時期が合わず、会社の都合で決められる自主財源で行うことにしたと言います。

 

 ただし、さまざまなタイプの照明を選ぶ際には、エネ経会議の専門家が経済産業省の補助金を活用して省エネ診断を実施。照明ひとつずつメーカーと型番をカタログから選び、すぐに発注できるようにしました。

 

 照明の省エネ率は65%、本社ビルと隣接する工場の照明に限っても、毎月10万円程度を削減できている計算になっています。初期投資の費用も、3年ほどで回収できそうな勢いです。芦川社長が特に効果を実感しているのが、ケーキのショーケースの照明を、蛍光灯からLEDに替えたことです。

 

 「普通のスリム管(蛍光管)を使うと青っぽくなり、お菓子が美味しそうに見えません。演色性も考慮して、昼白色に見える特殊なLEDに替えたところ、前より見栄えが良くなりました。また蛍光管と違って熱くならないので、冷房のエネルギーも節約できます。蛍光管は1年ほどで明かりが切れて、お店のスタッフが交換する際は一苦労でした。下手をすると割れてしまう危険もある。総合的に考えると、交換してよかったと思います」。

 

さまざまなタイプの照明をすべて省エネ型に交換した

 

◆「湘南電力」への切り替え

 

 機器の交換に加えて、電力会社を切り替えたことも電気代の削減に貢献しています。葦が本拠を置く平塚は、Jリーグで活躍する湘南ベルマーレのホームタウンでもあります。葦は、平塚の老舗ケーキ店として湘南ベルマーレの創設時からスポンサー企業になっています。

 

 そのベルマーレは、2014年にエネルギー事業を営むエナリス社と協力して、「湘南電力」という新電力会社を設立したことは、ご当地エネルギーリポートでも何度か紹介しています。湘南電力は、神奈川県内で電力の地産地消をめざしている小売会社です。その関係から、葦も電力の購入先を湘南電力に切り替えました。これによって電気代削減だけでなく、地域の自然エネルギー設備でつくった電気を購入し、その代金の一部を地域貢献に回すことができるようになりました。

葦はベルマーレの特製クッキーをつくり、平塚のスタジアムなどで販売している

 

◆省エネが日本経済を良くする

 

 葦でもっとも電気を使っているのは、ケーキを焼くためのオーブンです。しかし年中動いている機械を止めることができないため、オーブンを省エネ機器に交換することはできません。そこで、ある程度使用量が増えるとブザーが鳴る仕組みを取り入れたり、こまめに電気を切るなどして、無駄なエネルギー消費を減らす努力をしています。芦川社長は、エネルギーと経済の関係性についてこのように語ります。

 

 「ビジネスで売上を増やすことは、もちろん大切です。それと同時に、省エネによって出費を極力抑えるという経営努力も欠かせません。しかも省エネは比較的簡単にできるのだからやるべきです。東日本大震災のときは、エネルギーについての関心が高まったけれど、だんだん薄れてきています。でも会社経営者としては、エネルギーについていつも気にしておかないといけない。エネ経会議はずっと取り組んできたように、私は省エネに目を向けることは、日本経済を良くすることにつながると考えています」。

 

葦のケーキ工場の照明もすべてLEDになっている

 

 地域に根を張り愛されてきた「ご当地ケーキ屋さん」が手がける省エネ。そこには、経済性と環境性、そして快適性をアップさせる効果がありました。こうした先行事例を通じて、さらに多くの中小企業が省エネに関心を持ってもらいたいと感じました。

 

◆【お知らせ】ご当地エネルギーを描く映画の制作が進行中!

