判例時報2207号で紹介された事例です(東京地裁 平成25年6月6日判決)。




本件の当事者双方とも自動車の売買を専門とする会社で,平成16年8月,A社(原告)は,B社から610万円で本件中古自動車を購入し,その中古自動車をオークションで転売しましたが(715万円で落札されました),平成21年になって当該自動車について車台番号改ざんのクレームが出されているとの報告があり,平成23年に当該自動車が盗難車であることが判明しました。




原告は,被告との間で締結した自動車の売買契約について,被告の所有ではない自動車を購入することを目的とした「他人物売買」であると主張し,民法561条に基づいて,契約解除したうえで,被った損害として,返金することになったオークションでの落札金額715万円のほか,落札に際し受け取った制約手数料,オークションで取り決められたペナルティなどの賠償を求めて提訴しました。




これに対し,被告は,本件中古自動車の売買契約は,当事者双方が会社であるから,商人間の売買契約となり,原告には遅滞なく目的物の瑕疵を検査して瑕疵があった場合には直ちに通知する義務がある,直ちに発見できない瑕疵がある場合であっても6か月以内に発見通知しなければならないとされている商法526条に基づいて,本件では,もはや原告は契約解除,損害賠償請求ができないと争いました。




この点については,商法526条は物理的な瑕疵,数量不足についてのみ適用され(要するに目で見て確認できる瑕疵に限るということ),権利の瑕疵については適用されないというのが通説であり,本件では所有権の有無という権利についての瑕疵なので商法526条の適用はないとして,判断されています。




また,被告側は,売主である被告も,本件自動車の所有権が自分にあるということを前提として売買契約をしていたものであり,自らの意思表示の中にも重要な勘違い(錯誤)が含まれているとして,民法の錯誤の規定(民法95条)に基づいて,売買契約の無効を主張しました。

売買契約が無効とされれば,売買契約に関する規定である民法561条の規定は適用されないことになります。




しかし,この点についての通説的な見解も,売買契約の担保責任が問題となる場合,通常,当事者が契約内容を誤解していることが多く,錯誤が問題となることが多いため,売主が錯誤無効を主張できてしまうとすると,売主の担保責任を定めた民法561条などの規定が意味がなくなってしまうことから,少なくとも,売主からは錯誤無効は主張できないとするのが一般的な考え方であり,本件判決もそのように判断しています。





なお,売買契約が錯誤無効となったからといって,被告が受け取った売買代金を返還しなくてよいという訳ではありませんが,仮に契約が無効ということになれば,原告側としては民法561条に基づく請求ができなくなる以上,請求の根拠として,原告自らの錯誤無効を主張して不当利得返還請求するという法律構成を取ることになりますが,その場合,原告自身に重過失が在れば錯誤無効が主張できなくなるとか(本件でも,原告の担当者は提示された書類が偽造されたものであることは認識していたとされており,結果的に原告は勝訴しましたが判断次第では危なかったかもしれません),売買契約が有効であることを前提とした損害については請求できなくなるとかの問題が生じてきます。




本件では,前記のような書類の偽造を認識していたという原告についても過失として1割を認めたうえで損害額を減額して,原告の損害賠償請求を認めています。




本件は確定しているということです。



こういう法律構成のぶつけ合いのような事案というのは面白いのですが,そんなにあるわけではなく,司法試験の題材のような面白い案件だと思ったので紹介しました。




■ランキングに参加中です。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村



■着手金の簡易見積フォーム
(弁護士江木大輔の法務ページに移動します。)


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。