判例時報2204号で紹介された事例です(大阪地裁平成25年1月18日判決)。



個人再生債務者が住宅ローンがついた自宅を保有している場合に個人再生手続を取るという場合,いろいろなパターンがありますが,抵当権を有している保証会社が既に金融機関(銀行)に対して代位弁済をしてから6か月以内の申立であれば,「巻き戻し」といって,住宅ローン債権者が保証会社から金融機関に戻ったこととなり,住宅ローンについて住宅資金特別条項を定める内容の民事再生手続を取ることができます(民事再生法198条2項)。

逆に言えば,住宅ローンを延滞して保証会社が代位弁済をしてから6か月以上経過してしまっている事案では,民事再生手続きを利用して住宅を維持することは出来ないということになります。

巻き戻しが起こってしまうと,住宅ローン債権者である金融機関(銀行)としても手続が大変なので,受任すると,「方針はどうでしょうか?」と何度も確認してくることがあります。




本件では,債務者の代理人弁護士による債務整理の受任の約1年後,住宅ローンが代位弁済され,住宅ローン債権が銀行から保証会社に移転した後,約2か月後に保証会社が競売申立を行ないました。

私がとある保証会社の担当者から電話で泣きつかれた経験によると,保証会社としても競売を申し立てた後になって個人再生の申立をされると「巻き戻し」が起こって面倒くさいことになるので,代位弁済から6か月以上は経過した後で競売申立するというようなことを聞きましたが,本件では,債務整理の受任から1年以上も経っていたこともあり,競売の申立を急いだのでしょうか,ともかく,「巻き戻し」が可能な期間内に競売の申立がなされたのですが,その後,個人再生手続の申立がなされ,競売手続については中止されました。

そして,その後,再生債務者が提出した再生計画案は認可されましたが,その再生計画案では,競売申立の際の競売申立費用約41万円については,債権者一覧表にも記載がなく,また,保証会社からの届出もされていませんでした。

そこで,保証会社が支出した競売申立費用約41万円(予納金90万円から還付された金額を除いた残額)について,保証会社側は,訴訟提起して,民事再生法119条に規定される共益債権であると主張して,全額の即時弁済を請求しました。共益債権であるとすれば,再生手続とは無関係に全額の即時弁済を求めることができます。




民事再生法119条では,共益債権として次のように規定しています。

 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権

 再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権

 再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)

 第六十一条第一項(第六十三条、第七十八条及び第八十三条第一項において準用する場合を含む。)、第九十条の二第五項、第九十一条第一項、第百十二条、第百十七条第四項及び第二百二十三条第九項(第二百四十四条において準用する場合を含む。)の規定により支払うべき費用、報酬及び報償金の請求権

 再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権

 事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権

 再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの(前各号に掲げるものを除く。)




保証会社側は,競売申立費用が3号(再生計画の遂行に関する費用の請求権)に該当すると主張しましたが,競売費用は保証会社が自らの債権回収のために支出した費用なのであるから,同号には該当しないとしました。

さらに,保証会社は,7号(再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの)に該当すると主張しましたが,裁判所は,本件で競売費用が再生債務者の負担とされているのは,再生手続の開始よりも前に,再生債務者と保証会社との間の保証委託契約で定められたものであり,再生手続の開始決定前の原因に基づいて発生した請求権として共益債権ではなく,通常の再生債権に当たると判断しました。




また,保証会社側では,競売費用が共益債権に該当することの理論構成として,民事再生法39条3項2号の類推適用ということも主張しました。




これは民事再生手続開始決定がされると,それまでなされていた強制執行は中止となり(民事再生法39条1項),そのためにかかっていた競売費用などの手続費用は共益債権となるとされているのですが(同法39条3項2号),本件で競売手続が中止されたのは民事再生法197条1項に基づくもので,同条項には39条3項2号のような規定はなく,また,法律上,39条3項2号の準用もされていないので,「類推適用」という構成となっています。




裁判所の回答は,民事再生法197条1項による競売等の中止命令は再生債務者の経済生活の再生を図る趣旨に出たものであって,民事再生法39条1項の適用場面とは違うというものでした。
イメージ的に言うと,民事再生法39条1項というのは,中小企業が差押えなどを受けた経済基盤について強制執行手続きを中止してもらうことで経済活動を回復して利益を生み出していき,結果として総債権者のために寄与するという場面であることから,総債権者のための経済基盤となる資産が強制執行手続きにより凍結されていたということは,その散逸を防止していたということから総債権者のためになったのだから,手続費用は共益債権としてみましょうということになりますが,民事再生法197条1項は単に再生債務者が個人的な住宅を維持するためだけのものであるということになりましょうか。




結局,本件の競売申立費用は再生債権という扱いになりましたが,本件では再生計画案に保証会社の競売費用は債権として載っていなかったのでどうなるのかということが問題となりましたが,このような場合には,「劣後化」といって,再生債権者に対して再生計画に沿った弁済がなされる再生期間が終了した後に,ようやく,改めて,再生計画に沿った弁済を受けられるということになります(民事再生法232条3項,通常再生に関する平成23年3月1日最高裁判決)。
具体的にいうと,本件では債権の8割カット,5年間弁済という再生計画でしたので,本件再生計画が終了する平成28年8月1日から,競売費用約41万円の2割に相当する約8万2000円を毎月約1400円の5年間弁済すればよいということになります。






ただ,本件で,再生債務者側は分割弁済の主張をしなかったため,判決としては,平成28年8月1日限り約8万2000円を支払えという将来給付の判決となっています。主張がない限り裁判所が取り上げないというのは,弁論主義という民事訴訟のルールにのっとったものです。




本件は控訴棄却により確定しているということです。




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