判例タイムズ1395号で紹介された事例です(大阪高裁平成25年5月22日判決)。



大正13年生まれの女性が,病院にうつ病で入院していましたが症状が軽快したため,介護付き有料老人ホームに入所しましたが,入所から3日後に,居室内で朝食さとして出されたロールパンを誤嚥し,こん睡状態となっているところを発見され,直ちに救急搬送されたものの,窒息により死亡したことから,女性の遺族が老人ホームに対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をしたという事案です。



一審では,老人ホーム側に安全配慮義務違反はないとして遺族側が敗訴しましたが,控訴審である大阪高裁は判断を覆して,安全配慮義務違反を認めました。






入院していた前病院から老人ホームに対して診療情報提供書や看護サマリーや紹介状が送られており(介護施設に入所等する場合は,必ずといってよいほど,医師による診察が必要とされています),そこには「食道裂肛ヘルニア」「入院中,粥食であったが食後嘔吐があった」「時折嘔吐を認めています。誤嚥でなければ経過観察でよい」といった情報が記されていましたが,高裁は,記載が明瞭ではないものの,食道に疾患があって,食物の逆流があり,嘔吐することがあることやそれにより誤嚥があり得ることは老人ホームでも読み取れたはずだと指摘しました。

そして,高齢者には転倒と誤嚥事故が多いことは周知の事実であり,ホームの介護スタッフとしては,特に注意を要することを把握できない筈はなかったといっています。




また,介護施設に新しく入所する者にとっては,環境が変われば心身に負担が増すことになるのであるから,持病がどのように変化するのか注意深く観察する必要があり,介護事業者としては,協力医療機関と提携を図り,少なくとも,同医療機関の初回の診察・指示があるまでの間は誤嚥防止に意を尽くすべきであったとしました。

そのためには,本件で女性を居室で食事させている本件の事情においては,食事中の見回りを頻回にし,ナースコールの手元配置等を講じるなどすべきであったと指摘していてます。




本件では,ホーム側は,女性の既往歴に気を配ることもなく,居室で食事をさせたにも拘わらず,ナースコールを女性の手元に置くことなく,見回りについても配膳後約20分も放置していた(介護職員は女性をベッドからおろして車いすに座らせて,サイドテーブルに食事をセットしてから部屋を出てしまい,約20分後に女性がこん睡状態であることを発見していました)などの事実から,老人ホーム側の安全配慮義務違反が認められました。




なお,本件では,女性は自立して食事することはでき,主治医から食事についての特別の申し送りはなく,女性の家族からも誤嚥に対する注意喚起や食事についての要望はされていませんでした。

しかし,そのような状況であったとしても,誤嚥について何ら対処しなくてもよいということにはならないと判断されています。




本件は上告等の手続がされているということです。




介護事故が起こった場合,施設側からは「本人が希望した」とか「そのような兆候はなかった」といった反論がされることがあります。

勿論そのような反論が認められる場合もありますが,高齢者の意思の確認は難しかったり,介護の素人である家族としては「施設できちんとしてくれるだろう」と期待して何も言わないといったこともありますので,介護事業者としてきちんとした注意を払っておかなければならないということでしょう。





■ランキングに参加中です。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村



■着手金の簡易見積フォーム
(弁護士江木大輔の法務ページに移動します。)


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。