『バックキャストでものを考えるということとは?』 Emileのコラム157 | 地球村研究室

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厳しい地球環境制約の中で心豊かに暮らすには?沖永良部島で実践しながら考えたいと思っています!!

 4月16日 星槎大学サテライトカレッジin沖永良部島が開校した! 島の90歳ヒアリングを通して、毎月開いている酔庵塾の議論の中で発案され、沖永良部シンポジウムで多くの方にその可能性についてご意見を頂き・・・・3年が経過した。高野山でのシンポジウムの折に星槎大学の井上学長に構想をお話しして2年、長いのか短いのかわからないが、やっと『島の大学』構想のかたちが見えてきた。今年度中には、廃校になった保育所を改修して文化基地をつくり、その中に大学機能が移管される予定だ。サテライトカレッジでは、星槎大学の通信制カリキュラムと島独自のリーダー育成カリキュラムを合体させる予定である。東北大学で2004年から2013年までの10年間試行錯誤を重ねながら考えてきた社会人のリーダー養成教育 (高度環境政策・技術マネージメント人材養成ユニット(SEMSaT) 社会人大学院)の成果をできるだけ反映できればと思う。

18日は、知名町『あしびの郷』大ホールで、町長はじめ議員さんたち、小・中・高等学校の校長、多くの町民の皆さんに出席頂き、開校式と第1期生の入学式が挙行された。圧巻は、島人による交響曲第9の方言バージョンの合唱、何とも素敵な、感動的な時間を頂いた。

もちろん、これからが大変… 大学運営の資金集め、学生のフォロー、カリキュラムの醸成、新規学生の勧誘・・・・ どうかこれからも、御支援頂きたく!! 宜しくお願いします。

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国の申請書類などにも、『バックキャスト視点で検討したうえで・・・・』という文言が多くみられるようになった。この思考法は今の時代にとても重要な方法であり、多くの機関がそれにやっと気づき始めたと言う事なのかもしれない。

一方で、この思考をどれほど理解しているのか、使いこなせるのかと言う事になれば、残念ながらとても汎用的になっているとは言い難い。

我々の思考回路は、基本的にはバックキャスト思考とは正反対のフォーキャスト思考である。フォーキャスト思考とは、今を原点として目の前にある問題を解決する方法である。逆にバックキャスト思考とは、問題の原点となる制約を明らかにし、さらにそれを肯定することで解を考える方法である。よく『バックキャスト思考とは未来のあるべき姿を考えてそこから逆に現在を観ること』などと解説しているものがあるが、それは大きな間違いである。未来のあるべき姿を考えることそのものがフォーキャスト思考だからである。

 

今、なぜこのような思考が求められているのか? フォーキャスト思考は制約を排除する思考法である。一方、バックキャスト思考は制約を認めて解を求める思考であり、現在、解を求められる多くの問題が制約を排除できないからである。例えば、家の明かりを例に考えてみよう。『居間の電球が切れた!』さてどうする? フォーキャスト思考で考えると『切れた電球を新しいものと取り換える』という解が見えてくる。これをバックキャストで考えると『少し暗くなった部屋をどうやって楽しもうか?』ということになる。少しくらい暗くなっても平気だね!いっそ電気を全部消して、窓から星やお月様を眺めてみよう!こんな暮らしのかたちも見えてくるのかもしれない。この例では、電球が切れたという制約に対し、新しいものに取り換えるという『制約の排除』が可能である。しかし、地球環境問題ではそうはゆかない。今まで、節水や節電、省エネというフォーキャスト思考での対応をしてきたが、今後ますます厳しくなる地球環境制約の中でさらなる我慢を子供や孫に強いるのか? あるいは、色々な商材が売れなくて困っている今、相変わらず消費拡大という右肩上がりの政策が役に立つのか? 地方では、少子高齢化・人口減少・財政逼迫の中で今後も箱物行政を続けるのか? 等々考えれば枚挙に暇がない。制約を排除できない問題が急激に増加しているのである。これらに解を与えるには、バックキャスト思考を取り入れなければならない時代に入っているのだ。

 

ただ、このバックキャスト思考、習得にはなかなか骨が折れる。筆者も、この思考法を使って戦略立案をする社会人のための大学院を創設し、10年間教えてきたが、使いこなせるようになった学生は残念ながら1割にも満たない。それは、脳の報酬系(早く答えが欲しい)との戦いを必要とするからとも言える。フォーキャストに比べて、解を出すために少し遠回りをしなければならないからだ。

ただ、すでにいくつかの例を挙げたように、従来の延長では解が出せない事例が、今、急激に増えている。制約を排除できないからである。制約を正面から受け止めて、制約の中で心豊かな暮らしが出来るような解を出すことが求められているのである。

開校した『星槎大学サテライトカレッジin沖永良部島』でも、是非この思考を自由に使いこなせる学生を育ててみたいと思う。

 

バックキャスト思考の最も初歩のトレーニング課題を一つ提示してみたい。『大学を出て3年、彼は東京で私は京都で仕事をしています。二人ともとても充実した仕事を見つけたと思っていますが、遠距離恋愛で、最近では会うたびに喧嘩になってしまいます。本当はそろそろ結婚したいのですが… どうしたらよいのでしょうか?』さて、どんな解が導き出せるだろうか?