父親たちの星条旗
クリント・イーストウッドが日本で初の共同会見を行うと聞いて、
いても立ってもいられなくなった。何しろ、そんなことは今まで
アメリカでも例がなく、イーストウッドの共同会見といえば、
せいぜいアカデミー賞授賞式後の受賞者会見ぐらいで、まさに
異例中の異例。実際、イーストウッドが昨年、来日したのは
『ローハイド』(1959年~TVシリーズ)のキャンペーン以来
40年以上ぶりで、しかも宣伝目的ではなく硫黄島のロケハン
許可を石原都知事からもらうため。当然、二人の大物会見が
あっただけで、われわれ一般人はハナからカヤの外だった。

そんなスーパースターの共同記者会見が日本で初めて開かれる、
ってことが、どれだけ大変貴重なことか、わかってもらえるかな
……例えば、シュワちゃんや、トム・クルーズ、トム・ハンクス
だったら何度かナマで見たことがあるし、ミック・ジャガーや、
ポール・マッカートニーでもライブ会場で2~3回は見ている。
でも、ジョン・レノンはもう拝めない。そんな感覚なんだよね。

このチャンスを逃したら、一生この目でナマのイーストウッドを
見ることなどできないだろう……そんな思いを胸に一昨日、
イーストウッド様を拝みに行った。一眼レフを携えて……。

自分がイーストウッドのファンだって話は前にもしたけど、
 なんやかんや好きになって30年。ローリング・ストーンズの
ファン歴より、自分の中では長い。自分の父親より年上の老人
(1930年生まれの75歳)にいまだ憧れているなんて、おかしな
感じもするけど、そういう人はかなり多いみたいで、数百人は
入りそうな会見場は超満員。イーストウッドの登場とともに、
皆と一緒になって夢中でシャッターを切った。知らない人が
見たら(そんな人はいないと思うけど)、ただの温和そうな
オジイサンだ。かつての眼光の鋭さも今はなく、あまりの
フラッシュ攻勢にほとんど目を伏せて眩しそうにしている。

当然、カメラマンは目を瞑っているイーストウッドの写真ばかり
じゃ寝ぼけた老人が渡辺謙の隣に座っているようにしか見えない
ので、顔を上げて目を開けた瞬間にまたフラッシュの嵐となる。
可哀相に、イーストウッドは最初の挨拶をしている間、ほとんど
ずっと目を伏せていた。ゴメンね、オジイちゃん……。

実は会見の前日、イーストウッドは最新作『硫黄島からの手紙』
の撮影が終了したばかりだった。彼の隣には、渡辺謙、加瀬亮、
ジャニーズの二宮和也、中村獅童、井原剛志といった出演者たち
が並んでいる。彼らの挨拶の言葉を戸田奈津子さんが通訳して
イーストウッドに伝え、彼の表情が一瞬でも変わるたびに無数の
フラッシュが炊かれた。みんなイーストウッドの表情しか狙って
ないんだな……(笑)

質疑応答中は、フラッシュ撮影厳禁。携帯電話での撮影は禁止、
撮影写真のweb掲載も一切禁止、という厳しいお達しの後、
一人一問という条件で会見は粛々と行われた。二宮君の話は、
特に面白かった。最初はイーストウッドがどんな人かわからず
怖かったけど、「ピーナッツを食べてた、しかもボロボロと
口からこぼしながら。それを見て仲良くなれそうだと思った」
という話には場内大爆笑で、イーストウッドも笑っていた。
しかし、日本兵の扮装をしてロケ現場に立ち、自分が実際、
戦場にいるような感覚になってボーッとしていたら、
知らない間にフィルムが回って撮影が終わってしまい、
「恐ろしい!」と思った……(場内大爆笑)という感じで
撮影は一切リハーサルなしに、どんどん進んでいったらしい。
「セリフ合わせがあったのは、スタジオ撮影前の一回きり」
(井原剛志、談)で、毎ショット、オーディションを受けて
試されているみたいな気分だった、という。