 

自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」を現在制作中です。監督は、「よみがえりのレシピ」という地域と食をテーマにした映画をつくった渡辺智史さん。ぼくも「おだやかな革命」にはアドバイザーとして関わっています。この映画には、「ご当地エネルギーリポート」で紹介している地域のエネルギープロジェクトが数多く登場しています。映画の公開を応援するためのクラウドファンディングが行われています。ぜひ応援よろしくお願いいたします。

 

映画の内容とクラウドファンディングについて詳しくはこちら

 

 

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猛暑が続きますね!いろいろなところで注意喚起がされていますが、くれぐれも熱中症には気をつけてください。今回のご当地エネルギーリポートでは、エネルギーと健康に焦点を当てていきます。

驚くことに、熱中症になって倒れる人の割合は、屋外と屋内が同じくらいになっています。さらに東京23区でこの5年間に熱中症で死亡した人のうち、なんと9割が、屋内で発見されていたことが判明しました(東京都監察医務院の調べ)。



外ではなく、屋内で熱中症にかかる人が多い背景には、ご当地エネルギーリポートでも紹介してきた日本の家屋そのものの致命的な欠陥がありました。これまでは、冬の寒さについての話題が多かったのですが夏の暑さについて考えてきましょう。また今すぐできる熱中症対策も合わせて紹介します。

◆今回のトピックス
・本当に昔と比べて夏は暑くなっているのか?
・熱中症対策の最大のポイントはココ!
・家のエネルギー効率を上げて健康に暮らす

◆本当に昔と比べて夏は暑くなっているのか?

室内の熱中症対策といえば、誰もが思い浮かぶのがエアコンの使用です。しかし「昔はエアコンなんて無かった」と我慢する人も結構いるようです。他にも「電気代がきになる」とか「エアコンの風が苦手」なので使用を控えるという方もいるでしょう。とはいえ、数十年前と比べて気温は確実に上昇しています。
 一方で、ブログやサイトによっては「実は50年前から平均気温はほとんど変化していない」という情報を流している方もいます。例えばこういうものですね。

「50年前の気温を調べたところまさかの結果が・・・」

これを見ると、「なんだ、メディアが騒いでいるけど、実は変わっていないのか?」と思ってしまう方もいるでしょう。でも本当なんでしょうか?データの見せ方が雑で、誤解を招いてしまうものです。この大雑把な数値にしたグラフで明らかに変化があるほど大幅に上昇しているとなると、日本は今よりはるかに大変な状況を迎えていることでしょう。

もっと細かく調査されたこちらの気象庁のデータだと、50年間で0.7度程度の上昇が見られています。その前の50年でもやはり0.6度程度上がっています。100年間で平均気温が1.3度というのは、地球規模で見ると大変な環境の変化になります。


    1890年から2010年までの平均気温の変化(気象庁)

さらに、平均気温というのは寒い日も一緒になってならされてしまうので、極端に気温が低い日があると混ざってしまうのです。それよりも、1日の最高気温が35度を越す「猛暑日」や、1日の最低気温が25度を下回らない「熱帯夜」が増加していることに注目してください。


    最高気温35度を越す猛暑日の数(気象庁)


    最低気温が25度以上となる熱帯夜の数(気象庁)

データを見る限り、夏場の暑さによる健康へのダメージリスクは、50年前と比べて確実に高まっています。くれぐれも「実はそんなに変わっていないのだから、人間が弱くなっただけ」「エアコンなんていらない」と考えずに、適切な冷房を使ってください。

◆室内の熱中症対策の一番のポイントはココ!

では次に、お金をかけない熱中症対策を考えます。アドバイスいただいたのは、以前のリポートにも登場した省エネのエキスパートである野池政宏さんです。

野池さんがもっとも重視するのは、強い日差しが入る窓まわりの対策。「よしず」や「すだれ」、「ブラインド」などを活用するのですが、注意したいのは、室内側ではなく必ず窓の外側につけることです。内側につけると、部屋に入ってくる熱自体はカットできません。外側につければ日除け効果は2−3倍になるのでオススメです。


すだれは必ず窓の外に

また、外出する際や使っていない部屋があれば雨戸やシャッターを閉めておきましょう。日差しをシャットアウトすることで、部屋の温度が上がりにくくなり、夜に帰宅した際に涼しく過ごすことができます。生活に支障がない程度に暗い部屋を作るというのがポイントとなります。とにかく「日除けは窓の外側で」を徹底したいところです。

