判例時報2274号などで紹介された事例です(東京地裁平成27年3月25日判決)。



本件は、親族間の相続を巡って、委任を受けた弁護士が説明義務違反等に問われたという事案です。相続問題を取り扱う弁護士にとっては身につまされる事案です。




事案自体は単純で、被相続人が、子どもの中の一人に対して遺産を全部相続させるという自筆証書遺言を遺して死亡し、他の子どもが遺言の有効性を争ったというものです。



問題となったことの一つは、仮に遺言が有効と判断された場合に、遺留分減殺請求権のことについて弁護士が依頼人に対してきちんと説明したのかどうかということでした。



自筆証書遺言の検認に先立つ初回に法律相談において、依頼人は、弁護士に対して遺言は無効であるとの認識を示し、これを受けて弁護士は、方針として、遺言無効確認訴訟の提起について説明しましたが、その際、仮に遺言が有効であるとされた場合の遺留分減殺請求権のことについても話しが及び、弁護士は、遺留分減殺請求権は内容証明郵便でもできることや1年以内にしなければならないことなども説明していました。この際、依頼人から「遺留分は絶対に取れるのか」という質問があり、「取れます。」と回答しています。さらに続けて、「絶対に?」という念押しがあり、弁護士は「取れます。」と答えました。




その後、自筆証書遺言の検認が済み、実際に遺言を確認した依頼人は「絶対に偽造されたものである」と確信し、弁護士に依頼して、遺言無効確認訴訟を提起するとともに、それに先立って、遺産が勝手に処分されないように保全処分の手続も取られました。保全処分に当たっては担保をたてる必要があるのですが、この際、依頼人が、担保が返ってくるのか質問したところ、弁護士は、担保を立て終わった後になって、「本訴訟で敗訴した場合には担保が取り戻すことができなくなる可能性がある。」という説明をしたということです。




遺言無効確認訴訟の推移については、主要な争点となった偽造の有無について、裁判所が選任した鑑定人が、被相続人の筆跡であるとの結論が示され、このことが分かった時点で、遺留分減殺請求権の消滅時効が迫っているという段階でした。




しかし、弁護士は、「遺留分減殺請求権を行使する。」というはっきりとした意思を示した内容証明を送ったり、訴訟手続においてそのような記載をすることはなく、準備書面の中では「少なくとも遺留分の権利者である。」との記載をしただけでした。




結局、遺言無効確認請求について一審では依頼人の敗訴となり、さらに、控訴審においても、裁判所から和解を勧められたものの、あくまでも遺言を有効とするか無効とするかという前提事項について折り合いがつかず、和解協議は打ち切られ、控訴棄却となりました。




遺言は有効という結論のまま判決は確定し、その後、相手方から、本案敗訴により先行してなされた保全処分は違法であるという理由により損害賠償請求が提起され、この件では、依頼人は800万円の和解金を支払うというトホホな内容での和解をすることになりました(本案で敗訴した場合、先行してなされた保全処分については原則として違法となるという判例があります)。




また、依頼人は、改めて遺留分減殺請求権に基づく訴訟を提起したものの、既に消滅時効が経過しており、苦しい訴訟展開となり、裁判所からの和解の勧めもあり、本来とれるはずの金額の3割相当の金額の支払いを受けるという,これまたトホホな内容での和解をせざるを得ないこととなりました。




依頼人の怒りは先に依頼した弁護士へと矛先が向かうこととなり,弁護士が遺留分や保全の担保についての説明をきちとんしなかったといった理由で損害賠償請求をしたというのが本件です。



裁判所は,弁護士による遺留分減殺請求についての説明義務違反を認めて,本来取得できるはずであった遺留分額から依頼人が和解で得た金額を控除した金額についての損害賠償を認めました。

筆跡鑑定で不利な結論が出た時点で少なくても遺言が有効であることを前提として遺留分減殺請求についての説明をしておくべきであり,そうしていれば,依頼人としても遺留分減殺請求はしていたであろうと認められています。

なお,訴訟の進展に従って不安となった依頼人から弁護士に対して「遺留分は大丈夫なのか」という問い合わせがされたのに対して,弁護士は「少なくとも遺留分権利者である」と記載した準備書面を出してあるから大丈夫とか,時効消滅しないことは明らかですといった説明をしていたようです。




保全の担保についての説明義務についても違反が認められましたが,仮に説明していたとしても,依頼人は保全の以来をしていたであろうと認められ,この点についての損害は認められませんでした。




本件では他にも,訴訟追行の仕方などについても争われており,一審の尋問の際に,尋問事項を記載した書面が尋問前日に送られてきたことや控訴審でも遺言友好を前提とした和解協議に臨まなかったことなどについて争われており興味深いところです。





遺言が無効であることを主張することと,有効であることを前提として遺留分減殺請求をすることは矛盾するので,ついつい,遺言の無効を主張する依頼人と一緒に熱くなって,遺留分減殺請求をすることを疎かにしてしまいがちですが,予備的にであっても,期限内にしておくように心付けていないと,取り返しがつかないことになってしまうので,なかなか身につまされるところもあり,私も気を付けているところです。




また,保全の担保についても,大抵の場合,勝訴したり和解したりして,戻ってくることが多いのであまり留意しませんが,場合によっては戻ってこないこともあり得ることについてまできちんと説明しておかないといけないということを改めて感じました。




本件は控訴されているということです。






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