判例時報2201号で紹介された事例です(東京地裁平成25年2月25日)。




本件は,オーナーチェンジした東京都区内の建物(本件建物は昭和56年築ですが,同年施行のいわゆる新耐震基準は満たしていませんでした)について,老朽化しており,耐震性に問題があり立替の必要性があるとして,平成6年から建物で飲食店を営業していた賃借人に対して賃貸借契約の更新拒絶を行い建物の明渡を求めたというものです。賃貸人からは約2100万円のいわゆる立ち退き料の提示がされましたが賃借人は立ち退きを拒否しました。



借地借家法28条により,普通借地・借家における契約更新拒絶の正当事由の判断要素としては,

・当事者双方が土地(建物)の使用を必要とする事情

・借地(借家)に関する従前の経過

・土地(建物)の利用状況

・賃貸人が土地(建物)の明渡しの条件として又は土地(建物)の明渡しと引換えに賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出

などの事情を考慮して決めるものとされています。




本件で,争点の一つとなったのは,新耐震基準を満たしていない本件建物についての立替の必要性ということでしたが,裁判所は,賃貸人が提出した診断報告書の記載などから,本件建物が水平耐力の点で問題があると言わざるを得ないが,そのほかの点では危険性が高いとまでは言えないことなどから,現時点で数多く存在しているであろう新耐震基準を満たしていない多くの建物と比較して,建物全体について耐震性能に著しく欠け,安全性の観点から措置を採るべき緊急性が切迫した状態にあるとまでは言えないとしました。




また,新耐震基準に適合するための方法として,立替ではなく,必要最小限度の工事でも対応が可能で,そのための費用も約3660万円程度にとどまるとも指摘されています。




本件では,賃貸人が交替してから,入居していたテナントが次々と退去し,現在では賃借人のみしか残っていないという状態になっていましたが,これは,賃貸人が自ら招いた結果であり,上記正当事由の判断要素としての建物の利用状況として賃貸人に有利に考慮すべきではないともされています(仮に,老朽化などにより,自然と賃借人が減っていって,賃借人が一人だけ残っているという状況になっているのとは違うということでしょう)。




なお,賃貸人が提示したいわゆる明渡料については,あくまでもほかに正当事由が認められる場合の補完事由にとどまるものであるということは確立した考え方ですが,本件でも,賃貸人が明渡料の提示をしたからといって,他に正当事由が認められない以上は,明渡料の提示をもって正当事由ありとすることはできないとされています。

よく,ドラマなどで,地上げ屋が札束で賃借人の頬を叩いて明渡を強行していくという場面がありますが,賃借人がそれでよければそれはそれでよいのですが,あくまでも,賃借人が明渡を拒否する場合はいくら札束を積んだところでダメで,その他の正当事由がきちんとあるかどうかということが必要になるということになります。




本件は確定しているということです。




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