その上で、窓の内側には「厚手のカーテン」や「遮熱効果のあるカーテン」などで2重に対策をすると効果が上がります。こうしたカーテンは冬の断熱性を高めることにもつながるので、一石二鳥です。

窓については開閉も大切です。暑いと窓を開けて風を通した方が良いと思いがちですが、多くのケースでは逆効果になっています。むしろ外の暑い空気を室内にため込み、夕方以降も室内の温度が下がらない原因を作ってしまうからです。窓は外の方が暑い時には開けず、夕方に気温が下がってから開けるようにしましょう。窓を開けて風を通した方が良いのは、家の中より外の方が涼しい場合のみになります。

窓を閉めたらエアコンの出番になります。エアコンは電気代がきになるところですが、電力消費量が多いのは起動する最初だけで、運転が安定すれば扇風機とそれほど変わらなくなります。大きな特徴として、室温だけでなく湿度を下げる効果もあるので、28度など高めの設定にしても十分に涼しくなります。

ちなみにエアコンについてはこまめに付けたり消したりすると、かえって電力消費量がかかることは知っておきましょう。よく知られているように、扇風機やサーキュレーターを併用すると冷たい空気が循環するので、より効果的です。

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15年以上前のエアコンを使っているなら思い切って買い替えよう。効率が飛躍的にアップする

いずれにせよ、わずかな電気代を我慢して、体調を崩して医者にかかるようでは本末転倒です。エアコンの風が苦手という方は、最近は風が直接当たらないようにする機器なども販売されているので、活用してみましょう。

◆家のエネルギー効率を上げて健康に暮らす

ここまでは、現状でそれほどお金をかけずにできる対策でしたが、ご当地エネルギーリポートでは、あえて大胆にお金をかけて、一歩上の快適性をめざす方法をオススメしています。それが、家のエネルギー性能の見直しです。

この方法は初期投資はかかるのですが、長い目で見れば光熱費が下がり、そして何より快適性が向上して、健康につながります。長期的に見れば投資した費用の元を取ることは十分に可能です。
 
もっとも力を入れたいのは、やはり熱の出入り口である窓まわりです。特に内窓をつけることで、窓から入る熱や冷気が大幅に遮られ、夏も冬も快適に過ごすことができるようになります。この内窓は、賃貸住宅でも設置することは可能です。最近では、ホームセンターやインターネットなどで簡易版の内窓を作れるキットが販売されているので、手作りすれば費用を大幅に削減できます。


内窓にはいろいろなタイプがある。最近では数千円台でDIYできるものも

もっと大掛かりなリフォームでは、断熱性を上げる工夫をしてみましょう。日本では、「断熱を厚くすれば冬は暖かくても夏はかえって暑くなる」と思われる方も多いようです。しかしドイツの家づくりに学んで、レベルの高い高断熱を提供している低燃費住宅代表の早田宏徳さんはこのように言います。

「しっかりと機密、断熱を高めることは、魔法瓶のような環境を作るようなものです。魔法瓶は温かさも維持するし、冷たさも維持しますよね?それと同じことだと考えてください。家全体でやる方法もあるし、一番時間を過ごす部屋だけ部分的に工事する方法もあります。ある程度費用はかかるのですが、それでも建て替えるよりは大幅に安いし、何より快適に過ごせるようになります」。
(※)


「低燃費住宅」の窓はしっかりと断熱してくれる樹脂製トリプルサッシの窓

早田さんは、ドイツの家づくりの研究を通して、日頃から日本の住宅のレベルが世界の先進国に比べて大きく劣っていると感じています。早田さんの広める「低燃費住宅」は、湿度を調節する断熱材や壁材を使っているので、驚くことに、冬だけでなく夏も温度と湿度が一定に保たれています。

あのジメジメした暑さに苦しむことがないというだけでも、単なる省エネの話を越えた魅力がありませんか?近いうちに低燃費住宅の宿泊体験のリポートも紹介したいと思います。

