JP日本郵政Gは創部3年目で初制覇!
若い力が爆発、混戦を断つ

 鍋島莉奈。
 JP日本郵政グループのルーキーである。
 本大会がやってくるのを、いちばん待ち望んでいたのは彼女だったのではあるまいか。 鹿屋体育大時代は日本インカレ10000mを制するなど、大学女子のトップランナーだった。
 だが……。
 JP日本郵政でのデビュー戦で思いがけず躓いてしまった。日本郵政は鈴木亜由子、関根花観というリオ五輪代表を主力とするチームである。だが鈴木は故障をかかえ、関根もリオのあと完調ではない。全日本の予選にあたるプリンセス駅伝では鈴木が走れずに大ピンチであった。
 そんななかでルーキーの鍋島は第1区に起用されたのである。だが、トップから27秒遅れの14位と出遅れてしまった。チームは推進力をうしない3区の関根も区間16位沈み、4区を終わった時点で16位と予選通過圏外に落ちてしまった。もはやこれまでかと思いきや、5区に起用されたルーキー・中川京香と6区の寺内希が連続区間賞で、一気に8位まであがってきて、なんとか予選を突破したのである。
 鍋島にしてみれば、プライドをズタズタにされて耐えられなかったことだろう。それだけに本戦が待ち遠しかったにちがいないのである。
 そんな鍋島を日本郵政陣営は後半のエース区間の5区に起用した。本来なら長丁場の3区と5区は鈴木と関根だが、鈴木は故障あがりである。ならば予選の5区で快走した中川というのが順当だが、あえて鍋島をもってきた。陣営のこの作戦がみごとにハマった。

 

 4区を終わってレースのゆくえは混沌としていた。
 後半の山場となる5区にはいると資生堂の奥野有紀子と九電工の芦麻生がトップグループで並走。後ろからワコールの小指有未と日本郵政Gの鍋島莉奈、さらに後ろから第一生命の田中智美がひたひたと迫ってくる。
 2㎞手前で、資生堂、九電工のトップグループに、ワコールと日本郵政が追いつき、さらに第一生命も加わり5チームによるトップ集団となってしまう。こうなるとオリンピアンの田中智美に分のある展開となり、事実、田中が集団をひっぱり始めた。
 集団内でこまかい駆け引きがくりひろげられ、4.6㎞で田中と鍋島飛び出し、小指、奥野がやや遅れ気味になる。
 後ろでは前半出遅れたヤマダ電機の筒井咲帆がごぼうぬきで順位をあげてくる。だが5チームによるトップ争いの形勢はゆるがない。
 6㎞からは日本郵政の鍋島と第一生命の田中がはげしく競り合うかたちになったが、7㎞をすぎたあたりになって両者の表情に変化があらわれた。田中の顔がゆがみ、苦しげな表情、だがオリンピアンのプライドでなんとか踏ん張っている。一方、鍋島のほうは走りが軽く、表情も変わりがない。いかにも涼しげな表情で、あきらかに余裕が感じられた。
 そして7㎞、鍋島が前に出て主導権をにぎった。鍋島はゆるぎのない走りで、田中をじりじり引き離しにかかった。中継所ではおよそ100m、17秒の差が付いていた。デビュー戦の悔しさが生きたというべきか。鍋島は本戦でみごとにプリンセス駅伝のリベンジを果たしたのである。鍋島の快走で勝負の流れはここで一気に日本郵政に傾いたのである。……

 

 今回の全日本は戦前から大混戦が予想されていた。オリンピックが終わって、新しい勢力地図がまだできあがっていない。加えてそれぞれのチームにも固有の事情をかかえていた。たとえば昨年まで3連勝のデンソー、今回は四連覇に挑むことになるが、チームの中心であった高島由香が抜けてしまった。
 デンソー、豊田自動織機、ヤマダ電機、第一生命など横一線で、どこが優勝しても不思議ではなかったのである。

 

