ロン・ハワード監督、クリス・ヘムズワースダニエル・ブリュール出演の『ラッシュ/プライドと友情』。2013年作品。



イギリス人レーサーのジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)とオーストリア人レーサーのニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)は、F3で出会って以来好敵手として互いを意識してきた。1976年、マクラーレンのハントとフェラーリのラウダはF1の各レースで抜きつ抜かれつを繰り返す。しかしニュルブルクリンクでのドイツGPで最悪のアクシデントが起こる。


その日は最初から映画のハシゴしようと思ってて上映開始時間も確認、『小さいおうち』を観たあと別のシネコンに徒歩で移動して、さぁチケット買おうと売り場に並んだところ、電光掲示板には「吹き替え」の文字が。

なぁにィ~!!!

ディズニーやピクサーのアニメ、それから3D映画の場合は日本語吹替版を観ることもあるけど、基本的に洋画は字幕で観るので吹替版というのはまったく想定外だった。

宣伝でもやってるKinKi Kidsが主役のふたりを吹き替えたヤツね。

彼らの声優としての実力は知らないのでなんとも言えないけど、即却下!

幸いさっきのシネコンで字幕版がやってるのがわかったので後戻り。無駄な労力を使ってしまった。

ロン・ハワードの映画を観るのは久しぶりで、ラッセル・クロウ主演の『シンデレラマン』以来。

ロン・ハワード監督作では、個人的にはやはりラッセル・クロウ主演の『ビューティフル・マインド』がお気に入りだったりする。

アカデミー賞関連の感動作品だから、ではなくて“電波系”の映画としてなんですが。

あと、娘のブライス・ダラス・ハワードもけっこう好きな女優さん。

僕は70年代末期のスーパーカーブームやF1ブームには遅れたんでまるで知識も思い入れもないんだけど、今回は骨太なレーシング映画ということで予告篇も迫力あったし観に行こう、と。

 


…いやぁ、よかったなー。

恥ずかしながら主人公のニキ・ラウダもジェームズ・ハントも知らなかったけど(ニキ・ラウダの名前には聞き覚えがあったが)、それでも30台のキャメラを駆使したというレースシーンでは胸が高鳴り、思わず目頭が熱くなってしまった。

男たちの熱き戦い、って問答無用で魅了されるけど、やはり性格もレースへの取り組み方もまるっきり対照的なライヴァル同士が、それぞれにプレッシャーや葛藤を抱えながら意地やプライドを懸けてぶつかり合う姿には理屈を超えた感動があった。


ニキ・ラウダとジェームズ・ハント

かたや地道に資金集めから車体の改良までみずから細かく関わる理論派、かたや精力絶倫で破天荒を絵に描いたような刹那的な生活を続ける直感型レーサー。




しかし、互いにつねに強気という点では両者は共通している。

イケメンの豪快野郎ハントはもちろんのこと、ラウダも頑固でフェラーリの創始者エンツォ・フェラーリに対しても自信満々で自分を売り込み、特にハントの前では口撃でも一歩も譲らず「阿呆(Asshole)」を連呼する。

その一方でハントはレース前に恐怖でしばしば嘔吐し、ラウダは旅行先で妻に「幸せは僕を弱くする」と呟く。

パトロンだったヘスケス卿が資金難でF1から手を引くと、スポンサーのいないハントは酒に溺れて妻に見切りをつけられる。

そしてラウダにも危機が。


F1には疎いけど、1994年、たまたま夜TVでF1関連の番組を観てたら、アイルトン・セナの事故の映像、その後に彼の死を告げる速報が流れた。

沈痛な面持ちの三宅正治アナの「悲しいニュースをお伝えしなければなりません」という現場からの中継を観ながら、まだインターネットもない時代にほぼリアルタイムで世界的なレーサーの死が報道されたことに少なからぬショックを受けたのだった。

この映画を観ていて、あの夜を思いだしました。

F1に興味ない人にはそれほどでも、みたいな感想もあるけど、少なくとも僕はかなり楽しめましたけどね、この映画。

せっかくだから大きなスクリーンでマシンの轟音とともに観た方が、よりダイレクトにモーターレースの臨場感を味わえるんじゃないかな。

では、これ以降ネタバレがありますのでご注意ください。



映画の冒頭で、早速プレイボーイのハントは病院でナースのお姉さんといい感じに。

演じるナタリー・ドーマーはなんだかキム・キャトラルみたい(金髪でセクシーなお姉さんはみんなキム・キャトラルに見える病気)でイイなぁ、と。




お尻も見せてくれるし(^o^)