熱中症対策として、ひとまずはお金のかからない対策をしつつ、長期的に家そのものの性能を見直してみるのがいいかもしれませんね。

※魔法瓶の例はドイツ並みの住宅の高いレベルの断熱性を前提に語られているものです。断熱性にもさまざまなレベルがあるので、単に断熱性をあげるだけで夏を快適にすごせるようになるというわけではありません。

◆関連リンク
・1985年レベルの省エネを(野池政宏さん)
・ドイツに学ぶ循環型の街づくり(早田宏徳さん前編)
・日本は世界一という幻想を捨てよう(早田宏徳さん後編)


◆好評発売中!
『そこが知りたい電力自由化–自然エネルギーは選べるの?』
(著:高橋真樹/大月書店)




 ついに始まった電力自由化。
 私たちの暮らしはどう変わるのか?
 原発や 自然エネルギーはどうなるのか?
 「どこが安いか」の情報の中で抜け落ちる
 価格より大切なこととは?
 電力自由化とこれからの暮らしについて
 わかりやすく伝える入門書


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2015年最後のご当地エネルギーリポートです。今年は、再エネだけでなく省エネも含めて幅広く伝えてきたつもりです。来年4月からは電力の小売り自由化も始まりますので、そのテーマの記事も増やしていきたいと思います。

さて今回は鈴木悌介さん(鈴廣かまぼこ副社長)へのインタビューの後編です。前回は、鈴廣が新しく建てた省エネビルを紹介しました。50%以上のエネルギーを無理なく削減できるビルを建てただけではなく、設備面の価格もそれほど高額ではないため十分に元が取れる、という話は興味深かったですね。さて今回は、経営者の視点から考える原発の問題や、電力自由化が近づいた今、小田原をはじめ、地域には何ができるかといった話を伺っています。


鈴木悌介さん(11月に小田原で開催された「市民地域共同発電所全国フォーラム2015」にて)

◆湯沸かし器のために払うコスト

高橋:悌介さんに始めてインタビューさせていただいたのは、原発事故があってエネ経会議を立ち上げた後ですね。福島原発事故によって大きな変化があったとのことでしたが、事故から5年近くが経つ現在、改めて企業経営者という立場から原発についてどう考えているかをお聞きしたいと思います。

悌介:私は常々、経済界で生きる人間だからこそ、お金のモノサシばかりを基準にするのではなく、命のモノサシという視点で考えなければいけないと思っています。でも原発については、単にお金のモノサシからだけ見ても、まったく見合わないものです。どこにも経済合理性がないのですから。

火力発電にしろ、原発にしろ、やっていることをおおざっぱに言えば、お湯を沸かしてその蒸気で発電タービンを回すということです。つまり単なる大きな湯沸かし器ですよ。特に原発についてはたかがそんなものを動かすために、事故があったら薬をいつ飲むのかとか、何十万人の避難経路をどうするのかとか、何でこんなことを心配して暮らさないといけないのかまったく理解できません。そんな危険な機械は不要ではないでしょうか。


2015年に再稼動をした鹿児島県の川内原発

問題は山積みです。例えばゴミ問題、つまり使用済核燃料の処理は一向に解決のメドが立ちません。我々企業が産業廃棄物を出す場合は、その処理方法や費用を明確にしないとふつうは行政から許可されません。でも原発だけは、はっきりしなくても大丈夫というのもおかしい。

それでも大きな経済団体には、原発をやめられない事情があります。確かに、原発政策を変更する事は、狭い意味での日本経済への影響が避けられません。大手電力会社と原発関連会社は直接的なダメージになるでしょうし、そこにお金を貸している政府系の銀行やメガバンクなどにとっては財務的な経営問題になります。

それがわかっているから、誰も自分が社長の時は決断できないのです。株主の利益に反することについては経営者が動けないという、上場企業の経営者の悲哀です。誰が悪いということではなく、そのような仕組みになってしまっているのです。

