判例時報2177号で紹介された事例です(東京地裁平成25年2月6日)。




破産会社の代表者が,破産会社の事業停止後に会社に入金されたお金を役員報酬として引き出し,自分個人のローンの支払いなどに宛てたため,破産会社の財産が散逸したため,破産管財人である弁護士が,申立代理人である弁護士が財産散逸義務を怠ったとして訴えたという事案です。




破産会社は,平成18年3月設立でブランド洋服の店舗や通信販売を全国的に手掛けていた会社でしたが,代表者は六本木ヒルズに月額120万円のマンションを借りて住んでいたり,フェラーリをリースで乗っているなど・・・設立からわずか5年後の平成23年11月に破産の申立に至るというのも,なんとなくわかるような気がします。



それなりの規模の会社ではあったようですが,顧問弁護士もいなかったようで,本件で破産の申し立てを依頼した弁護士も,インターネットで検索して相談予約したということのようです。





会社の事業は平成23年8月22日に停止し,8月25日に弁護士との相談を行っていますが,訴訟ではこの際に代表者が行った説明と次のような弁護士の説明が問題となりました。


(代表者による状況の説明)

・会社の負債は約3億円であること

・会社の賃借しているビルには保証金約3000万円を差入れてある

・取引先に対して営業保証金を預けており返金見込みがあること など



(裁判所の認定による弁護士の説明)

・会社の残務整理は代表者が行うことになる

・債権者の支払いはしてはいけない

・何に使ったのかをわかるようにしておくこと(現金を弁護士側で管理することや委任契約後に弁護士の口座に破産会社の預貯金,現金を入金することの説明はなかった)

・(代表者からの「自分の給料は受け取っていいのか」との質問に対して)「あなたにも生活があるだろうから」(役員報酬を原則として受け取ることができないという説明はしていない)



この代表者はとんでもない人であったようで,8月24日から29日にかけて破産会社に対して入金があった698万円(営業保証金の返金など)のうち約515万円を代表者個人の口座に入金したうえローンの支払いなどに宛ててしまいました。



裁判所は,破産の申し立てに関する委任契約を締結した弁護士には,破産制度の趣旨に照らして,債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間,その財産が散逸することの内容に必要な措置を採るべき法的義務(財産散逸防止義務)があるとし,正式な委任契約の締結前であっても,依頼者と弁護士の関係は特殊な信頼関係に立つものであるから,委任契約締結後に弁護士としての職責を全うし,正当な職務執行をなすため,依頼者の相談内容に応じた善管注意義務を負うとしました。

そのうえで,本件では,8月25日の相談時点で破産会社に一定の資産が存在することが確認できた以上,委任契約締結後の破産会社の財産管理は原則として弁護士が行うことを説明し,破産会社の預貯金を弁護士が預かり,弁護士が開設した破産会社の財産管理用の預り金口座において管理することなどの具体的説明が必要だったとしています。また,代表者から「給料を」受け取ってよいのかという質問に対しては,「労働対価性のある部分についてのみ適切に判断したうえで妥当な範囲内でのみ支払い可能」という説明をすべきであったともしています。




そして,本件では,弁護士者に対して必要な説明をしておらず,また,財産散逸の防止のために,破産会社の財産管理のために必要な措置も講じていないとして,このような措置を講じていれば破産会社から財産が散逸していなかったとして,約515万円の損害賠償を命じました。




ちなみに,8月25日に相談した代表者が破産会社に対する入金を自らの個人口座に移し替えた上で費消したのは8月29日から11月4日までの期間ですがその全期間すべてに弁護士の責任があるとしています(破産の申立は11月18日)。

8月25日の相談に近接した日の費消についてまで責任が負わされているというのは少し厳しいなあという感じもするのですが,その後9月,10月,11月と費消を見過ごしていたというのは確かにどうかという気がします。




この件は,既に事業停止した会社についての判断ですが,そういう場合には,破産会社の預貯金を弁護士が預かり,弁護士が開設した破産会社の財産管理用の預り金口座において管理することまで求められているといえます。

また,正式な委任契約の締結前であってもそうした説明をすることが求められていますので,相談を受けた弁護士としては防衛策として,提携の説明文書を作ったうえで,「説明を受けた旨」の署名押印まで貰っておかないと怖いということになりそうです。

破産の相談を受け準備に入ったもの,その後,何らかの事情で委任を受けなかったという場合に,後で「きちんと説明していれば財産散逸が防止できたはずだ」と言われかねません。




なお,本件での破産申立の弁護士費用は約47万円ということであり,会社と代表者の破産のための弁護士費用としては決して高額とはいえません。




本件は控訴されています。




依頼者(債務者)を説得,コントロールできない債務整理案件は受けるべきではないということでしょう。






■ランキングに参加中です。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村



■着手金の簡易見積フォーム
(弁護士江木大輔の法務ページに移動します。)


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。