リハーサルなし、撮り直しなしがイーストウッドの演出法だ。
これは俳優に全幅の信頼がないとできない。俳優出身だから、
俳優を信じている、と言うのは簡単だが、そういう監督は今、
他にいないだろう。往年の大巨匠ハワード・ホークス監督も
リハーサルなしを好む人だったと聞いているが、出演者たち
(ジョン・ウェインやロバート・ミッチャム)は監督が見てない
ところでセリフ合わせなどの練習をいつもしていたらしい。
イーストウッドの現場もそんなプロたちの仕事場だった
ということが出演者たちの話からよくわかる。

『硫黄島からの手紙』は今年12月に日米同時公開される。
第二次大戦の硫黄島の攻防を日米両国の側から二本の映画で
別々に描くという、前代未聞の意欲作だ。次回アカデミー賞の
有力候補となることは間違いないが、そんなことはどうでもいい。
イーストウッドがこんな企画を企てたこと自体が驚きだからだ。
米国側から描く『父親たちの星条旗』は10月20日、世界同時公開で、
日本側から描く『硫黄島からの手紙』へと連続公開される運びだ。

いずれもイーストウッド監督、『クラッシュ』のポール・ハギス
他が脚色し、製作はスティーヴン・スピルバーグ。配給は当然、
ドリームワークスになる。これは、イーストウッドが「原作の
映画化権を単独で購入する資金がなく、スピルバーグに頼んで
買ってもらった」からなのだが、製作会社はマルパソ・プロ
(イーストウッドが自ら監督をするために25年前に設立した
個人会社)だ。スピルバーグ(当時はドリームワークスがまだ
なくて、アンブリン・エンターテインメントだったかな)と
マルパソ・プロのコラボレーションは、『マディソン郡の橋』
(1995年)以来だろう。この時は、映画化権を所有していた
スピルバーグがイーストウッドに振った形だった。




ワーナー・ホーム・ビデオ
マディソン郡の橋
現在、数あるイーストウッド映画のDVDソフトのなかでも、
アメリカで二番目に売れているのが『マディソン郡の橋』だ。

では、イーストウッド映画で今、最も全米で売れているDVDは
何か?……これには驚いた。これを当てられたら、アナタは相当
な事情通ですね。ファンでも、想定外の作品にきっとビックリ!
しますよ、絶対……答えは次回(笑……ヒント=戦争映画です)



ジェイムズ ブラッドリー, ロン パワーズ, James Bradley, Ron Powers, 島田 三蔵
硫黄島の星条旗



James Bradley, Ron Powers, Michael French
Flags of Our Fathers: Heroes of Iwo Jima
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how to lose a guy in 10 days

原作のある映画では、何も削ぎ落とすばかりが脚色作業じゃない。
短編が原作の場合、最近の『サウンド・オブ・サンダー』しかり、
ミリオンダラー・ベイビー』しかり、原作に相当肉付けしないと
一本の映画にはならない。前者のケースは、最初の設定だけが原作
の話で、中盤から結末に至るまで、ほとんどオリジナルの物語だ。
後者は同じ作家の他の短編小説の話を寄せ集めて再構築し、監督の
意向を反映させたもの。いずれにせよ、原作にはないオリジナルの
部分の割合が非常に高いので、原作の評価と映画の評価はまったく
別モノになる。

中には『ポーラー・エクスプレス』のように短編の絵本を原作に、
そのイメージをまったく損なうことなく、出だしと結末を原作通り
に設定し、中間の話を膨らます形で成功している脚色の例もある。

また、ごく稀に物語自体が原作には存在しない、という例もある。
そんな珍しい脚色成功例が、『10日間で上手に男をフル方法』だ…
(原作はハウツーのイメージカットだけで、物語がないのだ!)

