3億円事件の法律構成

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3億円事件というのは,昭和43年に東京都府中市で発生した有名な事件です。といっても,私も生まれていませんので,テレビやウキペディアなどでの受け売りに過ぎませんが,概要は,次のような事件であったということです。




当時の日本信託銀行(現在の三菱UFJ信託銀行)国分寺支店から,東芝府中工場の従業員の給与分3億円を積んだ現金輸送車が,府中刑務所の裏手付近の通りに差し掛かったところ,白バイ警察官に偽装した犯人が,「貴方の銀行の巣鴨支店長宅が爆破され,この輸送車にもダイナマイト仕掛けられているという連絡があったので調べさせてくれ」と言って輸送車の車体下回りを捜索し始めたということです。

そして,犯人は,輸送車の車体下に潜り込み爆弾を捜すふりをして,隠し持っていた発煙筒に点火し,「爆発するぞ! 早く逃げろ!」と銀行員を避難させた直後に輸送車を運転し,白バイをその場に残したまま逃走したということです。





さて,この犯人の行為はどのような犯罪になるのでしょうか?




まず,輸送車に積まれていた現金の占有という問題があります。




この場合,財物の占有はこれを保持すべき権限がある者にあると考えられており,本件の場合,銀行の国分寺支店長に占有があるということになります。

窃盗罪や強盗罪は他人の占有を侵害する罪,横領罪は犯人が自分で占有している他人の財物を領得するという犯罪です。

ですので,例えば,輸送車の警備員が輸送車に乗って現金を持ち去った場合は,横領罪ではなく窃盗罪になります。





そうすると,本件では,支店長が占有する現金を奪ったということで強盗罪や窃盗罪が問題になりそうです。




「3億円強奪事件」とも呼ばれている通り,強盗罪が成立するのでしょうか?




強盗罪は,被害者が犯人に抵抗できないほどの強い暴行か脅迫を加えて,財物等を奪うという罪です。

本件で,犯人が隠し持っていた発煙筒に点火し,「爆発するぞ! 早く逃げろ!」と言って,銀行員を避難させたことは強盗罪の脅迫に該当するでしょうか?





銀行員は自分の生命の危険があると思わされているので脅迫に当たるようにも考えられますが,犯人に対して抵抗ができなくなっているというわけではありません。この点,犯人が発煙筒を手にして,「このダイナマイトに火をつけるぞ!」と言いながら銀行員を追い散らした場合には,間違いなく,犯人に抵抗ができなくなるほどの脅迫を加えたことになり,強盗罪が成立します。

しかし,本件の場合では,銀行員は,犯人に抵抗できないと思ってその場を離れたわけではないので,強盗罪にいう脅迫には該当せず,したがって,強盗罪は成立しないと考えられています。




ちなみに,犯人が輸送車の銀行員に暴行脅迫をして現金を奪った場合,現金を占有している支店長に対して暴行等を加えたことにはなりませんが,強盗罪の暴行脅迫は,財物の占有者に直接くわえられる必要はなく,占有を奪うのに障害のある者に対して加えられれればよいと考えられているので,この点は強盗罪の成立を妨げることにはならないということになります。こう考えないと,現金輸送車を襲って現金を奪った場合,強盗罪は成立せず,人を傷つけたとしても,窃盗罪+傷害罪ということになってしまいます。





さて,犯人は,銀行員を騙してその場を離れさせた隙に現金を奪っているので,詐欺罪は設立しないのでしょうか?

この点,詐欺罪は成立しません。

詐欺罪は人をだまして財物をかすめ取る行為すべてを処罰している犯罪ではなく,被害者が自らの意思に従って財物を犯人に差し出すことが犯罪成立のための条件になります。

本件では,銀行員は騙されていますが,現金を犯人に差し出したわけではないので,詐欺罪は成立しないのです。





従って,本件では,犯人は,暴行脅迫を用いることなく,支店長占有の現金を奪った,つまり,窃盗罪が成立するということになります。





「3億円事件」は実は窃盗罪だったということになります。










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