判例時報2279号で紹介された事例です(東京高裁平成27年8月31日判決)。



本件は,痴漢事案で,略式命令により罰金50万円の判決を受けた被告人が正式裁判を請求したところ,略式命令の請求に当たって検察官が,捜査段階で成立し弁護人から送付を受けていた被害者との示談書(示談金20万円を支払い,被疑者のことは許すという内容)を裁判所に提出せずに,被害者から電話で聴き取った「示談は成立しましたが,必要なら処罰してください」という電話聴取書を提出していたことが分かったというものです。



一審では,改めて示談書が取り調べられたうえで,罰金50万円の判決となりましたが,被告人側が,略式命令の請求に当たって裁判所に示談書を提出しなかったことは不当であるといった理由で控訴されたというのが本件です。



略式命令というのは,交通事故事件などでも多くありますが,検察官の請求により書面審理のみで,裁判所が100万円以下の罰金刑を科すというもので,判決に不服がある場合に正式裁判の申立をして,通常通りの裁判による審理を求めることも出来るという制度です。


刑事訴訟法第第461条    簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。

第461条の2  検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
○2  被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。



略式命令は書面のみの審理であり,被告人に有利な証拠が提出されないとなると,公正な判決を担保することができなくなるということが懸念されるところ,控訴を受けた高裁においても,本件示談書は一般情状に関する重要な証拠であって,本件において,検察官は示談書を提出することが相当であったと認められるとしています。



しかし,結果として正式裁判の審理により示談書が取り調べられ,また,罰金50万円という量刑自体も相当であったということから,被告人の控訴自体は棄却されています。




被告人が正式裁判を求めた事情について判決文では触れられてはいませんが,おそらく,罰金の金額が予想外に重く,示談もしたはずなのになぜこんなに高いのだということが不服であったものと推測されます。

それで,ふたを開けてみたら,成立したはずの示談書が裁判所に提出されていないことが分かり「ふざけるな!」ということになったのでしょう。



被告人に有利な証拠は隠し持ったままにするという証拠隠しの態様の一つとも言うことができ,また,被告人が正式裁判を求めなければこのようなことが明るみに出ることもなかったのであり,判例時報の解説を読んでも,検察官の対応に対して批判的に論評されているところです。






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