「原発が必要だ」という経済界が語る理由がコロコロと変わってきたのも、そのためです。最初は「原発が動かないと電気が足りなくなる」とか、「電気代が上がって産業が空洞化する」と脅していました。でも実際には電気は余っているし、しょっちゅう停電する発展途上国に工場を移そうという経営者なんていないでしょう。

屋根に太陽光発電設備を設置したかまぼこ販売所

次に出てきたのが貿易収支が赤字になるという話です。原発の代わりに火力発電用の燃料輸入を増やした事で「日本の国富が何兆円も流出している」という内容でした。でも、実際には輸入金額は増えていても、輸入量はほとんど増えていません。これは主に急激な円安が理由でしたが、原発停止のせいで損をしていると、すり替えられたのです。

そして現在は、エネルギーの海外依存度を減らす「安全保障のために必要」という意見が出ています。でも原発をたくさん維持する事こそ安全保障的に一番危ないですよね?欧米では原発でテロが起きる事を最も恐れているのです。いずれの理由も本当の理由ではないから、説得力がありません。ただ、私のような小さな会社の一経営者がこのような問題点をいくら指摘してもなかなか変わらないので、地域で結果を積み上げてしていくしかないかなと思っています。

◆電力もお金も地域で回す

高橋:悌介さんは以前から、経済だけでなくエネルギーも地方分権の時代だと言っていました。原発事故から5年で、具体的にどのような動きに注目され、どういった収穫があったと思いますか?

悌介:確実に言える事は、地域で自分たちがエネルギーを手がけようという動きは、全国で増えたということです。もちろんFIT(固定価格買取制度)などの政策はきっかけにはなりましたが、今ではFITだけに頼らず、次のステップに移ろうという意識に変わってきている所も多いようです。エネルギーを地域で生み、消費し、所有するということを目指す動きもそのひとつです。

鈴廣本社ビルの屋上に設置された太陽光発電設備(出力は約40キロワット)

高橋:鈴廣のある小田原では、具体的にどのような動きになっているのでしょうか?

悌介:代表的な例が小田原の地域電力会社である「ほうとくエネルギー」や、新電力(PPS)として電力の小売り事業に名乗りを挙げた「湘南電力」です。例えばほうとくエネルギーの発電所でつくった電気を湘南電力が買い、それを鈴廣が買って消費するという流れも不可能ではなくなりました。そして湘南電力はその利益の一部を、地元のサッカークラブである湘南ベルマーレに寄付する等、地域に還元する仕組みを作ろうとしています。

2016年4月には電力自由化がありますから、一般の人たちにもそのような選択肢が広まることになります。地域主導という意味では、このような動きが全国に出て来ることが大事ですね。

高橋:今までは地域で発電しても、大手電力会社に売電するという流れが主流だったのが、地域の小売り会社と契約して、電力やお金を地域で回せるという形が作れるようになるということですね。

◆電力自由化を地域に活かす方法

悌介:地域主体という意味では別の動きも起きつつあります。小田原では、これまでライバル関係にあった都市ガスの会社とプロパンガスの会社が手を組もうとしています。今までは同じ地域でシェア争いをしていた商売敵でしたが、小さな地域で争っていても、外から大手がやってきてどっちもやられてしまいます。今後はガスだけとか、電気だけを見ていれば良いわけではなく、トータルでエネルギーを考える時代になってきたのでなおさらです。

私は、発電所を持っているほうとくエネルギーと、小売りができる湘南電力が協力するだけでは不十分だと思っています。例えば湘南電力は、地元企業とはつながりがありますが、1軒1軒の家庭とはつながっていません。そのネットワークを持っているのがガス屋さんです。だからほうとくエネルギーと湘南電力、そして小田原の都市ガスとプロパンガスの会社が手を組めば良い。

新社屋の窓はサッシは木材。壁の厚さも20センチで、断熱効果も高い

例えばガス会社が湘南電力の代理店のようなことをやれば、お客さんにとってもメリットになります。価格面だけで競争すれば絶対的に大手が有利ですが、地域ぐるみでやれば、素早いメンテナンスや丁寧な対応などサービス面での価値も出てきます。地域密着でやっているという安心感もあるでしょう。発電から小売りまで、また電気もガスもと、エネルギーを地域で協力してトータルでエネルギーに取り組むというビジョンも描くことができるはずです。

高橋:エネ経会議の役割としては、そうした地域の取り組みをサポートしていく立場になるのでしょうか?

