第87回:注目の新電力会社紹介③(パルシステム電力) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

電力自由化がはじまってまもなく4ヶ月。全国ご当地エネルギーリポートがオススメする自然エネルギーの普及を目指す新電力会社もだいぶ増えてきました。注目の新電力会社特集企画の第3弾となる今回は、生協の一つであるパルシステム電力を紹介します。パルシステム電力はパルシステムの組合員を対象に、今年の10月から供給を開始する予定になっています。

◆トピックス
 生産者のエネルギー事業を手助けする
 電力の8割が自然エネルギーに由来


配送センターの屋根に設置したパネル。写真はパルシステム八王子センター太陽光発電所(提供:パルシステム)

◆生産者のエネルギー事業を手助けする

首都圏を中心に展開する生協の一つ、パルシステムは、組合員数が約120万世帯の規模の大きな存在です。パルシステムが電力供給を本格的な事業として取り組むようになったのは、福島第一原発事故がきっかけです。2012年1月に、パルシステムエネルギー政策として、「エネルギー使用を減らす、原発を止める、再エネに切り替える」という3つの柱を打ち出しました。電力小売事業に参加したのも、その政策に基づいたものです。

パルシステム電力の特徴は、これまで食の分野で生産者と連携しながら進めてきたのと同じように、エネルギーでも生産者に協力するという立場に徹していることです。発電設備についても、自らが投資して開発するのではなく、ふだんパルシステムと取引・交流のある食品の生産者が自分の土地で発電所を作りたいと希望した際に、資金調達やノウハウの支援をしようという立場を取っています。


パルシステム電力が契約している発電所の一つ、岩手県二戸市にある鶏糞バイオマス発電所(十文字カンパニー所有・提供:パルシステム)

多くの生産者はエネルギー分野の事業が初めてなので、そうした事業に銀行が融資するのは難しいというケースもあります。しかしパルシステムが一緒に参加することで、銀行も融資がしやすくなるといった効果も出ています。現在の設備の種類は太陽光とバイオマスの発電所がほとんどです。しかし太陽光発電ばかり増えてしまうと、発電電力量が昼間の時間ばかりに偏ってしまうので、今後は夜間も発電できる小水力発電などを生産者とともに増やしていきたいとしています。

パルシステム電力の野津秀男さんは言います。「食べ物と違って電気は実感しにくいものですが、今後は契約した地域の生産者の発電所に組合員が訪れる場を作るなど、顔の見える形を作ることで、みんなで応援する形を作っていきたいですね。安売り合戦をするのではなく、パルシステムのエネルギー事業を通じてその地域が発展していくことにつながればよいと思います」。


パルシステム電力の野津秀男さん(右)と、パルシステム連合会の小沢敏昌さん


◆電力の8割が自然エネルギーに由来

電力小売事業としては、2013年4月から自社の工場など36ヶ所の事業所向けに、高圧電力の供給を開始しました。その実績を元に2016年10月から、まずは東京電力エリアのパルシステムの組合員1000世帯向けの低圧供給を始め、徐々に他のエリアにも広げていく予定にしています。そして2020年までには、採算ラインである5万世帯の契約という目標を掲げています。

電気料金は東京電力とほぼ同じ水準で、地域を応援するための費用を少しだけ上乗せする形になります。(従量電灯B料金と同額で一月プラス100円 ※税別)パルシステムが実施したアンケートでは、自然エネルギーによる電気を購入したいという組合員の声は、着実に高まってきています。

電源の内訳としては、自然エネルギーの割合が8割程度(すべてFIT電源)を予定しています。生協系の小売会社は、電力の需給調整について他の新電力会社に任せているケースが多いのですが、パルシステムは今までの経験があるのですべて自前で調整しているのが強みになっています。現在の制度や発電所の状況では、自然エネルギーの割合を高めると採算性が厳しくなるのですが、需給調整を自らコントロールすることで、なんとか割合を高めていこうとしています。

野津さんは「エネルギーを扱う目的は、地域づくり」と位置づけ、このように語ります。「ただのモノ売りだったら、私たちが電力事業をやる意味がありません。エネルギーによって都市生活者と地方をつなぎ、消費を通して地域を変えていくという方向性は、パルシステムがこれまで長年やってきたことと通じているのです。食についても昔は『無添加』や『有機』という価値が理解されませんでしたが、今では社会に受け入れられるようになってきています。電気についても自然エネルギーを消費者が選ぶことによって、社会を変えるきっかけにすることができると思っています」。

試行錯誤を繰り返しながら、長期的な視点で生産者や地域とともに発展することをめざすパルシステムの電力小売の取り組み。このような取り組みが着実に広がることで、今後は「自然エネルギーの電気を買う」ことが特別なことではなくなってくるかもしれません。


パルシステム相模センター太陽光発電所(提供:パルシステム)

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