判例時報2237号で紹介された事例です(東京高裁平成26年6月12日判決)。




離婚の原因を作った有責配偶者からの離婚請求については,昭和62年の最高裁判決において,

・夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、

・その間に未成熟の子が存在しない場合には

・配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、

離婚請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものとされ,

さらに,その後平成6年の最高裁判決によって,未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではないともされています。




本件は,日本人夫とフランス人妻との離婚事件で(なお,夫が日本人であり夫婦が日本で暮らしていましたので,日本法が準拠法となり上記の判例法理も適用されることになります),別居までの婚姻期間は約7年間に対し別居期間は約1年半(一審時点で),夫婦の間には6歳と3歳の子どもがいました。




一審判決は,別居期間は約1年半に過ぎず,妻が言動を改めれば夫婦関係の修復の可能性があり婚姻関係はそもそもまだ破たんしていないとし,さらに,仮に婚姻関係が破たんしているとしてもその原因は妻が別の男性との生活を望んだためであり,有責配偶者からの離婚請求であるから,前記の判例の要件に照らしても,離婚請求は認められないとし離婚を求める妻の敗訴となりました。




これに対して,控訴を受けて東京高裁は,妻からの離婚請求も認めた上,2人の子どもの親権も妻とする逆転判決を言い渡しました。




高裁の事実認定によると,平成22年,夫は,「言うことを聞かない」という理由でいつも妻に対し文句を言い,妻が勝手に買い物に出かけたということで妻に対し「殴ってやる」と脅し,妻の携帯電やインターネットをつながらないようにしたり,家の鍵を取り替えたり,クレジットカードが使えないようにしたりするということをしたとのことです。そして,妻は,夫から「離婚したい」と言われ,役所から離婚届をもらってきたが決心がつくまでは家に保管しておき,サインするかどうかは考えたいと伝えられたということです。妻はこのような経緯についてフランス大使館とメールでやり取りしており,どうやら,そのようなメールが証拠の一つとなってこのような事実があったことが立証されているようです。




この時点で婚姻関係が破たんしていたかというと,そうではなく,その後,平成23年に,東日本大震災が起こってフランスに避難していた妻のもとを夫が訪ねてその際に一緒にスペインに旅行に行くなどしていることなどから,まだ夫婦関係としては破たんしていなかったとされています。




平成23年10月頃から,妻は,別の男性と交際を開始し,夫との離婚を決意したとされています。妻側の主張では,この時期よりも以前には婚姻関係が破たんしていたと主張していますが,それは,婚姻関係が破たんした後の交際であれば,不貞行為にはならず,そのことをもって有責配偶者とはならないためです。





平成24年3月頃には,妻はさらに別の男性と交際するようになり,5月頃,夫に対して離婚してほしいと切り出しました。同月末に,妻は,家を出で夫と別居となり,6月には離婚調停の申立がされました。




高裁の認定でも,少なくとも,妻が男性と交際を開始した平成23年10月頃や平成24年3月頃には婚姻関係はぎくしゃくしながらも破たんしていたとはいえず,その状態で妻が他の男性と交際したことが婚姻関係を決定的に破たんさせた原因であり,妻は有責配偶者者であるとされました。

やはり,同居している以上,婚姻関係が破たんしているとはなかなか認められないですね。高裁が夫婦関係の破たんを認定したのは,別居から4か月後の平成24年9月頃としています。

なお,一審は,そもそも婚姻関係が破たんしていないと認定しましたが,高裁では婚姻関係自体は破たんしているというべきだとされています。




ただ,高裁では,本件で最初に離婚を切り出したのは夫の方であって,夫が現在離婚を拒んでいるのはそれはもはや愛情に基づくものではなく,離婚が成立して子どもたちをフランスに連れて行かれてしまうのではないかと恐れてのことであると考えられること,もともと妻が夫との婚姻関係を継続できないと考えるようになったのは夫の方にも妻のことを束縛しようとして携帯電話を使えないようにしたりするなど相応の原因があったといえること,妻が子どもたちの養育監護をしていくことについて特に問題があるとはいえないこと,夫にも相当の年収があることなどから,前記の判例を引用てつつも,本件では有責配偶者からの離婚請求であっても認められるべきであると判断しました。

さらに,子ども二人の親権についても,夫は仕事が忙しくて海外出張もあるなど子どもを継続的に養育監護していくには難しい事情があり,他方で,子どもの年齢などを考えると妻(母親)を親権者とした方が相当であるとして,妻を親権者として定めました。



有責配偶者からの離婚請求事案では,婚姻期間と別居期間の比較や未成熟子の有無など形式的なところで判断しがちなところもあるのですが,本件では実質的に観点から判断を加えたところに特徴があるかと思います。



もっとも,本件は上告受理の申立がされているということで,一審と高裁とで判断が分かれているところでもあり,何らかの判断がされるということもあるかもしれませんね。






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