判例時報2272号で紹介された事例です(東京高裁平成26年7月17日判決)。




本件は、賃貸人側(所有者が高齢となり、成年後見人として弁護士が選任され、同弁護士後見人が訴訟提起、遂行していました)からの合意解除又は期間満了に基づく建物の明け渡し請求に対し、賃借人が立退料として340万円の支払いと引き換えでなければ明け渡さないと争っていたという、よくある平凡な建物明け渡し訴訟でした。




後見人弁護士からの期間満了等の通知により建物の賃借人は順次建物を明渡し、最後に残ったのが被告のみでしたが、被告は立退き料は340万円であるとして頑として譲らず、かといって、成年後見人である以上、弁護士としても大盤振る舞いなどすることはできないので、賃料の1年分に相当する約39万円弱を立退き料として提示するのが精一杯であり、それでも被告が明渡に応じなかったことから訴訟提起となったものでした。



一審において、担当裁判官が4回の和解期日で和解を試みたもののうまくゆかず、和解を打ち切って、証拠調べ期日まで入れたところで、異動により裁判官が交替となりました。



新任の担当裁判官は、証拠調べが予定されていた期日に予定されていた証拠調べをすることなく、再度和解を勧めて、約2週間後に和解期日を入れたのでした。




そして、その和解期日において、裁判官から被告を長時間説得の上、立退き料を220万円とする和解が成立したとして、合意事項を読みあげて、和解調書が作成されました。



ところが、被告は、調書に記載する送金口座を裁判所に連絡してこず、成立した和解は、裁判官から約2時間に亘って執拗に迫られて仕方なくしたものであって真意に出たものではないから無効であると主張し始め、再度訴訟手続を始めるように裁判所に申し立てたのでした。この段階に到り、被告はそれまでの本人訴訟から代理人弁護士を依頼したのですが、その代理人弁護士と賃貸人側の後見人弁護士との間では、和解が有効に成立したことを確認することや被告がこれに従うことを認めるようにも読める陳述書というものも作成されていました。



裁判所は取り合わず、和解により訴訟が終了したことを宣言した上で訴訟手続を打ち切りましたが、これに対して控訴したというのが本件です。




高裁では、一貫して340万円の立退き料を求めていた被告が減額された金額で和解したとしても慎重に確認すればそれが真意ではないということが分かったはずであり、和解は被告の真意に出たものではないとして、和解を無効であるとしました。



被告さん、よかったですね。



ところがどっこい、高裁は、さらに続けて、一審に差し戻すのではなく、高裁自らで判決してやろうということで、下した判決が立退き料40万円と引き換えに建物を明け渡せというものでした・・・被告にとってみれば和解無効だなどと大騒ぎせず、和解したままにしておけばずっと得だったということになります。





本件での和解無効に関する判断などは単に取ってつけただけのもので、あまりにも手を焼かして掻きまわす被告に対して肘鉄を喰らわせた、という風に理解した方がよいように思います。



上杉謙信や景勝の重臣であった直江兼次のエピソードに、家人を殺された家族が「生きて返せ、生きて返せ」と訴えるのに対し、兼次が犯人を斬首しても、金を与えても、それでもなお訴えが続くので、あの世の閻魔大王に殺された者を生きて返すように書いた手紙を持たせた上で訴人を軒並み斬首したという逸話があったと思うのですが、なんとなく、そのことを思い出してしまいました。




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