クリストファー・マッカリー監督・脚本、トム・クルーズレベッカ・ファーガソンサイモン・ペグジェレミー・レナーヴィング・レイムスショーン・ハリスアレック・ボールドウィン出演の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』。



IMF(Impossible Mission Force)のイーサン・ハントは多国籍犯罪組織「シンジケート」を追っていたが、ロンドンで謎の男レインの罠にかかり捕らえられ、敵側の女イルサに助けられて辛くも脱出する。しかしCIAの長官ハンリーによってIMFは解体されてしまう。6ヵ月後、国際指名手配中のイーサンはシンジケートの暗殺計画を阻止するために仲間のベンジーに連絡を入れる。


「ミッション:インポッシブル」シリーズ第5弾。

評価の高かった前作『ゴースト・プロトコル』の監督ブラッド・バードは『トゥモローランド』のために降板し、以前『アウトロー』でトム・クルーズと組んだクリストファー・マッカリーが担当。

僕はあいにく『アウトロー』は未見なんですが、このマッカリー監督、昨年のこれもトム・クルーズ主演映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の脚本の他には、これまでに悪名高い『ツーリスト』や『ウルヴァリン:SAMURAI』の脚本などを書いていて、それ知ってたら僕はかなり警戒したと思う。

悪いけど、わりとやらかしてますよね^_^; 共同脚本の場合はこの人だけの責任ではないかもしれないけど。

『アウトロー』は観た人には評判よかったりするみたいだし、『オール・ユー~』も僕はちょっとダメだったんですが世間での評判は悪くなかったんで、業界的にどういう立ち位置の人なのかちょっと判然としないんですが。

ただまぁ、このシリーズはストーリーの出来がどうとかいう類いの映画ではないので、お話の中身よりも格好いいアクションが観られればいいわけで、そのあたりがどうなのかというのが最大のポイント。

予告篇を観る限りは、トムクルが飛行機につかまったままで飛び立つあの場面をはじめ、バイクによるチェイスシーンなど、見どころはいくつもありそうだから普通に楽しみにしていました。

 


結論からいうと、面白かったですよ。

夏休み公開の大作映画でおそらくトリを務めることになる作品としては、及第点なんじゃないでしょうか。

なんかエラソーで申し訳ありませんが。

友だち同士やカップル、家族連れなどで観にいくには『ジュラシック・ワールド』と並んでうってつけなんではないかと。

さて、このシリーズって意外と人によって評価がまちまちのようで、たとえばブライアン・デ・パルマが監督した第1作目がスパイ物として一番よくできてた、という人もいればジョン・ウーが撮ったアクション全開の2作目を推す人もいるし、リアルな描写が新鮮だったJ・J・エイブラムスの3作目がお気に入りの人やトム・クルーズのスタントシーンが本格的になってきたブラッド・バードの前作が最高傑作と主張する人もいるという具合で、今回の最新作の評価も各自の好みとか「ミッション:インポッシブル」というシリーズに何を求めるかによって作品の評価に幅が出てくるみたいですね。

僕はこれまですべて劇場公開時に映画館で観ていますが、正直なところデ・パルマの1作目にはさほど思い入れがなくて、オリジナルのTVシリーズのファンにケンカを売るような話だったこと以外はそれほど印象に残っていません。

レオン』で孤独な殺し屋の主人公を演じたジャン・レノがマヌケな仲間役で、同じぐらいの時期に公開されたエメリッヒの『GODZILLA ゴジラ』でもそうだったけど、ハリウッドのジャン・レノの使い方はなんだかあまり好きになれないな、と(その後の渡辺謙の使われ方を思わせる)。

1作目はこれまでTVで何度も放映されているから、回数はかなり観てるし嫌いではないんですが。

2作目は冒頭でトムクルがフリークライミングをしていて凄く高い岩肌にぶら下がってたことと、ジョン・ウーのトレードマークである白い鳩が飛んでたことぐらいしか覚えていない。




バイク同士で衝突して空中で敵とぶつかるクライマックスとか、ちょっと最近の「ワイルド・スピード」っぽくてやり過ぎぶりがエスカレートしていた。

3作目でようやく「おっ」と注目しはじめて、その次の4作目を観て、回を重ねるごとにクオリティが上がってきたな、と。

前作の4作目との比較によって最新作の評価も左右されると思うんですが、前作での“ブルジュ・ハリファ”における「頭がおかしい」としか思えない高所でのスタントアクション(今回の“飛行機つかまり”も十分どうかしてるがw)と原典であるTVドラマ「スパイ大作戦」を彷彿とさせる騙し合いがかなりスリリングだったんで、そちらに軍配が上がるかな。

