判例時報2188号で紹介された東京地裁の判決例です(平成24年11月12日判決)。



私は特別に消費者事件を専門にしているというわけではないのですが,最近,仕組債と呼ばれる金融商品に関し,損害が発生したとして,商品の購入を勧誘された銀行や証券会社に対して責任追及できないかという相談を多く受けるようになりました。




仕組債といってもいろいろなタイプがあるのだと思いますが,5年前のリーマンショック前に,購入を勧誘され,リーマンショックによって大損が生じたものの,多くの場合一定期間は中途解約ができないことになっていることから,一定期間が経過したことから損害が確定したという事例が全国的に多く発生しているものと思われます。




本件の原告は東証1部上場企業の会長,社長を歴任した方で平成18年に5000万円を拠出して,本件仕組債(ノックインプット・エクイティリンク債)を購入したものの,支払が保証されたクーポン約1078万円を受け取ったものの,結局,約3250万円の損失が確定したとして,大手証券会社を相手取って提訴しました。




仕組債の「仕組み」というのは本当に難解でよく分らないのですが,判決文などを読んで私なりに理解している仕組みというのは,ひらたく言うと次のようなことかなと思っています。




株式などの投資をする際に,含み益が出て利益が出てくれればよいのですが,当然,値下がりして損失も出ることがあるわけであり,投資する側としては,この損失をなんとか回避したい,最小限度にしたいと願うわけです。

一番よいのは,自分が購入した値段で誰かが買い取ってくれることが保障されることです。又は,損失を許容できる損切ラインで確実に誰かが買い取ってくれることです。

誰だってそんなことはしたくないのですが,それを可能にしたのが金融工学が開発した仕組債というわけです。




つまり,投資した対象が一定の値段を下回るような事態になった場合には,その値段で誰か(多くの場合本件仕組債を購入したような消費者)に買い取ってもらうが,その対価としていわば保証料を支払う,そのような事態にならなければ投資家側は保証料を払うだけということになりますが,いわばそれは安心料(コスト,保険代)であり,その分投資対象を転売するなどして利益が出ればもうけものというわけです。




そして,一定価格で買取を義務付けられ,その対価として保証料を「クーポン」という形で受け取るのが一般投資家(消費者)であり,一定の価格を下回らなければ,投資した元金(本件原告の場合であれば5000万円)に加えて,クーポンが貰えるのだから有難いだろうというわけです。ところが,一定価格を下回れば,クーポンは受け取れるものの,それは保証してくれた対価でありいわば「ご苦労さん代」であり,投資元金はすべて失うリスクもあるということになります。




本件の仕組債では,住友商事やみずほFGなど対象10銘柄の株価が仕組債購入時の価格から55パーセント(ノックイン価格)以下となり,仕組債の償還時点においても購入時の価格を下回っているときには,最初に支払った5000万円は全く返還されないということになっており,本件原告の場合,実際にこのような事態となりました。

この5000万円が何に使われるかと言えば,投資に回されるわけではなく,このような事態が発生した場合に,投資家の損失を補てんするために言い値で買い取らされるための保証担保金のようなもの,ということになります。本件で,裁判所も5000万円の性質についてこのような認定をしています。





裁判所は,本件のような仕組債を販売するに当たっては,金融工学上のリスク評価手法の基礎となるボラリティ(株価変動率)に基づく確率計算の方法といったものについてもっとよく説明すべき義務があるとしました。




本件では(そして,多くの事案では),「日本を代表する企業の現在(リーマンショック前)の株価が55パーセントを下回ると思いますか?」などと言って勧誘しているわけですが,実際に,金融工学上きちんと計算した場合,,実はリーマンショック前であっても,例えば住友商事で36パーセント,三菱地所で44.36パーセントの株価変動が予測されていたということです(判決文)。判決ではこういった正確な確率についても説明すべきだったといっているということだと思います。




本件仕組債では55パーセントの株価下落の場合にノックインするということになっており,確率としては少し保守的に見積もられていたにせよ,相当高い確率でノックインの確率が想定されていたとして判決文で認定されています。





要は,55パーセントというのは,投資家が損切りするための最低ラインだったということなのでしょう。





本件では,原告の過失相殺を3割として,2000万円の損害賠償が認められました。




本件は控訴されています。







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