判例時報2193号で紹介された事例です(東京高裁平成25年3月6日判決)。



本件の遺言者は元医師で、平成19年3月2日に公証人を当時入所していた病

院の病室に呼び、本件の公正証書を作りました。遺言当時の年齢は82歳でした。



公正証書遺言の内容は、実妹Aにすべての遺産を相続させるというものでしたが、遺言当時、遺言者には79歳の妻がおり、昭和55年にはむ妻に全部の遺産を相続させるという自筆証書遺言を作成していましたので、その内容を変更したということになります。



遺言者の妻は、公正証書遺言が作成された翌月に死亡しましたが、Aの主張としては、妻の死期が近いことを知った遺言者が新たに遺言を作成して実妹に遺言させたいという意向を示したのだということになっています。




遺言者は遺言を作成してから約半年後に亡くなり、法定相続人は兄弟姉妹のみであったところ、Aが他の相続人に対して遺言有効の確認を求めたのが本件になります。




一審は本件遺言の有効性を認めましたが、控訴を受けた東京高裁は一転して本件遺言は無効と判断しました。




理由として、まず、本件遺言が作成された直近の遺言者の状況からみて、本件遺言当時、遺言者には、遺言事項を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力が欠けていたとしました。




すなわち、遺言者は昭和63年頃にはうつ病と診断され、さらに、平成3年には難治性のうつ病とされ、平成10年の実母の葬儀の際も仮通夜にはようやく出席したもののその後の告別式には出席できないなどの深刻な状況だったようです。



その後も自宅に引きこもるような状況が続き、遺言を作成した前年12月には認知症という診断がされ、遺言作成の前月まで入所していた介護施設では身体機能の低下や視力障害から日常的な介護を要する状態であるとされており、遺言を作成した病院においても認知症であると診断されていました。




遺言の作成は3月2日でしたが、その直近の2月20日から24日にかけては大声での独り言、幻視幻聴、妄想といった症状がみられ、21日には37.6度の発熱があり酸素吸入を受けるといった状態であったということです。




Aが遺言者から遺言を作りたいという意向を示されたのはこの期間中の2月23日だったとAは供述しましたが、このような状況で遺言者が、妻の死期が近いことを認識して遺言を作りたいという希望を述べたとは考えられないとされています。




そして、本件は公正証書遺言であり、公証人も遺言者の判断能力について確認をしたはずなのですが、この点についても次のようなことから、公証人による判断能力の確認に問題があったとされています。




すなわち、一審裁判所からの調査嘱託に対し、公証人は「公証人があいさつすると、遺言者は上半身を起こしながら、『おー、そうだ、ご苦労さん。』と答えた。」「遺言と後見契約を作りに来たと言うと、『あー分かっている。全部Aに任せているので頼む』と答えた」と回答しました。




この点について、裁判所は、複数の医療機関での医療記録上、遺言者は易怒性があって、特に初対面の人に対しては拒否的反応をする傾向があるとの指摘があったところ、初対面の公証人との間でこのようなやり取りがされたというのは相当違和感があると指摘しています。




また、本件で公証人は、印鑑証明書で遺言者の本人確認をしたとしていましたが、遺言者の住所は2月20日にAの住所に変更され、印鑑登録もされていました(遺言の作成は3月2日)。

そして、この住所変更は遺言者の了解なく行われたものであることはA自身も認めており、この点について合理的な理由もなかったとされています。

この点について、遺言者の判断能力で正常であれば、住所が違っていることについて何か言うはずなのに、公証人の回答にはそのような記載が一切ないというのは不自然であるとしています。




また、遺言者は視覚障害によりほぼ全盲という状態でしたが、この点についても公証人からの回答には何も記載がありませんでした。




さらに、公証人が遺言を作成する場合、遺言により利益を受けるべき者の遺言者に対する影響をできる限り排除するべきだが、本件ではAと公証人との間で打ち合わせがなされ、遺言作成の際にもAが同席しているなどの点についても指摘がされています。




また、遺言者は昭和55年に妻に対し全遺産を相続させるとの自筆証書遺言を作っていましたが、これを変更する合理的な理由もないとされています。




これらの点を総合して本件遺言がされた時点で遺言者には遺言能力がないとして、本件公正証書遺言は無効とされました。



本件は上告されているということです。




それにしても、公証人が病室で会ったという人物は本当に遺言者本人だったのでしょうか。





■ランキングに参加中です。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村



■着手金の簡易見積フォーム
(弁護士江木大輔の法務ページに移動します。)


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。