全米では、2003年2月に公開(日本では2003年8月公開)され、
1億ドル以上を稼ぐ大ヒット作となっているので、その意味でも
成功作として評価していいラブコメだ。が、日本語のタイトルは
意味がまったく逆さま。原題は『How to lose a guy in 10 days』
(10日間で男にフラれる方法)というコメント程度の文字しかない
イラスト主体のハウツー・パロディ本。OL二人が自らの体験や、
友達のフラれた話を基に、よくある「男に嫌われる女性の言動」を
羅列しただけの絵本みたいなものがベストセラーになってしまった
のは、その内容が本質を突いていて実に面白いからだ。

このベストセラー本が、どういう風に脚色されたのかというと……

“10日間で恋人をつくれば大口クライアントを担当させる”という
約束を取り付けた広告代理店勤務の独身男と、政治記事を書きたい
のに上司の企画から“10日間で男にフラれる方法”を体験取材する
ことになった新米ライターの女。この二人がお互いの目的を果たす
ために出会って、“偽りの恋愛”を繰り広げるが、次第に……

という典型的なラブコメ物語になっている。この男女を演じるのは
……まず、男の方は『評決のとき』(1996年)でブレイクした後、
知的な好青年役が続いたマシュー・マコノヒー。『サラマンダー』
(2002年)ではタフガイ系にイメチェンを果たし、『ウェディング
・プランナー』(2001年)のヒットでラブコメへの出演も増えた。
一方、女の方は『あの頃ペニー・レインと』(2000年)でブレイク
したケイト・ハドソン。80年代のラブコメ女王ゴールディ・ホーン
の娘だから、血は争えないということか、コメディセンスは抜群。



ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
あの頃ペニー・レインと

そんな彼女が、男性の好きなスポーツ観戦をわざと邪魔したり、
相手の仕事中にどうでもいい内容の電話をかけまくったり、
留守伝に何度もしつこくメッセージを入れたり、
男の部屋を自分の物で埋めつくしたり……といった
男にフラれるパターンをこれでもか、と実践する!

それだけでも十分面白いのだが、男はなかなかフッてくれない。
そのうち実家の家族団欒にまで招待されて、予想通りというか、
二人はマジでお互いのことが好きになっていく……(笑)
というラブコメの定番路線を突き進む。

ところが、お互いの目的がバレて、パーティ会場は一瞬のうちに
修羅場と化す(この最後の盛り上がりシーンは少しヤリ過ぎ?)

この時、二人がデュエットするのが、カーリー・サイモンの1973年
のナンバー1ヒット曲「うつろな愛」だ。オリジナルはサビの部分
で、なんとミック・ジャガーがハモっている、とっても好きな曲…
(彼の鼻にかかったダミ声のせいで、「とても歌いにくかった」と
カーリー・サイモンは笑って話していた)

さらに、ニューヨークからはフェリーで行くのが便利な彼の実家の
スタッテン島の風景等、全編ニューヨークとその近郊で撮影された
雰囲気がまた大好きだ。ハリソン・フォードとシガニー・ウィバー
共演の『ワーキング・ガール』(1988年)や、ニコラス・ケイジと
ブリジット・フォンダが共演した『あなたに降る夢』(1993年)、
ジョン・キューザックとケイト・ベッキンセイルが共演した
『セレンディピティ』(2001年)など、ニューヨークロケの
ラブコメにはなぜか不思議な風情があって、例を挙げれば
キリがないほど好きな映画が多い。

この映画も、予想通りの結末を迎える定番のラブコメだから、
単に本編だけ見たら及第点ぐらいの出来かもしれない。けれど
DVDでは、例の原作がいかに映画化されていったか、という
特典映像が収録されており、これは映画製作者や脚本家に
とっても参考になる話が満載だ。本編よりそっちの方が
人によっては興味深く見られるかもしれない。
というわけで、総合評価は大アマの★★★★

ちなみに、監督のドナルド・ペトリは、ジュリア・ロバーツの初
主演作『ミスティック・ピザ』(1988年)で注目され、その後も
ジャック・レモンとウォルター・マッソーのコンビを復活させた
『ラブリー・オールドメン』(1993年)や、
サンドラ・ブロック主演で1億ドル突破のヒットとなった
『デンジャラス・ビューティー』(2001年)など、
コメディ演出を得意とする監督だ。



パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
10日間で男を上手にフル方法 スペシャル・コレクターズ・エディション



サントラ, キース・アーバン, ルース, シャンタール・クレヴィアジック, ジョージ・ソログッド, デストロイヤーズ, アル・グリーン, ジン・ブロッサムズ
10日間で男を上手にフル方法 オリジナル・サウンドトラック(CCCD)
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サウンド・オブ・サンダー
3月25日公開のSF娯楽映画『サウンド・オブ・サンダー』は、
初登場で4位か5位、3週目に入っても7位とベスト10内をキープ
して、予想外のヒットになっている。なぜ「予想外」かといえば、
全米では「酷評一色」で、まともに公開もされず、今や2億ドル
が全米大ヒット作の目安といわれているなか、嘘か誠か
200万ドル(2億円強)しか稼げなかったからだ!

