成年後見,受刑者と選挙権

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今般の衆院選挙も近いですが,後見人を務めている方から「投票したいのだが投票の案内が来ない」と言われることがあります。



この点,公職選挙法11条で成年被後見人には選挙権がないと規定されています。後見開始となった時点で,各市町村に通知が行き,選挙人名簿から削除されるということになるので,投票の案内が来ないということになります。なお,保佐,補助,任意後見について選挙権が奪われることはありません。



公職選挙法11条によって,選挙権(投票権)がないとされているのは次のような人たちということになっています。


 成年被後見人

 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者

 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)

 公職にある間に犯した刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百九十七 

から第百九十七条の四 までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律 (平成十二年法律第百三十号)第一条 の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者

 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁錮以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者



4と5については,公職や選挙に関していわばズルをやった人なので,選挙権を剥奪することとの間に相関関係があり,一定期間選挙権を剥奪するというのは理解できます。



しかし,2,3の受刑者などについては,疑問です。



この点については,死刑囚が選挙名簿に登録されなかったことについて慰謝料の支払いを求めた訴訟があり,立法裁量の範囲内として棄却されています(東京地裁平成7年2月28日判決)。





確かに,犯罪を犯した人たちかもしれませんが,刑務所の待遇や自分が受けた裁判に関することなどについての意見を政治に反映させたいというのは,正当な要求ではないかと思います。例えば,死刑囚が死刑反対派の候補者に一票入れたいと思うことは,彼(彼女)が犯した犯罪行為とは切り離して考えるべきで,正当な政治的な意思であってこれを制限することは憲法上も許されないのではないかと考えられます。





成年被後見人についてはどうでしょうか?



この点については,現在,訴訟が提起されており,審理されています。



私は詳しく知っているわけではありませんが,国側の主張としては,成年後見が開始された人は,判断能力が乏しいのであるから,政治的な判断をするための選挙権を認めるわけにはゆかないということを根拠にしているのだろうということは容易に察しがつきます。



しかし,成年被後見人と一口にいってもその判断能力は様々です。憲法上の権利である選挙権を一律に奪うというのが許されるのかははなはだ疑問です。




成年後見開始になったからといって,すべてについて判断することが出来なくなるというわけではなく,結婚や離婚,遺言といった行為,医療に関する判断,どこに住みたいかといった判断については本人の自由意思にゆだねられることになっているので,成年後見が開始されたから政治的な判断行為は出来なくなるというのは論理的にも一貫性があるわけではないのです。

そうではない人に対しては失礼ですが,政治的判断行為といったって,私たち一般も,各党のマニュフェスト(公約)を熟読するとかしているわけではなく,たいして高度な政治的判断をしたうえで選挙に臨んでいるわけではないことも多いのでは(遺言書けるくらいなら投票くらいできるのでは。。)。。




加えて,旧民法の禁治産制度では,禁治産宣告は本人の権利を制限するためのものでしたが,現在の成年後見制度は「出来る限り本人の能力を制限しないようにしよう」という設計思想に基づいているので,この点でも,法体系として矛盾があり,民法と公選法の規定との間に齟齬を生じています。




ただ,選挙権に関しては,「権利」である一方で,「公務」(義務)でもあるという考え方も根強く残っています。
若い人たちに投票に行くように呼びかける際に,「投票は権利なのだから行きなさい」という言い方はあまりすることはなく,「投票は社会人の義務なのだから行かなければならない」という言い方をする方が普通ですが,このような選挙権は権利であるとともに義務であるという考え方が私たちにも根強くあるわけです。



義務であるとすると,どの範囲で義務を負わせるかは立法裁量の範囲内だという考え方と結びつきやすいので,あくまでも仮定の話ですが,今回の成年後見に関する選挙権訴訟で裁判所が請求を棄却する場合の論拠としてはこのような考え方を援用してきそうな気がします。憲法の条文上は,どこをどう読んでも義務だとはいえないと思いますが。。








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