全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー


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まもなくあの3•11から5年を迎えます。奇しくも本日、高浜原発3、4号機の運転差し止めの地裁判決(仮処分)が出ました。古びた遺物にいつまでもすがろうとする人たちはまだいますが、長い目で見れば原子力という産業はなくなっていくということを象徴する出来事となりました。

そこを無理に存続させようとすればするほど、新たな大事故のリスクが高まっていきます。発電することが目的であるとすれば、他にも代替手段がいくらでもあるのに、あえて原子力というメリットには見合わない高すぎるリスクを選択をし続ける、ということはあまりに非合理ではないでしょうか。

今回は前回に続いてドイツ在住の環境ジャーナリスト・村上敦さんの話を紹介するのですが、ドイツの話を聞いても、その辺りに大変な意識の差があるのなと感じます。

さて今回のテーマは、ドイツで進むエネルギー転換と経済の関係についてです。エネルギー政策の取り方によって、経済にはどのような影響が出ているのでしょうか?そして再エネを推進したことで現れた成果とともに、再エネが増えたことによって課題となってきた点についても村上さんにお聞きしました。

◆今回のトピックス
・選ばれた経済と選ばれなかった経済
・課題は電力の過剰供給

◆選ばれた経済と選ばれなかった経済

ドイツでは、単なる電源の置き換えを意味するエネルギーシフトという言葉ではなく、エネルギー分野に関する物事を「大転換する」という意味で「エネルギーヴェンデ」という言葉が使われていますが、いずれにしても再エネや省エネの普及政策が10年以上にわたって続けられてきました。

エネルギーと経済の関係ということですが、2つの選択肢のどちらを選ぶかということで、当然お金の流れは変わってきます。何か選択をするということは、それに関するプラスの影響とマイナスの影響が出てくることを意味します。選ばれた方の分野の経済、つまり再エネや省エネについてはもちろん金回りが良くなるからうまくいっている。一方で選ばれなかった方の経済は、確かにお金回りが悪くなっています。


ドイツ・フライブルクのソーラー住宅地(撮影:村上敦)

それが最も顕著なのは、ドイツの四大電力会社です。ここ3-4年で4社とも経営が急速に悪化し、そのうち2つは会社を分社化しました。既存型の火力や原発などの電源を扱う会社と、送電網と省エネ、そして再エネなどの分野の会社に分けています。

もしぼくが5年前にこんなことになるよと言っても、ドイツ人の誰もが信じなかったようなことが実際に起きている。その背景には、再エネが普及したドイツが電力を過剰供給していて、電力取引市場の値段が下がりすぎているから四大電力会社のマイナスが大きくなってしまったということがあります。

でもこのことは、単純に良いとか悪いと判断できるものではありません。社会にEメールが普及すると、ファックスは衰退しました。携帯が広がって固定電話も減少しました。その代りに、スマホとか新しいモノが登場するようになりました。当然、四大電力会社にとっては大変な危機なのですが、それはエネルギーだけでなくあらゆる分野について言えることです。



ドイツでエネルギーヴェンデが選ばれ、国民に支持されています。それは今のドイツ人が2050年に向けて、どういう社会を子どもたちに残したいかと考え、「再エネと省エネでやっていこう」という選択をしたことを意味しています。

では、そういう選択をしたからドイツ経済全体が悪くなったかと言えば、そんなことはありません。むしろドイツ経済は好調です。ではエネルギーヴェンデによって良くなったのかというと、そういうことでもありません。この政策にしなくても、今の状況は変わっていなかったかもしれません。

何れにしても、社会を動かす多数の要素の中で、エネルギーという一つの部門の方針を変更したからといって、ドイツの経済や社会が崩壊するようなものでは全くないということです。

日本はどうでしょうか。確かに日本の名目GDPは国際比較における地位が下がり続けています。でもだからといって、たかだかエネルギーのことくらいを国民の希望に添う形で組織できないほど、日本の持っているポテンシャルや技術が低いわけではありません。再エネや省エネで進めたいと決めたら、決めたなりに何とでもなる話です。


村上敦さん

ドイツでは、まず何が自分や地域にとっていいのかを決めます。日本では意見を決める前に条件を見て、「こういう選択しかないよね」と消去法で決めているように見えます。だから、大きな方針としてどういう選択をしたいのかということが見えてこない。エネルギーについては特にそう思います。

もちろんそれによって儲かる企業と儲からない企業、潤う地域とそうでない地域は確実に出るでしょう。でもその選択によって、日本という国の社会や経済が崩壊するような恐れはありません。「たかが電気をどうするのか」ということを日本の中できちんと議論できなかったり、決められない状況はおかしいのではないでしょうか。

◆課題は電力の過剰供給

もちろんドイツにも課題はいくつもあります。ドイツのエネルギー分野の現在の最大の課題と言えるのは、電力の過剰供給です。多くつくりすぎているんですね。メルケル首相は、誰にでもいい顔をしたがる人です。アンケートの結果を見ながら、政策を決めているようなところがある。だから再エネを進めることで市民にもいい顔をする一方で、石炭業界や大手電力会社にも愛想を振りまいてきました。 