 レースはのっけの1区から波乱含みだった。
 1㎞=3:08とレースはいつになくハイペースではじまった。
 豊田自動織機の福田有以、資生堂の竹中理沙、九電工の宮崎悠香らが引っ張るかたちですすみ、日本郵政の中川京香、ワコールの一山麻緒らがつけ、2.5㎞でもまだ20チームぐらいがひとかたまりでつづく。
 3㎞すぎの登りになって集団は縦長になり、ここでユタカ技研につづいて京セラが遅れた。5㎞手前で先頭は竹中、積水化学の森智香子、中川、一山が抜けだし、ここで四連覇をねらうデンソーの光延友希はこぼれていった。ヤマダ電機の竹地志帆も勢いがなくなる。
 トップ争いは竹中、森、中川、一山にしぼられ、福田がつづくというかたち。トップ集団を割ったのはワコールの一山だった。残り1㎞でスパート、竹中、中川らをふりきった。1区を終わって、予選会上がりのワコールがトップ、1秒差で資生堂、8秒差で豊田自動織機、11秒差で日本郵政、15秒差で九電工、17秒差で第一生命……とつづいた。だが有力候補の一角といわれたヤマダ電機は40秒遅れの11位、デンソーは1分03秒遅れの19位と大きく出遅れて、圏外に去ったのである。
 さらに3位につけた豊田自動織機は1区の福田から2区の島田美穂とのタスキリレーでオーバーランという前代未聞の事故で失格してしまうのである。
 ヤマダ電機がおくれ、豊田自動織機の失格という大波乱で、優勝のゆくえはますます混沌としてしまったのである。
 
 スピード区間3.9㎞の2区は1㎞で、トップグループをなすワコールの田淵怜那と資生堂の吉川侑美に、まだ失格を認知していない豊田自動織機の島田美穂がおいつく。そして2㎞手前で島田はトップを奪い、後続を引き離してそのまま中継所にとびこんでいった。 後になって考えると、失格をしらないまま走っている豊田自動織機の島田はなんともはや哀れというべきか。痛々しかった。

 2区を終わってトップは失格の豊田自動織機、7秒遅れで資生堂とワコール、12秒遅れで日本郵政、20秒遅れで九電工、21秒遅れで第一生命……。トップを争う3チームまでをなんと予選会上がりが占めてた。

 

 3区のエース区間は、奇しくも資生堂の高島由香とワコールの福士加代子という2人のオリンピアンの対決となった。2人は1㎞ではやくも先頭を行く豊田自動織機の林田みさきをとらえてトップを並走。
 2.5㎞で日本郵政Gの関根花観がうしろから追ってきて先頭集団にくわわり、後ろは九電工、ユニバーサルエンターテインメントが4位集団をなしていた。
 4㎞で林田が集団からこぼれてゆき、さらに九電工の加藤岬にもつかまってしまう。このあたりで豊田自動織機は第1中継所のタスキリレー・ミスで失格が告げられた。
 高島、福士、少し遅れて関根の順で5㎞を通過、うしろは加藤、第一生命の上原美幸であった。
 高島と福士はびっしりと並走、なかなか見応えがあった。火花散る福士と高島の闘いに弾きとばされるかっこうで7㎞すぎに関根が置いてゆかれ、両雄のせめぎ合いも7.5㎞で結着がみえた。福士がじりじりと遅れはじめ、9㎞以降は高島の独走状態になったのである。

 高島の3区での強さは今回もきわだっていた。
 3区を終わってトップは伏兵の資生堂、22秒遅れで、これも伏兵のワコール、同タイムで日本郵政と予選会上がりのチームが上位をしめ、以下は32秒遅れで、九電工、45秒遅れで第一生命……、いぜんとして優勝のゆくえはさっぱりみえてこなかった。

 

 外国人選手も走れる4区になると、4位発進の九電工のM・ワイエィラが猛然と追ってくる。2.5㎞でトップをゆく資生堂の須永千尋をとらえる勢い、須永はなんとかふんばつてトップを死守したが九電工は2秒差でつづき、3位は日本郵政で17秒遅れ、4位は19秒遅れでワコール、26秒遅れで第一生命……。
 まさに混沌とした形勢で冒頭の5区に突入したのである。

 

