判例時報2231号で紹介された事例です(大阪地裁堺支部平成26年5月8日判決)。



幼少期から知的障害(総合判定A)、四肢機能障害(2級)を有する原告女性(なお、父親が成年後見人に選任されています)が約12年に亘って、被告社会福祉法人が運営する指定障害者支援施設の短期入所契約を1年ごとに更新して利用していたところ、原告女性が他の入所者から暴行を受けてけがを負うという事故が発生し、その後の施設の対応をめぐって原告女性の両親と施設がトラブルとなり、施設が利用契約の解除、期間満了による契約終了を主張したため、原告女性側が、契約が有効に継続しており利用者としての地位を有することの確認等を求めたという事案です。



被告施設では50名ほどの入所者、9名程度の短期入所者がおり、室内作業班、農園作業班、、生活支援班の3つのグループに分けたうえで、職員を配置し、それぞれの作業を行っていました。




原告女性は、生活支援班に属していたところ、転倒の防止のため、両親からの申し入れにより、本件暴行が起こる2年くらい前から、他の利用者が作業している間も生活等棟に留まって過ごすようになり、被告施設では、職員1名がマンツーマンに近い状態でなるべく原告女性から目を離さないように支援に当たっていたということです。




本件暴行事件が起こった当日、加害者の利用者が前触れなく(被告施設の職員は加害利用者がトイレに行くために移動したと考えたようです)、原告女性の方に近づいて行って胸を蹴るという暴行をしたしため、原告女性は壁に頭を打ち付けてけがをしてしまいました。




事件から2日後、施設内で緊急会議が開かれ、施設としては、これまでのように原告女性に常時付き添うような形態で職員配置することは難しいことから、外に出かける作業がなく、その分だけ生活棟での職員配置もできる土日に限って原告女性に利用してもらうことを決め、原告女性の両親に対して電話で通知しました。




しかし、納得いかないのが原告女性の両親で、「暴行を受けたこちら側がなぜ利用制限されなければならなのだ」ということで被告施設に対し話し合いを求め、話し合いが持たれ、原告女性の父親が不満の意思を示しましたが、被告施設の施設長が話を切り上げようとしたところ、原告女性の父親は「おい、お前な」などと大声を上げてしまい、施設長が「それは脅しですか」などと応じた上、「先ほどの態度で契約の方はこちらのほうで切らして頂きたいと思っています」「明日からの利用はなしでお願いします」「もう帰ってください」「何でそこまで感情的になられて冷静に話しせなあかんのか、あほらしくなってきました」などと述べました。

また、話し合いとは別の日ですが、原告女性の母親は施設に対し「人権侵害であり、被告施設職員がクレーマーと言って名誉を棄損されたので訴える」と言ったことを話しました。





話し合いから約10日後、被告施設の代理人弁護士から、上記の原告両親とのやり取りで、「契約を継続し難いほどの重大の背信行為があった」(利用契約上の解除事由)に当たるとして契約解除の通告がされました。

また、本件では、平成17年ころに、障害者自立支援法に基づいて、契約期間を1年間とする契約の更新を繰り返していましたが、施設側は契約更新をしないして、期間満了により契約が終了したといううことも主張しました。




訴訟では、契約解除が有効かについて争点となりましたが、裁判所は、原告両親が上記のような言動に及んだのは約12年に及ぶ利用期間中この時だけであり、それも、結論ありきで話し合いをうち切ろうとした被告施設側の態度に問題があったことやその理不尽さに憤懣やるかたない感情が吐露された結果であるとし、前記のような原告両親の言動をもって「重大な背信行為」に当たるとして契約解除することはできないと判断しました。




また、契約期間の満了についての被告施設側の主張について、指定障害者支援施設の利用契約について安易に契約更新の拒絶を認めるべきではなく、「障害者自立支援法に基づく指定障害者支援施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年9月29日厚生労働省令72号)にかんがみても、更新拒絶には正当な理由が必要であと解すべきところ、前記のような理由から本件では更新拒絶できるだけの正当な理由はないとされました。




本件では、原告女性が引き続き有効な契約に基づき被告施設を利用できる地位があることの確認のほか、慰謝料として20万円などが認められました。




原告女性側が主張した被告施設の安全配慮義務違反については、認められませんでした。




本件は控訴されているということです。




経緯を見る限り、おそらく、原告女性に対するマンツーマンに近い状態での職員配置がもともと負担に思っておりこれを機会に解消したいということを狙ったのでしょうが、被告施設側の対応が拙速すぎるように思います。



本件は障害者施設の利用契約ですが、高齢者の老人ホームの入所利用契約など、もともと、障害や認知症などで大変だからこそそのような利用契約をするわけで、「大変になったからやーめた」というわけにはゆかず、契約解除や更新拒絶については通常の契約解消よりもハードルが高いとい考えるべきです。




もっとも、原告女性側としても勝訴はしたものの、このような被告施設の利用を続けるかどうかについては悩むとこでしょう。






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