サイモン・ペグ演じるベンジーの作ったスパイ道具でクレムリンに潜入するところも手に汗握ってなかなか笑わせてくれたし。

逆に前作のあわや大都市で核爆発が、というクライマックスに対して、終盤に向かってどんどんアクションがシンプルになっていく本作はシリーズが続いていくうちに次第に派手で荒唐無稽な展開に陥っていきがちなアクション物としては異彩を放っていて、それが同シリーズの他作品との差別化になっていてなかなか面白かった。

このシリーズって、ジャンルとしては今年の12月に最新作が公開される007シリーズだったり、あるいは「ワイルド・スピード」シリーズに似ているんだけど、ちゃんと観ていればそこには明確な違いがある。

ダニエル・クレイグ主演の007はVFXを極力VFXと感じさせないように処理されていて「スタイリッシュ」にヒーローアクションを描いているし、反対にこれも最新作が最近公開された「ワイスピ」の方はいよいよアクションが現実離れしたド派手なものになってきている。

この「ミッション:インポッシブル」シリーズはちょうど両者の中間のような塩梅で、あまりにマンガ的な描写は控えてCGをCGと意識させないように作りながらも、極端な「リアル」や「スタイリッシュ」指向に偏ることなく時々ユーモアも入れて観客にサーヴィスする。そのさじ加減が絶妙。

 


竹中直人夏菜モビットのCMみたいだった、とツッコんでる人がいてちょっと笑った。確かにw

以前のアクション映画などではスタントシーンになると代役であることがバレないようにちょっとキャメラを引いていたんだけど(『ターミネーター2』でのシュワちゃんのバイクシーンが思いっきり別人だったり、『フェイス/オフ』でスタント時にニコラス・ケイジの髪の毛が増えてモロバレだったりもしたが)、現在では合成でスタントマンと俳優の顔をすげ替えることもできるので、まるですべてを俳優が実際に演じているように見えてよりリアリティが増している。

とはいっても、飛行機の機内に入って高高度で突風に飛ばされたイーサンがもんどりうって壁に後頭部をしたたかに打ちつける場面では、「いやいや、『機動戦士ガンダム』のミハルさんだったら確実に死んでるだろ」と思ったりもしたけど(意味がわからない人はスルーしてください)。

『ローグ・ネイション』でもトム・クルーズやレベッカ・ファーガソンがバイクで行なうコーナリングは彼らの顔と全身が一緒に映っていて、本当にスタントを自らやっているのか合成によるものなのかもはや判別できない。

 


本当にやってるんだとしたら素晴らしいテクニックだし、合成ならそれもまたお見事としか言い様がない(※メイキング映像を観ると、トム・クルーズはアクションのほとんどを自分でやっている模様)。

前作でポーラ・パットンが演じたIMFの女性エージェントをさらに強くしたようなイルサ役のレベッカ・ファーガソン(今回のパットンの不在はファーガソンとキャラがカブるからだろうか)は、それまでは格闘技やアクションの経験がまったくなかったんだそうで。

すべてのアクションをトム・クルーズやレベッカ・ファーガソン本人たちが演じているということはまずないけど、上半身裸のトムクルが腕の力だけで棒を上っていくところとか、冒頭の飛行機つかまりは本人がやってるし、ファーガソンも何ヵ月も訓練を受けて格闘技術を身につけたそうだから、やっぱりその辺の本気度はジャッキー・チェンの映画の「本人がほんとにやってる」アクションシーンに興奮を覚えるあの感覚を受け継いでいるといえる。

 
ステキなアンヨ


見事なエルボー・ドロップをキメるイルサさんと「燃焼系アミノ式」のCMみたいな動きで脱出するイーサン


映画なんだから別にスタントマンがやってたって構わないんだけど、前作のブルジュ・ハリファといい今回の飛行機といい、トムさんのああいう頑張りが映画全体に「もっともらしさ」をもたらしていて、それは他の映画では真似のできないことだから、やっぱりこのシリーズの最大の売りになっている。

