判例タイムズ1424号で紹介された事例です(大阪地裁平成26年11月10日判決)。

 

本件は、高級クラブにおいて、「社長」と呼ばれ黒服部隊のトップを務めていた被告人について、ホステスたちから源泉徴収をする義務を怠ったとして起訴されたという刑事事件で、結果として、被告人は、所得税法183条1項の「給与の支払いをする者」に該当しないと判断され、無罪となりました。

 

所得税法第183条  居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

 

本件の高級クラブでは、「オーナーママ」と呼ばれる営業面でのトップのAと黒服(裏方)部隊のトップであった被告人が二人三脚で経営していた個人営業の店でしたが、被告人のみがホステスから約8000万円弱の所得税を源泉すべき義務を怠ったとして起訴されました。

 

 

本判決において、源泉義務を負う者とは、給与や報酬の支払いを受ける者と特に密接な関係にある者をいうという判例の立場、その基準として、雇用契約などの債権債務関係に立つといった関係にあることがみとめられるかという通説的基準に依拠したうえで、被告人はAの5分の1程度の報酬しか得ていなかったことや幹部ホステスの採用権限はAにはあったが被告人にはなかったことなどから、被告人は経営者ではなく、クラブの幹部従業員であったに過ぎずホステスとの間で雇用契約等を締結していた主体ではなく、源泉徴収義務者にあたらないと判断しました。
被告人が「社長」と呼ばれていたことについては単なる対外的な肩書であって、法的な経営者であることを示すものではないとされています。

 

 

本件クラブの経営者としてはオーナーママであるAであったわけですが、Aについては、故意がないという理由で起訴がされなかったということです。判決において「本件の特異性」という一項が設けられ、本件において、検察官はクラブがAと被告人の共同経営であると主張しながら(ただし、Aについては故意がないため起訴しない)、検察側証人はすべて「被告人の単独経営であった」と証言し、弁護側証人はすべて「Aの単独経営であった」と証言するなど、そもそも共同経営という検察官の主張を裏付ける証拠は被告人の検察官調書しかないこと、国税の税務調査の際に被告人は「Aに事情聴取するならば一切協力しない」として国税当局はAからは全く事情を聴かないまま事案を処理し、そのまま検察官に引き継いだという経緯などが指摘されています。

 

 

税務調査の段階では被告人がすべてひっかぶるということで話が付いていたのではないかと思いますが、その後手続きが進み、実体と証拠が合わないまま起訴に至り、ちぐはぐな形で公判が進行した結果の無罪判決ということなのでしょうか。何か事件処理の闇を垣間見たような気がします。

 

 

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