判例時報2159号で紹介された東京高裁の判決例です(平成24年5月9日)。




個人の方(本件原告)が,平成13年5月頃に自らの所有地の井戸を作って生活用水として利用していたところ,同じ年の12月頃に地元の自治体もその井戸から約110メートルから140メートル離れたところに井戸を掘り始めて平成14年2月末頃に完成させました。




ところが,自治体が井戸を掘り始めた頃から,もともとあった原告の井戸水を使って炊飯するとごはんがのり状になったり,風呂水として使うと全身にかゆみが生じたり,泥水が汲み上げられるようになった,ついには枯渇するという状態になりました。




そこで,原告は,費用をかけて井戸をさらに深く掘り増ししたところ,前記の汚染や枯渇が止まりました。




原告は,自分の井戸に異常が生じたのは自治体が井戸を掘ったことと関係があるとして掘り増しした費用や調査にかかった費用,慰謝料,弁護士費用などを損害として提訴しましたが,一審は原告の井戸に生じた異常と自治体の井戸の掘削との間に因果関係がないとして,請求棄却としました。



控訴を受けた東京高裁では,訴訟上の因果関係の立証は一点の疑義も許さない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を前にし得る高度の蓋然性を証明することであるという最高裁の準則に照らして,本件では,因果関係があると認めました。




具体的には,本件自治体は井戸の掘削に用いたベンナイトというものを用いたボーリング工法により井戸を掘削しましたが,このベンナイトを水に溶いたときの泥水は淡黄色となり沈殿物が出るということでした。

本件で原告の井戸からは淡黄色の泥水や沈殿物が検出されていましたが,それがベンナイトであるかどうかまでは確定できず,一審では自然界にも存在するというベンナイトではないかという判断をしていましたが,高裁では,原告の井戸に異常が生じた時期や双方の井戸の位置関係などから考えても,自治体の掘削によってベンナイトが原告の井戸に流れ込んだとみるのが自然だと評価しました。




原告は,多額の調査費用(合計約465万円)をかけて水質調査などを行い裁判に提出としていましたが,高裁はそのうち3割のみを損害としました。

単に「井戸がおかしくなった」という原告の供述しかなかったのであれば裁判で勝てたかどうかは分りませんので,全額認めてよいようにも思いますが,裁判所としては調査の必要性には濃淡があることや費用として高額すぎるのではないかといった観点から3割に留めたということです。




そのほか,新たな掘削費用約441万円,慰謝料30万円,弁護士費用62万円などが認められています。




このような相談は受けないことはないのですが,調査の費用などがネックになって結局泣き寝入りということも珍しくはありません。騒音問題の調査費用なども同様の問題があります。




本件は上告されているようです。




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