『織姫たちの学校』への招待状 | 越境としての古代

越境としての古代

 日本古代史は東アジア民族移動史の一齣であり、それは長江文明を背景とする南船系倭王権と韓半島経由の北馬系王権の南船北馬の興亡史で、それは記紀の指示表出ではなく、その密やかな幻想表出を紡ぎ、想起される必要がある。

『織姫たちの学校』(橿日康之著)への招待状


越境としての古代
70年代の大衆消費社会を前にした1966年に、大阪は泉州における二交替制の紡績・織布企業は、その低賃金もあって中卒女子労働者の求人が困難になった。企業はその打開を二交替制に合わせた定時制高校の開校を大阪府に要望し、府は伝統産業の存続を計るために隔週定時制4校を急遽、開校した。

「働きながら高校資格を」というキャッチフレーズに引かれ、それから40年、沖縄から北海道に至る全国から一万有余の中卒女子生徒が泉州の4校を志願し、泉州の繊維企業は生き残ることとなった。

それから40年した2006年3月に貝塚高校が最後の卒業生7人を送り出し、隔週定時制高校は終焉する。本書はその4校である大阪府立の泉南高校、貝塚高校、和泉高校、鳳横山分校(後に横山高校)の2校で教職を全うした1教師による昭和・平成の「女工哀史」である。

中卒女子生徒はは3月末(後半は4月初旬)に出征兵士のごとく故郷を見送られ泉州に到着する。そして二交替勤務に合わせ、先番と後番に機械的に分けられ、次いで寮の各部屋が割り振られ、先輩の部屋長の指導下に入る。

そして、翌日には先番の生徒は朝4時半にけたたましいサイレンに叩き起こされ、5時から45分の休憩を挟む8時間の立ち労働に刈り出される。そこは湿気と綿ほこり舞う職場で慣れない仕事を先輩の指導を受けつつ汗びっしょりになって働く。ようやく13時45分に仕事を上がり、風呂で汗を流し遅い昼食を取ると、休む間もなく「高校卒業資格」を取るため、14時30分に会社を出て15時過ぎに始まる隔週定時制に通うのだ。そこから5限の授業を19時30分近くまで受け、8時近くに会社に戻り遅い夕食を取り、22時の消灯までに細々した片付け仕事を済まし、ようやく就寝する。

                            写真ー大阪府立貝塚高校越境としての古代
後番の生徒は朝8時半までに朝食を済ますと。9時過ぎに始まる通信制3限の授業を11時30分近くまで週3日受けると,急いで会社に戻り、昼食を取ると先番と交替し、持ち場につき、それから45分の休憩を挟み8時間の立ち仕事に就く。そして22時30分に上がり、風呂で汗を流し24時の消灯までの残された時間に片付けを済まし、就寝につく。

これが泉州の繊維企業に就職し、隔週定時制に入学した中卒女子生徒の15歳の春に等しく襲う春の嵐だが、、それは4年間止むことのなく吹き荒れる嵐なのだ。さらに恐ろしいのは先番と後番が一週間ごとに入れ替わることにある。それに順応しないと疲れているのに眠れず、睡眠不足で危ない現場に立つため、時に指を挟まれ、髪の毛が巻き込まれ死に至ることもある職場である。

働き学ぶと言えば、いかにも健康的だが15歳から18歳の年頃の乙女が遊ぶ時間をもたず4年間過ごすというのは、おそろしく異常なことである。そのため、隔定入学者の半数近くが卒業までに脱落する。それはこの異常にして過酷な日常に心身がついて行けないことにある。しかし、それにも関わらず、毎年、4年間皆勤の生徒があったのだ。

写真ー大阪府立泉南高校
越境としての古代 しかし、これら勤労生徒を苦しめるのは、厳しい労働と休む間もない日常だけばかりではない。同輩、先輩との間で、また上司との間で、また登校した学校の級友との間で、悩ましい人間関係のもつれに悩まされる。それを厭い町での気晴らしは、また思わぬ異性関係を生じ、彼女らをさらに追いつめる。

こうして万余の生徒それぞれの4年間に生じた事件は数知れず、本書はそれらとりどりのハードルのエピソードを交え、生徒一人一人の卒業への難しい道程を照らし出す。

彼女らの傍らを昭和・平成の「昭和元禄」や「バブル経済」が通り過ぎる中で、地方出身の中卒女子生徒が全身汗まみれになって働き、卒業して行った。これはその泉州の繊維企業の語られることのなかった織姫たちの学校物語である。

『織姫たちの学校』 の目次

はじめに

Ⅰ 隔週定時制高校の四〇年

Ⅱ 昭和・平成の織姫物語

 序 /高塀の向こう側 /織姫の一日 /織姫の父/織姫の母/ 織姫の支え/無償の善意/織姫殺人事件/官星多発の織姫/失業する織姫/家庭訪問/出産する織姫/出産する織姫/末期癌の織姫/組合教員の傲り/心を病む織姫/駆け落ちする織姫/技能員と織姫/校長と日の丸/「あかんたれ」の経営感覚/リストカットする織姫/汚れた教師

解説――十五の春にのしかかるものーーー藤野光太郎

あとがき

読みたい人の申込先――――不知火書房

電話 092-781-6962

FAX  092-791-7161

住所 810-0024 福岡市中央区桜坂3-12-78