でも、そこまで「つまらない映画」だとは思わなかった。
先入観を捨て、適当にいい加減なSFサスペンス(&ホラー?)
として楽しんじゃえば、損した気分にまではならないはずだ。

元を辿れば、悪い先入観の発端となっているのは、この映画が
製作過程で監督交代などのゴタゴタが続いたからで、完成さえ
おぼつかない状況で監督を引き継いだのは、ベテラン職人監督
ピーター・ハイアムズだ。シュワちゃんのSFアクション大作
『エンド・オブ・デイズ』(1999)でも製作中止になりそうな
状況で監督を押しつけられてスンナリ完成させた「立て直し屋」
としての実績が買われたようだが、実はこの監督、70年代から
「SF映画のようなアクション映画」を数多く、「文字通り」
撮影も兼ねて撮り上げている。作品の出来はイロイロだが、
エリオット・グールド主演の『カプリコン・1』(1977年)
ショーン・コネリー主演の『アウトランド』(1981年)
ジャン・クロード・ヴァンダム主演の『タイムコップ』(1994年)
宇宙とは関係ないけど『レリック』(1997年)もSF的な話だし、
さらに『2001年宇宙の旅』の続編『2010年』(1984年)といった
普通の監督なら尻込みしそうな本格的SFにも取り組んでいる。
いずれも話題作として、そこそこヒットしているところが凄い!



ビデオメーカー
カプリコン・1



東宝
エンド・オブ・デイズ




ワーナー・ホーム・ビデオ
2010年【ワイド版】

で、今回はSF怪奇小説の巨匠レイ・ブラッドベリの古典的短編
「いかずちの音」の映画化。だからといって「本格的なSF映画」
を期待しちゃいけない。そもそもレイ・ブラッドベリを「SF小説」
というジャンルで語ってしまうことに、誤った先入観は起因する。

確かに、レイ・ブラッドベリの作品群には、本作が収められている
『太陽の黄金の林檎』や『火星年代記』といった宇宙を題材とした
名作短編集が目立つ。しかし、いわゆる科学(サイエンス)的な話
かというと、全然違う。むしろスティーヴン・キングの風変わりな
説明のつかない短編ミステリーのノリに近いような感じさえする。



レイ ブラッドベリ, Ray Bradbury, 小笠原 豊樹
太陽の黄金の林檎



レイ・ブラッドベリ, 小笠原 豊樹
火星年代記

実は、そんな風情のあるレイ・ブラッドベリの短編小説が大好きで、
特に名作「霧笛」など22篇が収められている『太陽の黄金の林檎』
はオススメ。アッと言う間に読めるので、何度も読み返してしまう。
T-REXのマーク・ボラン(嘘か誠か、魔女に教育を受けた、と
本人は生前、語っていた)もレイ・ブラッドベリのファンだった
らしく、「いかずちの音」に出てくる恐竜の運命にインスパイア
されてバンド名を決めた、というのも有名な逸話。

この原作は、わすか十数ページの短編だ。タイムマシンを使って、
死ぬ間際の恐竜を何度も見学できるツアーの話……ある日、ツアー
コンダクターが現代に戻ってみると何もかもが微妙に違っていて、
その原因は、お客が過去をほんの少し変えてしまったからだった
(有名な小説なのでネタバレしますが、一匹の蝶を踏んづけていた)
……という程度の内容。

