判例時報2272号で紹介された事例です(広島高裁平成27年6月18日判決)。




本件は、弁護士が、依頼者から受け取った手紙を、その依頼者を被告とする別件訴訟の書証として申し出て、取調べが行われたことについて、プライバシー侵害として弁護士に対して慰謝料10万円の支払いが命じられたという事案です。




もともと、随分と古い話ですが、当該弁護士は、昭和57年頃に依頼者から妻との離婚調停を依頼され、協議離婚が成立し、その後も、依頼者から離婚した前妻からの面接交渉の要求に対する対処方針や再婚した現在の妻の資産が長女を介して前妻に相続されてしまうことがないかということなどについての質問が記載された手紙(平成3年6月)、同様に前妻からの長女との面接要求に対する対処方針や戸籍のことなどについての質問が記載された手紙(平成3年10月)

を受け取りこれを保管していました。




その後、依頼人(この時点では元依頼人というべきか)の父親が亡くなり、その相続問題に関して、平成22年、この元依頼人は、実弟に対して訴訟提起したところ、当該弁護士は、この元依頼人の実弟からの依頼を受けて、元依頼人を相手方として戦うということになりました。

既に終わった件の元依頼人を相手方とすること自体は弁護士法や弁護士倫理上は問題ないものとされていますが、私を含めて多くの弁護士はトラブルとなることを避けてるために受任していないと思います。

この弁護士がよっぽど困窮でもしていたのかということですが、判決文を読む限り、顧問先の規模など、そういう感じでもなさそうです。



さらにまずかったのが、この実弟からの依頼を受けた訴訟において、さきほどの元依頼人から受け取った手紙を書証として提出したことでした。




何の関係もなさそうなこの手紙ですが、亡くなった元依頼人らの父親の遺言能力が主な争点となった当該訴訟において、立証趣旨としては、亡くなった元依頼人らの父親が実弟に相続させたいという意向を示していた時期のすぐあとに出された手紙の中にそのことが書かれていない、相談もされていないということは、亡くなった父親が遺言の内容について元依頼人には知らせずに隠していたということであること(そのような計画をするだけの判断能力があったということ)であるものとされていました。




一審は、弁護士が手紙を書証として取り調べを求めたことについては慎重な配慮を欠いたものであったことは認めつつ、前記の立証趣旨についてなされた書証の取調べ請求も不当であったとまでは言えないと判断して元依頼人の請求を棄却しましたが、高裁は、逆の判断をしました。




すなわち、元依頼人が弁護士に送った当該手紙は私生活上の秘密(プライバシー)にあたると認めた上で、かかる手紙を裁判所に提出し書証として取り調べを求めることは、取り調べられた手紙が訴訟記録として綴られて第三者の目にも触れる可能性のある状態におく行為であるから、私生活上の秘密を公開したものであるとしました。




そして、本件においてこのような訴訟行為(書証の取調べを求める行為)に正当な理由があったかどうかについて、元依頼人らの父親の判断能力が主な争点であった訴訟において、本件手紙自体がそのことを立証するものではないし、その手紙中に父親に関する記述がないことをもってそのような事実を推認することもできないものであるから、本件手紙を書証として取り調べを求めることについて必要性があったとは認められないとし、正当な理由を欠くものであったとしました。




その上で慰謝料としては10万円とされました。




ちなみに本件では、当該弁護士に対して、最終的に戒告の懲戒処分が出ているということです。




やはり、トラブルの根本を探っていくと、元依頼人を相手方とする事件を引きうけてしまったことにあるように思います。



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