判例時報2278号で紹介された事例です(仙台高裁平成27年9月16日判決)。



遺留分減殺請求権は,遺言などにより自分の遺留分が侵害されているということを知った時から1年以内に行使しなければなりません。例えば,自筆証書遺言であれば,内容が分らないまま検認の手続の場でその内容(全財産を自分以外の相続人などに相続させるなどとなっていた)を知った時から1年以内に,遺留分減殺請求権の行使の意思表示をしなければなりません。



遺言の内容を知らないまま相続発生から10年間経過した時も消滅時効により遺留分減殺請求権は消滅することとされています。



民法第1042条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。


本件は相続発生が平成10年5月でしたが,遺留分減殺請求権を行使したのが10年以上経過した平成24年6月でした。



なぜこんなことになったかというと,平成11年に相続人4名が出席して遺産分割協議をした際に,遺されていた自筆証書遺言(遺産を孫であるAに遺贈するという内容)について,遺言は開封されているので無効だということで全員一致し,そのような前提で平成23年までの間,ずっと,遺産分割協議を続けてきたという経緯がありました。遺言が無効だというのは,相続人の一人(遺贈されることになっていた孫Aの父親B)が町の税務相談会で司法書士からそのような見解を聞いてきたということが根拠となっていました(なお,封印された遺言を検認手続に寄らないで開封した場合5万円以下の過料に処せられることとなっていますが,そのことのみをもって,当該遺言が無効となることはありません。)。




長い遺産分割協議が続いている間,遺贈を受けるということになっていた孫Aが遺言の有効性を主張したりするということはなかったということです。




ところが,平成23年10月になって,司法書士から聞いた情報で遺言無効ということを言っていた当の本人である孫の父親Bが,別の司法書士から「開封されていた遺言も有効性に問題はない」という見解を聞いたことから,重税の見解を改めて,遺言は有効であるとして態度を翻したのでした。Bにとってみれば,遺言が有効であれば自分の子であるBが遺贈を受けることになるので特に問題ないという事だったのでしょう。




Bは平成24年2月になって当該遺言の検認を申し立て,これに基づいて,遺産である不動産をBに名義変更する登記手続も行われました。




そこで,他の相続人Cが平成24年6月に遺留分減殺請求権を行使した上で,遺留分に基づいて登記の移転を求めたというのが本件です。




一審は,遺言の存在と内容自体は分っていたのだから,相続開始から10年以上経過しており,本件遺留分減殺請求権は時効消滅したと判断しました(相続人Cの敗訴)。




高裁でも,相続人Cの敗訴という結論は維持されましたが,少し理屈を変えています。

相続発生から10年経過すればどんな事情があっても遺留分減殺請求権が時効消滅するというのは公平ではないので(受遺者側は10年以上経過していたとしても権利主張ヴ許されることとのバランス),遺留分減殺請求権の行使が期待できなかったという特別の事情があった場合には,その時点から6か月間の間に遺留分減殺請求権の行使がされれば有効な権利の行使として認めるべきだと判断しました。

本件では,遺言が無効という前提で相続人全員の間で協議がされていたという事情は上記の特別の事情に当たるものの,Bが従来の見解を改めた平成23年10月からは相続人Cは,遺留分減殺請求権を行使することができた筈であるから,6か月以上経過した平成24年6月の行使では遅すぎるという理屈になっています。



6か月というのは,不法行為の除斥期間20年の適否に際して,期間満了の際に権利行使が期待できないような場合(公害による被害を受けた被害者が寝たきりのまま後見人も付いていないようなケース)に除斥期間の完成を認めることは酷であることから民法160条の法意に照らして権利行使が期待できるようになってから6か月以内に権利行使すればよいという最高裁が示した理屈に則ったものです。






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