判例タイムズ1379号で紹介された事例です(東京高裁平成24年4月25日)。



金銭債権の強制執行する場合に,もっともポピュラーな方法の一つは,債務者の金融機関の口座にある預金債権を差し押さえることですが,差押えのためには,債務者がどこの金融機関のどの支店に口座を有しているかまでを,債権者側で提示しなければなりません。口座番号までは特定する必要はありませんが,支店までは特定しなければならないこととされています。




ただ,そもそも債権者側で債務者の保有口座の情報まで持っていないことも多く,この点がネックとなって強制執行を断念するケースは後を絶ちません。





金融機関は,ペイオフが生じた場合などのために名寄せのためのシステムをもっているはずで,預金者がどの支店にどんな口座を持っているかはシステム上瞬時に分かるはずだとして,金融機関の全店舗に対して差押えをかけた事例がありましたが,最高裁では,これでは特定ができいないとして不適法とされてしまいました(最高裁平成23年9月20日)。




本件では,金融機関のヴァーチャル支店の預金口座に対する差押えの事例です。



ヴァーチャル支店というのは,金融機関がネット上で解説している架空の支店で「なでしこ支店」「うぐいす支店」「さくら支店」「やまぶき支店」など,一見してそれと分かる花鳥風月の名前が付けられていることが多いです。

消費者金融会社などが,顧客からの返済金の返済口座として指定していることが多いのですが,ヴァーチャル支店は架空の支店であって,ここに入金されたとしてもヴァーチャル支店の口座に実際に入金されるわけではなく,入金して瞬間に,ヴァーチャル支店の当該口座名義人が指定した実際の実質がある本支店の口座に入金される仕組みです。

ですので,差押えに当たって,ヴァーチャル支店を支店として表記したとしても,「口座なし」か「残高なし」で差押えは失敗するということになります。




しかし,それではあんまりだということで,実務上は,金融機関の本店を送達場所として,「但書方式」というのに寄って差押えをかけています。

されは,差押債権目録に「但書」を付けて,「ヴァーチャル支店からの入金指定口座がある本支店」ということで特定しています。




例えば「なでしこ支店」から「新宿支店」に入金指定がある場合には,新宿支店の口座にある預金債権を差押えるということとなり,裁判所も金融機関もこれで対応してくれています。




普通はこれで足りるのですが,本件では,ヴァーチャル支店から先の入金指定口座について,「複数の本支店が指定されている場合には金融機関が自由に順序を定めてください」という特定の仕方をしました。




ヴァーチャル支店から先の入金指定口座は,通常の場合一つの支店口座であることが多いようですが,複数の支店や口座に振り分けることも可能は可能なようであり,差し押さえた債権者側としてはそこまで考えて,このような特定の仕方をしたようです。




しかし,裁判所では,これでは支店の特定ができてないとして差押えの申立を却下としました。




実務上は,先ほど言った通り,「ヴァーチャル支店からの入金指定口座がある本支店」ということで特定しています。

この場合も,ヴァーチャル支店から先の入金指定口座が複数あるという場合も想定されるのですが,その場合どうなるのでしょうか?

なんとなく,「まあ,そこまで考えないこととしよう」というなあなあの雰囲気でやっていたところもあるのですが,厳密に考えると困ることになります。







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