判例時報2205号で紹介された事例です(東京地裁 平成25年7月24日判決)。



事案の概要としては,塗装関係の次行を行っていたA社が手形資金の決済のめどが立たなくなったため,事業を継続して従業員の雇用を守ることなどを目的として,事業再生会社とアドバイザリー契約を締結しました。アドバイザリー契約に伴いA社が支払った事業報酬は約4400万円でした。




相談を受けた事業再生会社は,A社の完全子会社であるB社に対し,A社の資産約28億円を譲渡する事業譲渡を行ったうえで,A社の約29億円超の債務をB社も一緒になって引き受ける(重畳的債務引き受け)というスキームを提案し,これが実行に移されました。

事業譲渡に伴い,A社からB社に対し支払われる譲渡金は100万円でした。




その後B社は,事業を順調に継続し,金融機関に対する債務以外の取引先に対する買掛債務についてはすべて完済し,事業譲渡の実行から約8か月後,A社は金融機関に対する債務のみを残して破産し,破産管財人が選任されましたが,破産管財人は,A社がB社に対し100万円で資産を譲渡したということを問題視しました。



破産管財人は,B社に対して,事業譲渡が違法であるとして否認権を行使し,破産裁判所は,B社に対し譲渡された不動産をA社に戻すように命ずるとともに,その他の特定困難な財産約20億5000万円については支払を命じるというとんでもない事態となってしまいました。なお,B社からはこの破産裁判所
の決定に対して異議が出されているということです。



さらに,破産管財人からは,このようなスキームを助言した事業再生会社に対しても,破産管財人から否認されないような助言をすべき注意義務を怠ったとして損害賠償が請求されたというのが本件であり,このような破産管財人から助言会社に対する損害賠償請求がされたというのが他にあまり例のない特徴的な事案だということになります。



事業再生会社からは,B社が一緒になって(重畳的に)A社の債務を返済するということになっているのだから,A社は債務を免れたのであって,その対価として資産譲渡したのだから,結果的にA社としてはプラスマイナスゼロであり,100万円という 事業譲渡対価も不相当ではないと反論しましたが,法的にも会計的にも,A社は債務を負ったままの状態であり,債務は負わされたまま優良資産がほぼすべて流失したとして,破産管財人の請求が認められることとなりました。



ただ,事業再生会社とのアドバイザリー契約では,受け取った報酬に責任を限定するという特約があったことから認められた損害としてはその限度でということになりました。



なお,本件では,他の論点としてA社が支払不能となっていることについて事業再生会社が認識していたかということも争いとなりましたが,この点についても肯定されています。論拠の一つとして,事業再生会社がスキームの提案に際して「破産管財人による否認のリスクがある」と記載した説明資料があることも挙げられています。通常,このようなリスクの記載は,責任回避のためになされるものですが,本件ではかえってリスクについて認識していたという責任肯定の根拠の一つとされてしまいました。





破産や民事再生の手続開始前に事業譲渡などのスキームを計画するということはよくあるといえばよくあることで,最近はやりの会社分割によるスキームというのもこのような手法の一つでしょう。




ただ,譲渡対価についてはよくよく検討しておかないと後で思わぬ足元をすくわれることになるのと,事業譲渡契約の締結の一歩手前で留めておきお膳立てはしておくが,実際に締結するかどうかの判断については破産管財人などの判断にゆだねるという工夫も必要になります。




また,本件ではスキームの実行前に金融機関も集めて説明会も開催されたようですが,その際やその後の金融機関の反応については判決文にも明らかではありませんが,金融機関の債務のみが取り残された状態となり,金融機関の認識との間に何か齟齬をきたしたのかかもしれません。

事業再生に当たっては大口の債権者,とりわけ金融機関の協力を取り付けておくことが必要だということはよく言われているところです。




なお,本件は控訴されているということです。あまり他にはない事例ということで,控訴審では違った判断もあるのかもしれません。





■ランキングに参加中です。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村



■着手金の簡易見積フォーム
(弁護士江木大輔の法務ページに移動します。)


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。