映画『サウンド・オブ・サンダー』は、この原作を大幅に肉付けし、
第一波、第二波、と次第に現代がジャングル化して得体の知れない
生物が襲ってくるホラーもどきのSFサスペンス映画になっている。
現代を激変させた原因を究明し、再びタイムマシンで過去へ行って
元通りに戻さないと現代文明がこのままでは壊滅する、という展開
でハリウッド的なエンターテインメント一色に染めた感じ。なぜ、
そうなるのか、なんて質問は無意味だ。レイ・ブラッドベリの小説
だって、科学的になぜ、どうして?……なんてところに、いちいち
引っ掛かっていたら、ちっとも楽しめない。レイ・ブラッドベリの
古典的な小説を娯楽映画として映像化すると、必然的にB級映画的
な匂いがする話になってしまうんじゃないだろうか、とさえ思う。

彼の映画化作品で最も有名なのは、フランソワ・トリュフォー監督
唯一のハリウッド映画『華氏451』(1966年)で、これは本の紙
が発火する温度のこと。本が諸悪の根源として焼かれる近未来世界
を描いたSFで、この長編もトリュフォーがハリウッド式映画作り
に馴染めず、トラブル続きだった作品。ここでも、風変わりな背景
や舞台設定などにB級映画的な匂いを感じてしまうのは、もう原作
の持つ力としか思えない。レイ・ブラッドベリ作品の映画化では、
最も評価が高いようだけど、やっぱり総合評価★★★ぐらい……
彼の小説の風情を映像化すると、どうしてもこうなるんだな。



ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
華氏451

実際、この巨匠を誤った先入観で過大評価しない限り、彼の映画化
作品はファンが見ても、失望するほど酷くはないと思うけれども、
小説にある寓話的な憂いや滑稽さが、映像化するとチープな印象に
なってしまうのは、彼の作品の特徴だと割り切るしかないだろう。

例えば、アーヴィングの小説は監督が違っても、全部フワフワした
感じの映画になっちゃってるでしょ?(笑)……多分、それと同じ
なんだろうね。だから今回は、むしろ、どんなふうに短編が肉付け
されたのかを興味津々で見入っていた。

結論としては、違う進化の過程で変移した生物(マンドリルの顔に
狼の鳴き声、ラプトルのような尻尾、そしてコウモリのように眠る
……なんじゃ、そりゃ?)の襲撃ばかり目立つクリーチャーもの的
な盛り上がりが映画の最大の見どころになってしまっているので、
原作の寓話的「憂い、ユーモア、滑稽さ」は薄れ、「恐怖とサスペ
ンス」の色が濃い。当然、こんな怪物は原作には出てこない!!
しかも、この怪物が見てくれ的に、そんな怖さを感じないところが
レイ・ブラッドベリ的な感覚で、ますますB級映画的な匂いを醸し
出してしまい、それがいいんだか、悪いんだか……いずれにしても
巨匠の深いSF的世界を期待する向きには、どうしても駄作に見え
てしまうんだろうなあ……というわけで、総合評価★★★

主演のエドワード・バーンズは、自分で脚本や監督もできる才人
だけど、多分、彼もレイ・ブラッドベリが好きだったのかな?
タイムトラベル会社の社長を演じる名優ベン・キングズレーも…?

もう一人、ヒロインの科学者を演じるキャサリン・マコーマックは
メル・ギブソンのオスカー受賞作『ブレイブハート』(1995年)で
彼の恋人(映画が始まってすぐクビを切られる)役だった女優だと
思うんだけど……違うかな?

最後に、レイ・ブラッドベリは巨匠と呼ばれるようになる以前、
一度だけ映画の脚本を手掛けたことがあるいる(トリビア!)…
それがなんと、ジョン・ヒューストン監督の『白鯨』(1956年)
なんだよね。原作は言わずもがな、ヘミングウェイの古典的名作。
白い島のような鯨=モビー・ディックへの個人的復讐の念から
航海に出る偏執狂的エイハブ船長をグレゴリー・ペックが演じた
名作だ。巨匠の原作を若き日の巨匠(当時30代半ば)が
脚色した、そういう視点で『白鯨』を見ると、今までとは全然
違った感覚で楽しむことができて、もっと面白いと思うヨ!
個人的にも総合評価★★★★!……と言いたいところだけど、
どうなのかなあ……ヘミングウェイの原作ものとしては、
異色な感じがすることは確か。ブラッドベリの影響大?
これがブラッドベリの映像化の限界なのかな?




