判例時報2178号で紹介された事例です(東京地裁平成24年6月27日)。




先日税理士による高齢者の能力確認についての裁判例を紹介しましたが,今回は司法書士に関するものです。といっても,本事例は高齢者ではなく,統合失調症の患者の意思能力の確認を怠ったかということが主要な争点となったものです。




14歳の頃に統合失調症にり患し,複数の入院履歴の在った女性(昭和23年生まれ)が,平成18年2月には公正証書で,同年6月には売買契約書で,土地を譲渡するという内容の契約をしました。土地の譲渡を受けたのは,相続,遺留分の絡みで,女性の兄でした。女性から土地の譲渡を受けた女性の兄は,さらに土地を不動産業者に対して転売しました。




そして,公正証書,売買契約書それぞれに基づき女性の兄に対する移転登記がされましたが,登記を担当したのは別々の司法書士であったということです。



その後平成18年7月に当該女性については成年後見が開始され,弁護士が成年後見人となりました。




成年後見人は,後見開始前に行われた前記の各契約を問題視し,女性が各契約をした時点で女性は判断能力が欠けていたから各契約は無効であるとして,女性の兄及びさらに転売を受けた不動産業者を相手取って登記の抹消等を求める訴訟を提起したところ,裁判所は女性の判断能力が欠けていたとして各契約は無効という判断をしたため,不動産業者は,土地の所有権を失ってしまいました。




そこで,収まらない不動産業者が,各移転登記をした際に司法書士がしっかり女性の判断能力を確認していればこんなことにはならなかったはずだとして,司法書士を相手取って,支払った売買代金相当額など約1億4000万円の支払いを求めて提訴したというのが本件です。




裁判所は,そもそも,女性の判断能力が欠けていたのかという点について,成年後見人が起こした裁判(別件訴訟)の裁判所とは異なり,そもそも判断能力に欠けていたとはいえないとしました。




理由としては,女性の病気は統合失調症であって,統合失調症においては記憶や見当識,知能は本質的には損なわれるものではなく,また,当時の女性のカルテなどを見ても,当時の女性の症状としては比較的安定していたものと認められるとしています。なお,女性の主治医であった医師は別件訴訟において,女性に意思能力は認められないと明確に証言しているようですが,「失当である」として退けられています。




また,裁判所は,「仮に」ということで,女性の判断能力について登記を担当した司法書士にその確認義務まで認められるのかという点についても触れています。




そもそも,意思能力の有無程度については司法書士に専門的な知見を有していることが期待されているわけではなく,何らかの事情によって依頼者が意思無能力であることを知っているなどの特別の事情がない限りは,依頼者の判断能力について調査確認すべき義務はないとしました。



なお,本件で公正証書に基づく登記を担当した司法書士は,以前に,女性の成年後見の申立を女性の兄に勧めていたという事実があり,この点で前記の例外的事情になり得るのではないかということが問題となりましたが,公証人が女性の意思能力を確認して公正証書を作っている以上,司法書士は公正証書に基づく登記手続きは拒否できないとされていることから(司法書士法21条参照),本件で当該司法書士に義務違反はないとされています。





そのほか,女性の本人確認義務違反などについても争われていますが,いずれも,義務違反なしとして,司法書士側が勝訴となっています。




なお,本件は控訴され,控訴審で和解が成立しているようです。





本件は統合失調症患者の意思能力が問題となった事案ですが,確かに,統合失調症の患者については理解能力が無いというよりは,むしろ鋭敏すぎるほど理解能力があるという場合も多く,「果たしてそもそも成年後見の適用がされていていいのだろうか」というケースも多いものです。




高齢者の認知症の場合には判断能力がないというケースも多いですので,司法書士のみならず弁護士なども,場合によっては訴訟委任時点での判断能力の確認などが問題とされるというケースも出てくるものと思われます。






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