悌介:そうですね、エネ経会議には「エネルギーなんでも相談所」があります。ここは中小企業を対象に、省エネのノウハウをスペシャリストの方が無料で相談に乗っています。新たに設備投資をしても、省エネできれば短期間で投資回収できる事もあります。中小企業は、大企業と違って省エネの専門家を雇えるわけではないし、日々の業務で手一杯なのでそこまで考えられませんから、このような場を活用してもらいたいですね。

省エネ設備の導入にかかる資金調達についても、現在は城南信用金庫とエネ経会議が組んで、パッケージにしようとしています。地元の信用金庫のお金を使って地域の省エネ設備が増えることになれば、地域内でお金が回ることになります。単に省エネをするだけではなく、そのように地域の中に経済循環をつくることにつなげる動きもできるはずです。城南信金がカバーしているのは東京と神奈川の東側なので、まずはそのエリアで広げながら、他の地域でも応用できる仕組みを作っていきたいと思っています。

鈴廣の新社屋に設置された自然光を利用する「太陽光照明」

◆今は大きく変わるチャンス

高橋:原発事故の前に比べたら、エネルギーに関心を持つ人がだいぶ増えたのではないかと思いますが、それでもまだまだ大半の人にとって遠い問題であるのも確かです。どのように関心を持ってもらおうと考えていますか?

悌介:企業の経済活動からすれば、やはり「儲かるかどうか」は大きなウェイトを占めています。だから「これやると儲かりますよ」と言える事例をたくさん作るしかありません。この新社屋もそうですが、このような仕掛けをどんどんしていきたいと思います。

私は小田原箱根商工会議所の会頭を務めています。今年の5月に箱根の大湧谷の活動が活発化してから観光客が減少し、この秋は厳しい状況でした。現在は少し戻ってきていただいていますが、今後は観光のあり方を見直し、新しい取り組みもしていかないといけないと考えています。

というのは、大湧谷の活動が活発になるのは特別な事ではなくて、何十年という長い歴史で見れば繰り返していることなのです。ところが2007年から国が噴火警戒レベルというのを設定してリスクを見える化しました。自然環境は変わっていないのに、社会環境が変わったことで問題になるようになってきたんです。

省エネ性能の高い鈴廣の新社屋と鈴木悌介さん

観光業はそういう環境の中で商売しているという認識に立った上で、どのような商売のあり方をすれば良いのかという見直しをしていかないといけなくなっています。そのような議論する過程では、エネルギーの有効利用の話も盛り込んでいけたらいいとは思っています。

箱根にしても小田原にしても危機感はありますが、「大変」というのは漢字では「大きく変わる」と書きます。人は変化を嫌います。変化は苦痛を伴うことが多いからです。しかし、「大変」な状況とは同時に、大きく変われるチャンスでもあると思うのです。今までのままではいけないとは思っていたが、変えることができなかったことを変えるチャンスだと思います。地域を大きく変える。箱根だけでなく、各地域でエネルギーに取り組んでいる人たちの思いも同じことだと思います。日本の国家レベルではまさに3・11がそうだったわけです。あんなことを繰り返してはいけない。だからこそ、さまざまな実例を形にしていきたいと思っています。

※記事の前編はこちら 50%以上のエネルギーを削減する省エネビルを探訪


2015年、ご当地エネルギーリポートへの応援、どうもありがとうございました。2016年もエネルギーシフトの最前線を伝えるため全国を駆けめぐります。どうぞよろしくお願いします。



エネルギーは快適に削減できる!

高橋真樹著『ご当地電力はじめました!』
(岩波ジュニア新書)
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