20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
白鯨
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ミリオンダラー・ベイビー
クラッシュ』でアカデミー作品賞を獲ったポール・ハギス脚本、
同じく『クラッシュ』に出演していたライアン・フィリップ主演、
そして『南極物語』に主演したポール・ウォーカーも出演する、
クリント・イーストウッド監督の次回作『父親たちの星条旗』が
既にクランクアップして今秋、日本公開されることになった。

前作『ミリオンダラー・ベイビー』は、再びアカデミー監督賞と
作品賞を彼にもたらした他、主演女優賞、助演男優賞も獲得し、
興行的にも『ザ・シークレット・サービス』以来の全米1億ドル
突破となる大ヒットで、あまりに皆が大絶賛するもんだから、
子供の頃からのクリント・イーストウッドのファンとしては
「あまのじゃく」的な気分に陥り、昨年見た映画の「第1位」
投票までしておきながら、これまで紹介記事を書いてこなかった。

だいたい内容的には皆さんが書いている通りの傑作で、自分も同じ
ような紹介記事を書いても仕方ないし、より詳しく書こうとすれば
キリがなくなりそうで、出世作の『荒野の用心棒』(1964年)から
1本ずつ全部(正確には見てないのが数本ある)紹介したい衝動に
今でも駆られるけど、それじゃ何カ月もかかってしまうし…(笑)

最も笑った紹介文は、「実話でもないのに、私の日常より不幸になる
人の話を見せられて、ドーッと落ち込んだ。普通に生活したい人は、
見ない方がいい。地獄の炎に焼かれますよ!」みたいな感想だった。

でも、時々トンチンカンな紹介文を書いてる人もいて(おそらく、
ここ十数年ほどのイーストウッドしか見てないからだと思われる)、
意外と最盛期の彼を見てなくて、知らない人が多いんだなぁ~と。
それで、少しずつイーストウッドについて書きたくなってきた。

言うまでもなく、イーストウッド最盛期の主演作は半数近くが西部劇。
スクリーンで何十人、何百人もの人を殺してきた暴力アクション系の
大スターとして認識されてきた。彼の最後の西部劇『許されざる者』
(1991年、アカデミー監督賞・作品賞受賞作)は、そんなヒーロー像
に対する訣別とも取れる内容で、その頃から「出演せずに監督だけ」
という作品も増え、それまでの「男の美学」的なテイストに加えて
監督の立場から「人生」を俯瞰で描くようになってきた。だから、
「女に彼の魅力など、わかるワケない」と勝手に思い込んでいる
昔からのイーストウッドのファンは、いまだに彼のタフガイ像を
追い求め、主演している監督作こそ彼の王道だと信じてやまない。
本当はその程度じゃ言い足りないんだけど、彼の作品を見る上で、
この点だけは最低、共通認識として押さえておいてほしいと思う。

とりあえず、イーストウッドが主演しているかどうかは別として、
『ミリオンダラー・ベイビー』の構成は『ミスティック・リバー』と
よく似ている。最初に人物がサッと紹介され、中盤は女性ボクサーと
老トレーナーが二人三脚でチャンピオンを目指す話で物語を引っ張る
(『ミスティック・リバー』は推理劇として展開する)……そのへん
の細かい描写は、原作者が本物のカットマン(止血師)だったので、
リアルなことこの上ない。ところが両作とも最後になって、それまで
の展開から予想されるテーマとは全然違う話だってことがわかる。
この構成力は、もはや名人芸の域に達していると言えるだろう。

ただし『ミリオンダラー・ベイビー』は、語り口が前作とは全然違う。



F・X・トゥール, 東 理夫
テン・カウント
原作は『テン・カウント』というボクシング短編小説の一編で、これに
他の短編の話を挿入して一本の脚本にまとめたのがポール・ハギスだ。
『ミリオンダラー・ベイビー』として発売されている本は、彼が構成し
直した映画のノベライズで、原作をかなり肉付けしたもの。最も大きな
違いは、原作にモーガン・フリーマンの役は存在しないということだ。