ドイツでは現在、年間の発電出力の約30%が再エネ由来になっています。本当は再エネが増えた分だけ、石炭火力を減らすべきなのに、石炭業界の反発を恐れてそれをやってきませんでした。

だから過剰供給が起きている。供給力が大きすぎると、電力の市場価格が下がって、新しい発電所が止まってしまいます。減価償却の終わった古い発電所を無理やり動かすよりも新しい発電所の方が、1キロワット当たりの発電単価が高いからです。その代わり、減価償却の終わった古い褐炭とか石炭の火力発電所が動いているんです。それがいつまでたっても手放せないということになっている。



でもそれは社会にとっては不幸な事です。特に石炭の中でも質の悪い褐炭を使った発電所は、CO2だけでなく汚染物質をたくさん出すので住民の健康問題にもつながる。本来は早い段階で、原子力だけでなく褐炭発電所も止めましょうということを決めるべきでした。昨年(2015年)、ドイツの環境大臣が脱褐炭をめざすと初めて発言しました。でもぼくからしたら問題になることは3年前からわかっていたことなので、もっと早くやらないといけなかったと思っています。

なかなか止められなかった背景の一つには、EUの排出量取引制度がうまくいっていないということもありました。欧州にはCO2を出せば出すほどお金がかかる制度になっていました。CO2をどこまで出していいか(キャップ)、というのは国別とか産業別に割り振られていて、その割り当てを越えた分はお金を払ってよそから買ってこなければいけない(トレード)ということになっています。

でも南ヨーロッパの経済が崩壊して、経済危機が起きました。それによってキャップの排出量がダブつくようになっています。だからCO2の取引そのものも、ほとんどタダ同然で行われているので、褐炭発電所でいくら出しても追加費用がほとんどかからないということになってしまっています。本来は政治的にキャップの引き締めを行い、トレード価格の適正化をしなければなりませんが、今のEUではそれを実行できないでいます。

過剰供給の影響は、ドイツ一国ではなく、周辺の国々にも広がっています。ドイツでは国内で消費するよりも7~8%多く電力を生産しています。その電力はオランダやフランス、オーストリア、デンマークなどに輸出されている。本来は、エネルギー安全保障の観点からも、自国の消費量くらいは自国で作るべきなんです。もちろんそれぞれが発電するタイミングは違うので、輸出入はあってもいいけれど、どこか一国に依存するというは危ない。



ドイツが過剰供給すると電力価格が低くなります。そうなるとオランダやオーストリアといった国では、価格競争に負けて自国の火力発電所を閉鎖してしまっています。ドイツの再エネはまだまだ増えますから、その分の電源を減らすということを政策的にきちんとやるべきです。これがまず緊急の課題でしょう。

そしてその次の課題としては、再エネが増えると需給調整をする必要があるので需要側、供給側のどちらものフレキシビリティ(柔軟性)をどのように高めるかといった課題があります。また、エネルギーとは電力だけではありません。

熱や交通の部門と電力をどのように組み合わせるのか、同時に交通でのエネルギーの効率化をどうするのかについては、まだあまり対策が進んでいません。でも、そういった課題は楽しみな課題だとも言えます。新しい分野ですから、新しい技術や新しい発想、新しいプレイヤーもたくさん出てきていますから。ですから私は、ドイツという国がどんな風に様々な課題を解決し、道を切り開いていくのか、そこに注目して日本に紹介していきたいと思っています。

◆高橋真樹の感想

村上敦さんへの取材を終えて改めて気づかされるのは、国家レベルでも地域レベルでも、将来のビジョンを議論し、その目標に向けて今必要とされることに向けて行動することの大切さです。エネルギーについては、いろいろと誤解されていることがあったり、恐怖心が煽られたりすることで、自分のやりたいような選択ができないかのように思わされている部分があるのではないのでしょうか?村上さんは、その辺りをもっとシンプルに考えれば良いんだよということも言ってくれているように感じました。

今回は触れられませんでしたが、村上さんが代表を務める「クラブヴォーバン」というグループでは、ドイツのようなビジョンを持ったまちづくりを展開していこうとする日本各地の自治体が学び合う活動をしています。こういう取り組みから、日本でも地域の将来を見据えたエネルギー政策が広がっていくように感じます。クラブヴォーバンについては、以前紹介した早田宏徳さんのインタビューで一部紹介しているので、参考にしてください。
ドイツに学ぶ循環型の町づくり

村上さんインタビュー前編はこちらドイツで起きていることがなぜ日本で理解されないのか?

◆関連リンク
クラブヴォーバン 




自然エネルギーでまちづくり

高橋真樹著『ご当地電力はじめました!』
(岩波ジュニア新書)

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