判例時報2283号で紹介された事例です(東京地裁立川支部平成27年4月14日判決)。



本件は,被告人が家電量販店において,午後0時57分頃から1時28分頃までの約30分間の間に,それぞれ別の階にあるゲーム売り場,理美容売り場,ヘッドホン売り場などに次々と場所を変えては,素手やバイクのカギでケースをこじ開けてゲームソフトを取ったり,爪切りやヘッドホンを取るなどし,店外に出たところに店員から声を掛けられたというものです。



被告人には,平成21年(客や店員のいるラーメン店の事務室に侵入して現金等を窃盗した 執行猶予),平成22年(コンビニでたばこ6カートンを万引き 実刑となり前の執行猶予が取り消された上で服役)に,それぞれ同種の前科がありました。



これだけ聞けば,「ああ,またやったな」ということで,よくある懲りない万引き犯の事案というところです。




しかし,被告人は,本件で勾留中に拘置所内でけいれんを起こして倒れ,脳波検査の結果,突発性けいれんと診断されました。

被告人は以前にも,話し方がおかしくなった,自宅でけいれんを起こしたなど複数回,救急搬送されたりしたことがありましたが,明らかなけいれんの原因は認められないとして,そのまま大した治療もなく経過していたということです。




本件では,万引き(窃盗)当時,NCSE(非けいれん性てんかん重積)の症状があり,善悪を弁識し,自己の行動を制御する能力になかった合理的な疑いがあるとして,責任能力がないという理由で無罪とされました。



判決や判決が依拠する医師の鑑定などによると,NCSE(非けいれん性てんかん重積)というのは,てんかん発作が一定時間以上連続的に生じる状態で,けいれんを伴わないものを指し,意識障害(分別もうろう状態)が主要な臨床症状となる,一見まとまった行動をとっているように見えるが,それまで行っていた動作を半意識的に続けたり,理性が低下して欲求が行動化したりすることがある,けいれんのような素人でもわかる症状がいなので,周囲の人も気づかないことが多く,このタイプのてんかん重積はしばしば見逃されていることがあるということです。




この観点からすると,本件の被告人の経歴は,大学卒業後,大手自動車販売店に就職して店長を務めるまでになり,結婚し子どももいたものの,平成10年ころから体のだるさや不眠などに悩まされるようになり,同年に離婚,15年には退職するなどであったとのことで,周囲に気づかれないまま実は症状が出ていたということなのかもしれません。




そして,本件鑑定において,被告人は,周囲に店員や客などがいる店舗内で,売り場を行き来しては,ケースをこじ開けてソフトなどを取るという不自然,不合理な行動を繰り返していたことなどから,てんかんによる意識障害の影響下にあったとと結論付けられ,裁判所も鑑定に依拠し,被告人は心神喪失状態であった合理的な疑いが払しょくできないとして無罪とされました。



なお,犯行時に犯行が発覚しないように細工したり,犯行後に弁解したりする行動があると,行為の善悪を弁識することが出来ていたことの根拠の一つとされることがあり,本件においても,被告人が店員に対して弁解していたことが検察側から主張されましたが,てんかん発作が起こった場合の脳波は数分程度で改善したり,店員に声をかけられた刺激で意識レベルが回復することもあり,そのようなことがあったからといって犯行時に心神喪失であったのではないかという点についてはやはり揺るがないものとされました。



なお,鑑定によると,被告人は平成21年ころからはてんかんの症状が発現していた可能性があるとされていますが,そうすると,平成21年,22年の前科というのも,てんかん症状により責任能力が減退している状況下で行われていた可能性も十分にありそうです。



一見すると理性を備えているように見受けられながら実は責任能力に問題がある被疑者,被告人が相当紛れ込んでいるのではないかという問題意識はある程度高まってきてはいるものの,実際に疑いをもって対応していくというところまではしきれていないということもあり,このような判決を契機としてさらに問題意識を高めていく必要がありそうです。






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