F.X. トゥール, F.X. Toole, 東 理夫
ミリオンダラー・ベイビー
しかし、当初サンドラ・ブロックのところに脚本が持ち込まれた時は、
まだモーガン・フリーマンの役はなかったものと思われる。なぜなら、
サンドラ・ブロックが自分で監督もしたいと言い出して、ワーナーが
これに難色を示し、主役候補が二転三転した時点でイーストウッドの
参加は決まっておらず、主役はあくまで女性だったと思われるからだ。

つまり、モーガン・フリーマンの役を加えることによって、何が一番
変わってしまうかを考えた場合、彼はイーストウッドの人物像を語る
相棒役として登場するため、そこで初めてフォーカスされる主人公が
完全に老トレーナーになってしまう点だ。しかも、彼の存在は二人の
物語を俯瞰の視点で語るナレーションの役割も果たしているが、実は
そのナレーションが最後の最後にモーガン・フリーマンの手紙の内容
だったとわかる。手紙の相手は、老トレーナーの人生の後悔の根源に
ある、劇中には登場してこない娘だ。老トレーナーは、返事が一通も
来ないにも関わらず、いつも自分の娘に手紙を書いている。おそらく
何らかの理由で決別したのだろうが、それが彼の人生最大の後悔の念
となって、毎週欠かさず教会に通って神父に答えを求めている--
そんな状況で出会った女性ボクサーとの話をモーガン・フリーマンが
消息を絶った父親に代わって「君の父親は、こういう人だったんだよ」
と、彼の娘に宛てた手紙の内容--それがこの物語だったことになる。

原作の小説は、ボクシング業界に携わっていた著者がその裏側にある
真実をリアルに描いているだけだ。それはそれで興味深く面白いが、
それをモーガン・フリーマンの視点で語るという奥行きのある複雑な
構造の話に変えてしまったことで炙り出されるのは、女性ボクサーの
「尊厳死」の問題ではなく、老トレーナーの人生と娘への愛情だ。

つまり、イーストウッドの演出は原作の女性ボクサーとのリアルな
やり取りをすべて会えない娘への愛情の表現に昇華させてしまって
いるわけだ。イーストウッドが監督に決まった後、それを指示して
ポール・ハギスに書き直させたと思うのは、そのためだ。原作には
ない役で助演男優賞を獲らせてしまうぐらい、その変更は成功して
いる。ポール・ハギスが脚色賞の候補どまりで、イーストウッドが
監督賞を受賞したのは、そういうことなんじゃないだろうか。



ポニーキャニオン
ミリオンダラー・ベイビー 3-Disc アワード・エディション



ポニーキャニオン
ミリオンダラー・ベイビー
この映画が『ミスティック・リバー』よりも遙かに好きなのは、
そんな完璧なるイーストウッドのための美学に貫かれた作品に
なっているからだ。しかも、彼が泣くシーンなど今までトンと
見た記憶がない。暗闇に隠れて、その顔はよく見えなかったが
……もし、それがイーストウッドでなかったら、こんなに好き
にはならなかった。彼が演じているから、総合評価★★★★★
なのだ。これがファンとしての結論。だから、
他人がどう思おうと、彼には主演男優賞をあげて欲しかった。

次回作『父親たちの星条旗』に、彼は出てこない。監督のみだ。
それでも、ポール・ハギスが原作『硫黄島の星条旗』をどう料理
してるか楽しみ!……しかも、この“硫黄島プロジェクト”は、
日本側から第二次大戦の硫黄島決戦を描く第2弾も撮影中で、
今月クランクアップの予定。『硫黄島からの手紙』という
タイトルで今年12月に公開される。主演は、渡辺謙。
イーストウッドが自ら指名した。他にも二宮和也、伊原剛志、
加瀬亮、中村獅童、そして裕木奈江も出演するらしい。
イーストウッドにとっては前代未聞の意欲作となる。




ジェイムズ ブラッドリー, ロン パワーズ, James Bradley, Ron Powers, 島田 三蔵
硫黄島の星条旗