 5区の鍋島でトップを奪った日本郵政は勢いにすっかり乗ってしまった。6区のアンカーは予選会でもアンカーで区間賞を獲った寺内希である。プリンセス駅伝でもアンカーで区間賞で駈け抜けた彼女は、うまく溜めて逃げ、第一生命に追わせなかった。

 はるか後ろからは5区の筒井の快走で5位までやってきたヤマダ電機がやってくる。アンカー・西原加純(区間賞)が3位まで押し上げてくるが、チームとしてエンジンがかかるのが遅すぎた。そのときはもうレースの勝負は決していたのである。
 興味はもっぱらシード権争いで、資生堂、ユニバーサルエンターテイメント、天満屋、ホクレン、積水化学が最後まで激しく争った。
 最後はホクレンとユニバの争いになり、前回2位のユニバの中村萌乃がホクレンの大蔵乃をふりきって面目を保った。だがホクレンの大蔵は3年続けてアンカー結着で9位に終わるという皮肉な結果になった。

 

 優勝したJP日本郵政は若い力が輝きを放った。もはや鈴木亜由子と関根花観の2人だけのチームとはいえなくなり、1区を走った中川京香、鍋島怜奈、寺内希などが着実に育って戦力になっている。鈴木の調子がいまひとつでも、あれよあれよと優勝してしまった。各区間ともこれといって大きなミスがなかった。1区に好調の中川を、5区に鍋島を配した戦略がみごとにハマった。
 2位の第一生命はさすがというべきか。上位の優勝候補ではなかったが、本戦ではしっかりかとめてきた。3区で日本郵政に離されていなければ、勝負はきわどかっただろう。 

 3位のヤマダ電機は今回こそは優勝だろうと思われたが、またしてのチグハグなレースぶりに終始、リズムに乗り損なった。前半の遅れが致命傷となった。それでも5区の筒井と6区の西原でなんとか3位までやってきた。地力のあるチームであることはみとめるが、優勝にからむことのない3位なので、まったく評価することはできない。
 九電工は終始上位にからみ、4区ではひとたびトップに浮上した。もう1枚決め手があればこのチームもあなどれないものがある。
 5位のワコールは大健闘であろう。予選会11位でありながら、前半から好発進、後半も粘って5位に食い込んだ。
 予選会9位の資生堂も見せ場をつくった。3区から4区まではトップを突っ走った。後半も粘ってなんとか7位でシード権を獲得した。かつての覇者、復活気配である。
 期待はずれは8位ユニバーサルエンターテイメントと豊田自動織機である。豊田のほうはケアレスミスだから論外。ユニバーは鷲見梓沙、和久夢来という女子長距離界期待のランナーがこぞって凡走に終わったのだからどうしようもない。

 

 特記すべきは三井住友海上の渋井陽子の20年連続出場だろう。20年ということになると、わが「駅伝時評」を始めたころから走り続けていることになる。

 渋井は1999年の全国女子駅伝で栃木代表として出場、10区で区間賞を獲得して鮮烈なデビュー、翌2000年には三井住友海上の主力メンバーとして3区で区間賞、チーム初優勝の原動力となった。それ以降、ワコールの福士加代子とともに女子駅伝の看板選手だった。

 本レースではアンカーとして登場して区間19位におわったが、20年という長きにわたって日本女子の長距離を引っ張ってきたランナーであることを銘記しておきたい。


◇ 日時:2016年11月27日(日)午後12時15分スタート
◇ 場所:宮城県仙台市
◇ コース:松島町文化観光交流観前(スタート)→仙台陸上競技場(フィニッシュ)6区間計42.195㎞。
◇ 天気:くもり 気温:12.0度 湿度:74% 風:北西 3.0m
◇JP日本郵政G(中川京香、鈴木亜由子、関根花観、岩高莉奈 鍋島莉奈、寺内希)
◇詳しい結果 http://gold.jaic.org/jaic/res2016/queenseki/pcsp/rel001.html

                   http://home.m07.itscom.net/jita/woman_ekiden/pdf/w36a_12.pdf
◇公式サイト http://www.tbs.co.jp/ekiden/

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