判例タイムズ2016号で紹介された事例です(東京高裁平成27年2月9日決定)。

 

 

本件の経緯としては,昭和2年生まれの高齢者(本人)の配偶者が亡くなり相続が発生したところ,法定相続人である長男と代襲相続人である孫との間で遺産分割の問題が発生したところ,孫が主導する形で,形上は本人の名義で家庭裁判所に対し相続放棄の申述手続きが申し立てられ,受理されました。

その後,申し立てられた遺産分割調停手続きにおいて,相続人として本人が加わっていたことから,孫から「本人は相続放棄手続きをしたはずだから遺産分割調停には参加できないはずである」との申立てがあり,家裁はこれを認める決定(調停手続きからの排除決定)をしました。

しかし,本人の後見人として選任されていた弁護士の後見人から,その決定に対して抗告があり,高裁において,本人の相続放棄手続き当時における意思能力について仔細に認定されたうえで,相続放棄は本人の判断能力を書いた状態でなされたものといえ無効であるとされたうえで,本人はなお遺産分割調停に相続人として加わることができると判断されたというものです。

 

 

高裁が本人の判断能力がないと判断した理由としては,本人を直接診断した医師による診断(田中ビネーで精神年齢8歳程度,重大な物事について本人理解力を超えて困惑してしまう,現住所や終戦の年を言えないなど)のほか,相続放棄の理由として「自分の生活が安定していること」を挙げていたが本人には配偶者の遺産以外にはわずかな年金しか収入資産はなく生活を賄える状態ではなかったということから相続放棄することが不合理な判断であったことや孫が本人の相続放棄手続きに深く関与していたことなどから,判断能力が十分ではない状態において孫に勧められるままに手続きしたと言えるというものでした。

 

 

また,家裁による決定(遺産分割調停の手続きから排除する決定)を本人が受け取ったことにはなっており,抗告の期限は決定を受け取ってから2週間以内とされていることとの関係では,本人の判断能力が認められない本件においては,訴訟無能力者に対する訴訟書類の送達はその法定代理人(後見人など)が受け取らなければ効力が発生しないこととされていることから(民訴法102条1項),弁護士が後見人に選任されたことが確定してから4日後に抗告手続きがされていることをもって抗告期限の徒過もないと判断されました。

 

 

判例タイムズに掲載されている決定文からははっきりしませんが,おそらく,本件の後見申立は本人の相続放棄がなされたとして遺産分割調停手続きから排除されるという事態となってから(本人は遺産を相続できないのでその分,孫の取り分が増える),本人の長男によって「それはおかしい」として後見の申立がなされ,後見人となった弁護士において,遺産分割調停に参加し,本人が生活するための財産を確保するために,抗告の手続きが取られたものと推察されます。

 

 

本件のようなトラブル案件の場合,どのような点がポイントであるかについてある程度家裁からもレクチャーがされますし,選任されるまでに事前に記録を閲覧するなどすることも可能ではありますが,選任されてからのんびりしたままでは抗告期限を徒過していたという危険性もあるにはあったということになります。

高齢者の後見人となる際に,裁判上の手続きについての不服申し立てなどが想定されている場合にはちょっと留意しなければならないということになりそうです。

 

 

 

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