判例時報2272号で紹介された事例です(東京地裁平成27年2月3日判決)。



本件は,A社がB社に対して仮差押命令を申し立て銀行預金や動産(工場内の原材料)を仮差押たものの,B社の異議申立により,A社が主張する被保全債権の存在自体がないとして仮差押命令が取り消され(保全抗告でもその判断が維持されました),その後,A社がB社に対して本訴訟を提起したところ,B社が,反訴として仮差押命令の申立と本訴訟提起が不法行為であるとして弁護士費用相当額などを請求したというものです。



保全処分が取り消された場合特段の事情のない限りその申立は過失があるものと推認されその保全処分の申立が不法行為となるというのが判例の判断枠組みですが,本件で,裁判所は,A社が仮差押命令を申し立てた時点でB社に対する債権を有しないと判断できるだけの事情があった(A社が主張するB社に対する債権は,事業譲渡によりB社に移転したというのがA社の主張でしたが,事業譲渡がクロージングされていなかったということや解除されていたという事情をA社も把握していたとされています)とされ,過失の推認を妨げるだけの特段の事情はないものとされ,本件仮差押命令申立は不法行為となり,その対応のためにかかった弁護士費用(着手金70万円 報酬600万円)が損害として認められました。




保全処分が取り消された後に本訴訟が提起され原告が敗訴した場合,そのことのみをもって原告の過失が推定されるとはいえないというのが判例の立場で,訴訟の提起が違法とされるのは,裁判を受ける権利との関係から,主張が事実上,法律上の根拠を欠くことを知りながら又はそのことを容易に認識しえたのに敢えて訴訟提起したような裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限られるということとなっているところ,本件では,A社が訴状においてしていた主張とその後B社からの反論を受けて主張を変えたことといった訴訟態度に照らして,A社はその主張が事実上,法律上の根拠を欠くことを認識していたものと窺われるとされ,本訴訟の提起についても違法とされ,そのために要した弁護士費用(着手金300万円超など)が損害と認められました。



保全処分(特に本件のような仮差押えなど)というのは,債務者側(本件のB社)に知らせずに密行して行われるため,債権者側(本件のA社)が誠実に事実や証拠を提出しなければならず,本件においてA社は把握していたB社の反論を根拠づける事実や証拠を伏せていたということが窺われるのですから,判例の判断枠組みに従って過失ありとされたのは仕方なかったのかなとも思います。

この辺りはある意味怖いところがあり,本訴訟で敗ける可能性もあるような微妙な事案で,気安くポンポン保全処分を申し立てて,認められたからといって素直には喜べないということになります。債務者側の知らないところで行われる手続きについて,こういう点でバランスを取っているということができます。またそうすることで,保全の申立手続において,債権者側が誠実に事実や証拠を提示し,債務者側の反論もある程度取り込んだうえで主張がされることが期待されているということも出来ます。



本件では,さらに本訴訟の提起自体も不法行為となるとされてしまったわけですが,この点については,裁判を受ける権利との関係もあり,本件では控訴されているということなので,敗訴したA社側としても引き続き争っていくことになるのでは無いかと思われます。




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