今作られているアクション映画で、ここまで主演俳優本人が身体張ってアクションしている作品なんて他にそうそうないでしょう。

ハッキリ言ってジャッキーの映画の“ストーリー”に特に斬新さやストーリーテリングの面白さはないように、この『ローグ・ネイション』もまたストーリーそのものはありきたりというか、またかよ、な組織の内部の人間による内輪揉めみたいな代わり映えのしないものだ。

ストーリーの面白さじゃなくて、あくまでも俳優たちの「アクション」だけで魅せる。

この場合の「アクション」というのは、たとえばトム・クルーズが運転する車の助手席でワーワーわめいてるサイモン・ペグの演技なんかも含めてのことだけど。




この映画を観る前からTwitterのTLでは「サイモン・ペグがカワイイ」とか「ヒロインはペグ」とか皆さんかしましくて、ちょっと食傷気味だったぐらい。

だってトムクルがカッコイイ!とかいうのはわかるけど、サイモン・ペグってちょっと薄毛になりかけてるヒゲ面のおっさんだよ?^_^;

そこまで騒ぐか、とw

 
ペグちゃん危機一髪


まぁ、僕も『宇宙人ポール』での彼は可愛いと思ったし(『ワールズ・エンド』ではわりとイラッとしたけど)、これだけ映画に引っ張りだこということは、その名前でお客を呼べる俳優だということでしょうが。

だって、『スター・トレック』と『ミッション:インポッシブル』にレギュラー出演、さらに今度は『スター・ウォーズ』最新作と、スゴいシリーズに出まくってんだもんな。

まさに『宇宙人ポール』を地で行く、世界中のボンクラの夢を実現させた張本人なわけで。

彼が演じるベンジーとヴィング・レイムス演じるルーサーがトム演じるイーサンをめぐって「俺の方があいつを愛してる」と意味のわからない言い争いをしたり、前作からメンバー入りしたホークアイ、じゃなくてジェレミー・レナー演じるブラントまでもが「友情」を口にする。

トムさんモテモテなんである。

だから平均年齢40代半ばを越えたおっさんたちがキャッキャキャッキャと甘噛みしあいながらやはりおっさんの敵のボスと追っかけっこするという、ある種の嗜好の持ち主たちにはご馳走みたいな映画なんだな。


おっさんたちの最高の笑顔


そもそも脇役にすら若造が一人も出てこない(007だって“Q”に若者成分を注入したのに)。こんなアクション大作も珍しいだろう。

ヒロインのレベッカ・ファーガソンだってティーンエイジャーではないし(彼女が演じる“イルサ(Ilsa)”は、『カサブランカ』でイングリッド・バーグマンが演じたヒロインと同じ名前。ちなみにファーガソンはバーグマンと同じくスウェーデン出身)。

こういう配役って、今の日本のアクション系の映画ではちょっと考えられないでしょうね。

童顔の優男と小娘の映画よりも僕はこういう大人たちが世界を駆け巡るリアル「ルパン三世」みたいな映画の方が好きだなぁ。

その代わり、前作のクレムリン宮殿大爆破やドバイでの砂嵐みたいなVFXを前面に押し出したヴィジュアル的に派手な場面というのはほとんどない(水中金庫のシーンはさすがに全面的にVFXを駆使しているが)。

そこが物足りない、という人もいるかもしれないけど、さっき述べたようにそここそが前作との差別化の結果であり本作のオリジナルな点だと思うんで、工夫のあとがうかがえて僕はわりと好印象でした。

ただ正直なところ、先ほども述べたように物語自体はどうでもいい代物なのでアクションとアクションの繋ぎの部分で若干退屈してしまったところはある。

物語による求心力はないから、おっさんたちの運動会に飽きちゃったら終わりなのだ。

個人的にはあれだけストーリーを酷評した『ジュラシック・ワールド』(映画自体は好きですよ)の方が本作よりも映像面で印象に残ったというのは、ちょっと悔しい。

恐竜とトム・クルーズ、ってスゴい二択ですけど。


とはいえ、これももう一度観たらさらに面白味が増すかもしれませんね。

やっぱりおじさんたちが頑張ってる姿を見るのは愉快だし、実際にウィーン国立歌劇場で行なわれた撮影など映画ならではの豪華な見せ場がふんだんに用意されていて、ちょっとした海外旅行気分も味わえる。

イーサンとイルサのイイ感じになりそうで恋愛に発展しない「同志愛」的な関係も(今回は登場しないけど、イーサンには一応妻がいますし)、何かといえばすぐにキスしてベッドインしちゃうようなこの手の映画の中でストイックを貫いていて、その辺も好きなんだよな。

