公正証書遺言というのはとにかく有効なのだと信じ込んでいる人というのは結構多いです。公証人というきちんとした準公務員が作成に関与するものであり,「有効っぽい」という印象もあると思います。




確かに,押印をきちんとしたかといった形式的な点が理由となって公正証書遺言が無効となるということは少ないと言えます。



ただ,公証人は,遺言の作成に当たって遺言者の遺言能力を確かめますが,能力があるのかどうか微妙な時は「作成する」という方向で処理していることの方が多いので,公正証書遺言が後で「作成時点では遺言能力無し」という理由で無効となることは結構あります。

判断能力が微妙な際に,公証人が遺言を積極的に作成する方向で処理するのは,遺言能力については最終的には裁判所で決着を付けるべきであって,公証人が厳格に判断してしまうと,遺言を作る機会を奪ってしまうという考え方に基づくものです。




判例タイムズ1385号で紹介された高知地裁平成24年3月29日の事例も,公正証書遺言について遺言者が遺言の意味内容を理解する能力を欠いていたとして無効とされた事例です。



大正3年生まれの女性(遺言者)が平成21年2月に死亡しましたが,平成17年10月に公証役場で作成された遺言の有効性が問題となりました。

遺言者には既に配偶者や子はなく,相続人としては妹Aと他の兄姉の子である甥姪たちでした。

遺言の内容は,全財産(預貯金約2748万円)を,兄の子である姪Bに相続させるというものでしたので,他の相続人が,遺言無効の訴訟を提起したというものです。



遺言者は遅くとも平成15年12月頃までには認知症を患っていたとされ,その頃から,Bの弟であるCが遺言者の財産を管理していたようです。




平成17年7月に,遺言者の別の姪D(Aの子)が申立人となって後見申立てを行い,同年11月に後見開始になりました。同じ年の10月に本件遺言が作成されたということになります。

なお,後見人には第三者が選任されたようです。



裁判所は,次のよな理由から本件公正証書遺言の作成当時,遺言者には遺言の意味内容を理解する能力がなかったとして無効としました。


・後見開始に当たって鑑定医は「遺言者には財産管理能力がない」という鑑定をしているが(平成17年9月),鑑定医は,半年以上遺言者を診察してきた医師によるものであって信用性が高い。なお,後見の現場でよく用いられる長谷川式スケールは13点だっということです。

・遺言の内容自体は全財産を相続させるという単純なものであるが,そのような意思を形成する過程では,個々の財産や財産的な価値,遺贈を受けるBとの関係だけでなくその他の近しい人との関係性をを把握する必要があるのであり,そのような思考過程は決して単純であるとはいえない

・Bや遺言作成に立ち会った証人は,遺言作成前に,遺言者が暮らしていたグループホームに行って話し合いをしたと供述するがそのような生活記録上の記載がない

・遺言書作成当時,Bに対しては家裁から後見についての照会が送付されていたのに,その手続の結果も待たずに遺言の作成に踏み切ったことは,後見制度の趣旨を無視する行為である

・遺言者がしっかりした文字で署名しているということは,当時の意識が清明であったということを示すに過ぎない




なお,この件では,遺言者の妹Aも原告として訴訟提起しているのですが,このAから弁護士に対する訴訟委任自体が無効ではないかということで争われています。遺言者も高齢者,訴える原告側も高齢者,というまるで社会の縮図のような状況です。

裁判所は,Aが弁護士に訴訟委任した時点ではAは重度の精神障害のために判断能力がなく,弁護士に対する訴訟委任というのは,過去の出来事や相手方との関係,訴訟追行に必要な時間や費用,勝訴の見込みなどを理解することが求められるのであって,本件でAはそのような能力を欠いていたとして,Aの弁護士に対する訴訟委任については無効であると断じています。




しかし,弁護士による訴訟提起後,Aの子であるDが後見を申し立て,Dが後見人となり,弁護士の訴訟行為を追認したことから,結局弁護士の訴訟行為は有効となるという論理で救っています。

初めから,後見の申立をしたうえで,後見人から授権を受けておくべきだったのかもしれませんが,何らかの事情があったのかもしれません。



本件ではそのほか,遺言者が成年後見を受けるまでの間に遺言者の財産を管理していたCが預貯金を引き出したりした行為が,遺言者の意思に基づいていたのか,そうでなかったとすれば,Cの行為は遺言者に対する不法行為となって,損害賠償請求権を相続人が相続するのではないかといったことも争われ,一部認容されています。




なお,本件は控訴されています。
よく相談を受ける典型例のようなことが凝縮されているような事例です。






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