今月号の日弁連の自由と正義に地方単位会が弁護士に対して下した懲戒処分(戒告)を取り消したという公告例が載っていました。



遺言執行者が一部の相続人の代理人となって相続争いに関与することは,相続人の代理人とみなされ(民法1015条),すべての相続人に対して公正中立的な立場を期待されている遺言執行者の職務と相対立する行為として,弁護士の品位を害する行為として懲戒処分とされるという考え方が一般的です。




それでは,成年後見人であった弁護士が,被後見人の死亡後,一部の相続人の代理人となって相続争いに関与した場合にはどうなるのかという問題が取り上げられたのが,本件懲戒事例です。




本件では,弁護士が成年後見人を務めていましたが,被後見人の生存中から,推定相続人の中で,遺産の範囲に関する争いがあったようで,弁護士は,家裁に対してお伺いを立てた上でその問題にはタッチしないという方針で臨んでいたようです。




そして,被後見人が死亡しましたが,弁護士は相続人の一人から委任を受けてその代理人として他の相続人に対して遺産分割協議の申し入れをしたところ,懲戒請求されてしまったという経緯です。

弁護士は,懲戒請求された時点で,依頼された遺産分割の業務を停止し,綱紀委員会での「懲戒審査せず」との議決が出た後で業務を進めたということです。




弁護士に対する懲戒請求があった場合には,まず各地の弁護士会(単位会)の綱紀委員会が「懲戒の審査が相当かどうか」を審査し,懲戒相当となった案件について懲戒委員会が審査するという二階建てになっています。




本件では懲戒請求後の経緯が変転し,懲戒請求を受けた単位会の綱紀委員会ではひとまず「懲戒の審査を求めるべきではない」として議決しましたが,異議の申し立てを受けた日弁連の綱紀委員会で「懲戒するかどうか審査すべきだ」ということになりました。

日弁連での議決が出た時点で,弁護士は,相続人の代理人を辞任しています。



そして,いわば差し戻しを受けた形で,当該単位会は,遺言執行者と同様に考えて,成年後見人を務めていた案件で一部の相続人の代理人となることは弁護士の信用と品位の保持義務に違反するとして戒告の処分としました。




これに対して,弁護士側からの審査請求を受けた日弁連は,本件については単位会の戒告処分をひっくり返して,懲戒処分は相当ではないとし議決しました。



その論拠とするところでは,成年後見人の場合には後見業務中の公正中立が確保される必要があるが,被後見人死亡後に元の成年後見人が一部の相続人の代理をしたとしても,その時点で成年後見業務は終わっているのだから,直ちに公正中立性を害するということにはならない,ということのようです。

遺言執行業務中に遺言執行者が一部の相続人の代理人となることは違うということを言っているようです。




もっとも,元の成年後見人が相続人の代理人となったのが,①成年後見人が後見業務中の善管注意義務違反や報告書の不正不備等を隠ぺいする目的であった場合②成年後見人でしか知り得なかった事実を利用して一部の相続人を利する目的であった場合などには,非行に該当するとしていますが,本件ではこのような事情はなかったとしています。




ただ,成年後見人の職務終了後であっても,一部相続人の代理人となることは,成年後見人として行っていた業務の公正中立性に重大な疑念を生じさせるということから非行に該当するという反対意見も付いているということです。



弁護士が成年後見人に選任される案件では,親族間の深刻な対立が生じていることも多いものです。

本件では具体的にどのような事情があったのかについてまでは分りませんが,基本的には,「君子危うきに近寄らず」ということから,反対意見の考え方に立っていることの方が多いと思います。




私も,後見人を務めていた被後見人が亡くなった後で,遺産分割について受任してくれないかと相続人の一人から頼まれたことがあったのですが,断ったことがあります。

先輩の弁護士からは,相続とは無関係の離婚とか貸金とかの相談であっても,相続人の一人からの案件は断るべきだと言われています。










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