イルサは「トゥーランドット」の公演中でのドレスからのぞくスラッとした太ももも麗しいんだけど、それでもこの映画は007的なセックスの匂いは希薄で、むしろ「おっさん」を眺める映画といえる(といっても、同じ“スパイ映画”でも『裏切りのサーカス』のように地味でシブくはないというバランス)。

今回初登場のCIA長官ハンリー役はアレック・ボールドウィンだけど、かつて彼が『レッド・オクトーバーを追え!』でCIAの分析官ジャック・ライアンを演じていたことを知っていると、このキャスティングにはクスッとくる。

ハンリーは憎まれ役と思わせておいて最後はイーサンたちに出し抜かれて悔しい思いをしながらもおいしいところを持っていく、ちょっと銭形警部的な役回り。

今後もレギュラーとして登場するかどうかはわからないけど、イーサンたちIMFの敵にもなれば頼りになる味方にもなりうる、なかなか魅力的なキャラなのではないかと。

そして、今回の悪の組織「シンジケート」のボス、レインを演じているショーン・ハリス。

神経質そうな顔のまったく知らない俳優さん(あまりまばたきをしない目が怖かった)だったんでフィルモグラフィを確認したところ、なんとリドリー・スコットの『プロメテウス』でバーコード・モヒカン頭の隊員を演じていた人だった。マジか。スゲェな、俳優って。

 
ほぼ別人


「シンジケート」が世界中の元諜報員や工作員たちによる“ローグ・ネイション”(ならず者連合)であったことが判明して、これもこの手のスパイ物にありがちな展開で目新しさはないんだけど、「スパイ」ってのは別に正義の味方でもなんでもなくて、場合によっちゃ金で動く傭兵みたいな存在なのだということ。

レインは「我々はテロリストではない」と言っているが、彼らがやってることはテロ以外の何ものでもない。

自らの思想信条に則って時には一国の首相も暗殺し、ディスクに収められた莫大な金に繋がる情報のためには手段を選ばない。

ちょうどブラント役のジェレミー・レナーもレギュラー出演している「アベンジャーズ」シリーズもそうだけど、最近のアメコミヒーロー物は“スーパーヒーロー”が必ずしも正義の味方とは限らなくて、結構フラフラと敵味方に分かれたりする展開が多いのを思わせる。

主人公やその仲間が「何が正義か」で悩み揺れる。

絶対的な「正義」などありうるのか?という現代的な問いでもあるし、一人一人が「何が“正義”なのか」を考えなければならない。

そこで出てくる価値観が「友情」。

「ワイルド・スピード」シリーズでヴィン・ディーゼル演じる主人公ドミニクが何かといえば「仲間」というキーワードを口にするように、「大切な仲間のために闘う」というのが主人公たちにとってもっとも説得力を持つ。

今回の『ローグ・ネイション』もまた、大切なのは愛国心でもなければ金でもない。

「あいつ(イーサン)は俺のダチだ」という言葉こそが最強。

単純だけど、それがもっとも信頼できる。世の中がこうであってほしい、と思える。

イーサンは揺るがない。それが実に頼もしい。フラフラとあっちについたりこっちについたりしないのは本当のヒーローの条件だ。

ゆえに、たとえばベンジーを人質にとったレインがイーサンを“ローグ・ネイション”に誘うような展開があれば、それを蹴ることによってさらにベンジーの株は上がりイーサンのヒーロー度は増したかもしれない。

イーサンが最後にレインに告げる言葉が爽快。

こういう粋な終わり方もいい。


シリーズ物って徐々にダレてきてストーリーもアクション描写もどんどんどーでもよくなっていって終息を向かえるパターンが多いんで、「ワイスピ」にしても007にしても、そしてこの「ミッション:インポッシブル」もまたそれぞれのシリーズが近作で安心して観ていられるクオリティを保っているのはほんとにスゴいな、と思います。

劇中では「最後の任務だ」などと言ってるけど、解体されたIMFは再び晴れて復活し、彼らはCIA長官ハンリーの下で今後も任務に就くことになる。

まだまだ続きますよ、と。

最近では4~5年に1本ぐらいのペースで新作が作られてますが、そうすると次回作は2019年か2020年あたりですか。

オリンピック間近ですな(カンケーないけど)。

さて、イーサン・ハントと愉快な仲間たちは、次はどこに向かうのだろうか(日本には来なくていいです)。



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