判例タイムズ1416号で紹介された事例です(東京高裁平成25年12月16日判決)。



本件は,歯科医である原告が投資により発生したとする5789万円に上るという金額の債権回収にかかる法律事務を弁護士に委任したところ,弁護士が,仮差押えなどの法的手段を講じることなく示談交渉を選択したことにより債権回収が一部にとどまったことが善管注意義務違反である,また,法的手段を取らなかった場合のメリット,デメリットについて説明しなかったという説明義務違反などを主張して弁護士を訴えたという裁判です。



本件で一つの争点となったのは、債権回収について委任を受けた弁護士が、相手方からの債権回収について、先に借り差押えなどの資産保全の法的措置を取らずに、示談交渉による任意の支払いをさせることによる回収をするという方針を取ったこと、また、その点についての説明義務を果たさなかったかどうかという点でした。


この点について、裁判所は、本件の委任契約書には保全については委任事項とされておらず、示談交渉とその他(内容証明)という項目が選択されていることなどから、そもそも、本件の弁護士に対する委任事項として法的な保全措置まで含まれていると見ることはできないとしました。




また、仮差押えなどの資産の法的な保全措置を選択する、しないという点(また、公正証書作成や任意の和解といったさまざまな手段があることについて)についてのメリット、デメリットを依頼者に対して説明する義務について、一般論として、受任時に説明すべきものと考えられるものの、個別具体的な状況にもよるとしました。

そして、本件においては、当該弁護士に委任する前に、別の弁護士に委任して相手方に対して内容証明を出してもらっていたという経緯があったところ(その弁護士は弁護士会の会務多忙ということで債権回収業務までは引き受けられないとして、本件の当該弁護士を紹介していた)、その前弁護士から保全などについての説明は聞いていたものと推認されるとして、本件の当該弁護士には説明義務違反は成立しないとしています。




もっとも、このあたりの認定はなかなか微妙で、前任の弁護士が説明したとは認定しておらず、あくまでもそのような説明をしたてあろうと推認されるという認定になっています。

思うに、前任弁護士が内容証明を出しており、その時点で保全措置を取らずに任意の交渉という手段を選択している以上、その後を引き受けた当該弁護士が同じ手段を選択したとしても仕方ないだろうという価値判断が働いたようにも考えられます。



また、当該弁護士は相手方との間で書面を取り交わし300万円までは回収したものの、その後、債権回収がうまくゆかないと知ると、「仮差押え、マスコミを使った圧力、刑事告発、この3つの手段を取らないと失敗しますよ」といったことを言い、弁護士は適当にいなしたようですが、このあたりも裁判所の心証には微妙に影響したかもしれません。



いずれにしても、裁判所も、一般論としても、取り得る手段とそのメリット、デメリットについては説明すべき義務があると言っているのですから、弁護士としては、受任した際に取り得る手段として、保全も含めてきちんと説明しておく、そのことをメールなり形に残るようにしておくという自衛手段が必要となりそうです。







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