で、彼女がヒロインなのかと思ってたら、いつのまにかいなくなってしまう。

なんだこの美女の無駄遣い^_^;

この女優さん、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』では童貞の主人公の初キッスのお相手だった。

そういう役柄専門の人なのか?w


結局ハントはスージー・ミラーという女性と知り合って、あっというまに結婚。

スージー役はどっかで見た女優さんだな、と思ってたら、『トロン:レガシー』でヒロインを演じていたオリヴィア・ワイルドだった。

 


あの映画では色白で黒髪のショートだったのが今回は髪の色も長さも違うし、ハントの奥さんご本人に似せたのか小麦色の肌なのでしばらく誰なのかわからなかった。

なんか若干老けた?

しかしこのスージーさん、ハントが資金難でF1に出られない可能性が出てきて酒飲んでダメダメになってると、「こんな弱い男だと思わなかった」と言って彼を捨てて別の男に走る。

そのお相手が当時エリザベス・テイラーとうまくいってなかったリチャード・バートンなんだから、スケールが違う。さすがセレブ。

「悪い男だと聞いてるが」というハントに、「でも彼からは愛されている実感がある」と答えるスージー。

何しろ、どんなに大勢の女を抱いてもハントはレースのことが片時も頭から離れない。

彼は言う。「レーサーなんて職業を選ぶヤツはまともじゃない」。

そして、レーサーがモテるのは命懸けで一瞬一瞬を生きているから、それにあやかりたいのだろう、と。

きゃああぁ~!!ソー様、じゃなくてジェームズ抱いて!ヘ(゚∀゚*)ノ

映画の中の破天荒キャラって嫌味がなければないほど気持ちいいんだけど、演じるクリス・ヘムズワースはまさに打ってつけのキャスティング。

そりゃコイツならモテるだろうな!と思うもの。

1年間に25人中2人が死ぬ世界。

映画を観ていると、F1の世界がまさしく命を懸けた戦いの場所であることがわかる。

一方、ニキ・ラウダはハントから「あいつ、ネズミに似てるよな」とか言われちゃうような、神経質なご面相のオーナー。

鑑賞中にラウダを演じるダニエル・ブリュールの前歯が微妙に出てるように見えるのが地味に気になったんだけど、あれはニキ・ラウダ本人に似せたんでしょうね。

 


ご本人の顔を見ると、けっしてわかりやすい出っ歯というわけではないのに、でもなぜかいつも前歯が出てるように見える。

なんか面白い顔の人だなぁ、と。

まぁ、そのあとの顔の方がインパクトありすぎて元の顔を忘れちゃいそうになるけど。

女性に関してもハントとラウダは対照的で、ハントが同じジェームズでも007ことジェームズ・ボンドばりに(二人とも英国人)女の海を泳ぎ渡っているのに対して、ラウダは妻一筋。

旅行先で奥さんとキャッキャしながら追っかけっこしてる場面とか、微笑ましすぎて笑った。

 




もっとも史実ではラウダはそのマルレーネ夫人(アレクサンドラ・マリア・ララ)と91年には離婚して、その後彼の航空会社の元CAで30歳年下の女性と結婚していたり、不倫騒動があったりなどけっこうよろしくやってるようなので、ハント=モテ男、ラウダ=非モテ男、というのはあくまでも映画化に際してわかりやすくキャラ付けした結果なんじゃないだろうか。

