判例時報2286号で紹介された事例です(大阪地裁平成27年7月22日)。



後見人(保佐人・補助人)の報酬は裁判所が決めるものとされ,本人が生きている間は,定期的に年1回の後払いとされることが多く,本人が亡くなってしまった場合には,報酬を貰っていない期間について亡くなった日までの報酬を決めてもらうことになります。本人が亡くなった場合の最後の報酬審判は当然,本人の死後に家裁が出してくれることになります。



後見人の報酬は,あくまでも本人(被後見人)の財産の中から与えられるものとされ(民法862条),家裁が出してくれる報酬決定審判も「被後見人の財産の中から金○○万円を与える」と記載されています。


(後見人の報酬)
民法第862条  家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。


後見人が本人の財産を管理している間は,決まった報酬金額を後見人が管理しているしている本人名義の口座から引き出して頂けばよいわけですが,被後見人が亡くなってしまった後,最後の報酬をどうやってもらうかというのは,後見実務上のグレー処理の世界とされています。本人が亡くなってしまった瞬間に後見人の地位,権限は消滅してしまうことになりますので,本人名義の口座から引き出してしまってもよいのだろうかといったことについては後見初心者などは不安になるものです。


といっても,特段悩む必要まではなく,報酬金額については本人が亡くなった後であっても本人名義の口座からキャッシュカードを使って引き出したとしても咎められることはないです。もっとも,キャッシュカードならともかく,本人が亡くなった後でに窓口で,「後見人」を名乗って報酬とはいえ現金を引き出すというのは,少し気が引けるような気がします。



また,実務上は,本人が危篤という知らせを受けた又は本人が亡くなったと聞いた時に,少し多めの金額を引き出してしまって,保管しておき,亡くなった後に,報酬相当額を差し引いてから,本人名義の口座に戻したり,相続人に対して引き継ぐということも行われています。これについても特にとがめだてされることはありません。



前置きが長くなりましたが,本件は,後見人であった弁護士が,家裁が決めた最後の報酬について,本人の相続人に対して,その相続分に応じた金額の支払を求めたという訴訟です(前記した家裁が出してくれる報酬の審判書という書類があっても,これだけでは強制執行したりすることはできません。)。




前記のとおり,実務上,本人の危篤や死亡直後に,報酬等の確保のため多めに出勤しておくという処理をすることが一般的なのですが,本件でも,弁護士後見人は500万円を引き出して預かり金口座で保管の上,1年間分の報酬や葬儀関連費用の立て替え分についてはその中から受領したのですが,支払を受けていない最後の報酬部分だけは,なぜか,家裁の報酬決定が出る前に本人名義の口座に戻してしまいました。




その後,最後の報酬の審判が出たものの,相続人が支払わないということで訴訟を起こしたというのが本件です。




結論としては,裁判所は,後見人弁護士の訴えを認めて,家裁が決めた報酬金額を相続分で按分した金額についての支払いを本人の相続人らに対して命じました。




理屈としては,後見人の報酬を支払うべきは本人であるから,債務者としては本人ということになる,(本件では本人は遺言をしていましたが)本人が遺言で債務に関しては何も定めていないのであれば後見人の報酬債務については原則として相続人の相続割合に応じて相続人が承継することになるというものです。



条理としては至極当然のことではありますが,

・本人死亡後の報酬審判が出された時点では本人が死亡している以上,債務者となるべき当事者である本人が存在していないのではないか(この点については,判決では最後の報酬審判は本人の死亡時点にさかのぼって発生するのだと言っていますが,理論的に合っているのかどうかはやや疑問です)

・民法862条が「被後見人の財産の中から」と規定している点との整合性(この点については,判決では同条の趣旨は「被後見人の財産を超えて報酬を付与することはできない」という趣旨であると指摘し,相続人に対して命じた支払があくまでも被後見人の財産の中から支払われるべきであるとししても,そのことは執行の段階で考慮すべきである,と行っていますが実際にどのように考慮するのかはよく分からないところです。)

といった諸点についてあまりよく分らないところもあります。




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