ハントが言っていたように、一流レーサーは皆モテるのだ。

 
映画の中でも再現されるセクシー・ハントさん

一方が優勝すれば一方はリタイア、それが次のレースでは逆転と、ハントとラウダは一進一退のデッドヒートを繰り返す。

「同じマシンなら絶対に俺が勝つ」とハントが言い放てば、ラウダも「マシンも実力のうち」と返す。彼は最高のマシンを手に入れるために奔走したのだから。

さっきも書いたけど、もうこのあたりで涙腺が緩んできましたよ。

中指立ててディスりあいながらも、彼らは互いをリスペクトしている。

だからこそ、あいつには負けたくない。

ニュルブルクリンクでのレースの決勝当日、雨によって路面が濡れていためラウダはレースの中止を進言する。

しかし、投票でハントを始めとする多数派の意見が通り、レースは続行されることに。

2周目、コース北部のコーナー“ベルグヴェルグ”手前のカーブでラウダのマシンはクラッシュ、炎に包まれた彼は有毒ガスを吸い大やけどを負って生死の境をさまよう。




体内の70%の血液を入れ替え、肺に溜まった膿を吸引するために口から直接管を挿入したり、焼けただれた顔に太ももから皮膚を移植する整形手術など、妻のマルレーネさえも思わず絶句して涙ぐむほどの過酷な治療。

ラウダは「死んでたまるか」と耐え抜き、彼の不在に追い上げてくるハントのレースの模様を病室のTVで観ながら奮起、なんと事故から42日後にレースに復帰する。

これはちょっと想像を絶する根性、というか、壮絶としか言い様のない超人的な復活劇。

 


クライマックスの決戦がちょっと肩すかし気味(史実なんだから仕方ないが)というのもあるけど、でもあの場面は命を捨ててレースに殉じるよりも愛する者のために生きて帰ることを選んだラウダの選択こそがキモなのだろう。

最終決戦となるF1世界選手権イン・ジャパンの描写は日本でのロケは行なわれず(舞台の富士スピードウェイはすでに設備が最新式に改修されているため)、イギリスで飛行場にオープンセットを組んで撮影。

だから悪天候によるあの空模様も、バックに映る富士山もおそらくはCG合成。

まぁ、それは観てたらなんとなくわかるんですが。

時々怪しげな漢字の看板や聞き取れない日本語の実況とかあったりしてドキドキしながら観てたけど、ロン・ハワードは極力粗が目立たないように配慮してたと思います。




ラウダの「賢者は敵から多くを得る」という言葉。

これほど自信に満ちた言葉もないだろう。

ラウダにとってハントは「多くを得る」に足る存在だったということだ。

このふたりの関係は、もう当事者にしかわからないような男同士のブロマンスのようにも見える。

ラウダは回想する。「彼は私が唯一嫉妬した相手だった」。

ところが文字通り命を懸けてまで戦い抜いた世界にもかかわらず、ハントはわずか3年後にあっさり現役を引退している。

瀕死の重傷を負ったラウダはサーキットに残り、さらに次世代のレーサーたちとも激闘を繰り広げた。

そんな両者の姿もまた実に対照的である。

ハントは93年にわずか45歳の若さでこの世を去り(翌年レース中の事故で亡くなったセナはさらに若い34歳だったが)、ラウダは今も健在。




「ハントとこの映画を観たかった。飛行機の中のCAとの描写は彼も気に入っただろう」と語っている。


この映画はハントとラウダのある時期に的を絞って描いていて、F1のことをよく知らない僕のような者でもすんなりと入っていける。

映画がラウダ目線なのは、現実にラウダが存命中だからというのもあるし、監督のロン・ハワードが「自分はハントのようなプレイボーイタイプではないので」ということもあったんだそうで。

たしかに多くの男性陣が肩入れできるのはラウダの方かもしれない。

でもハントはラウダが嫉妬せざるをえないようなイイ男(ウホッ)だったんだよね。

ハイオクガソリン満タンの「走る爆弾」に乗って時速300kmで順位を競い合うF1レースは、現代における騎士道的なスポーツ、死と隣り合わせの崇高なゲームである。

男というのは、いつの時代も愚かだ。

しかし、そんなふうにわざわざ命を危険に晒して戦う男たちの姿に言い知れぬエクスタシーを感じるのはなぜなのか。

人は、おのれにはできない高みを目指す者たちに畏敬の念を抱く。

オリンピックのアスリートたちに感じるのも同様の感情だろう。

今日もサーキットにはマシンの唸り声が鳴り響いている。

誇り高く熱きレーサーたちは、音速のかなたで他の誰も見ることのできない世界に触れているのに違いない。


※ニキ・ラウダさんのご冥福をお祈りいたします。19.5.20



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