判例時報2160号で紹介された横浜地裁平成24年3月23日の判決例です。




もともと褥瘡を生じていた87歳の男性が,全国展開する大手の終身利用権付き介護老人ホームに入所したところ,褥瘡が悪化したために細菌の敗血症によって正式入所から約17日後に死亡したことから遺族が施設を運営する会社を相手に訴訟を提起したというものです。




ご本人は,平成3年以降糖尿病にり患し,平成4年には大腸がんの手術を受けるなどしており,平成11年ころからは様々な症状が生じたため病院での入退院を繰り返していたようです。自宅での療養中は,訪問看護を受けており,平成17年12月に退院してからは24時間態勢で介護を受けていたものの,妻の介護の負担から,子どもたちの勧めもあって,平成17年12月29日に本件施設に体験入所し,平成18年1月4日からは正式に入所契約をしましたが(入居金950万円),同じ月の1月21日には前記の通り亡くなったということです。



介護施設に入居するに当たっては,それまでの主治医などから施設側医師に対して診療情報提供書が渡されますが,本件ではご本人の仙骨部に生じていた皮膚褥瘡の傷病や今後考えられる問題点として褥瘡の悪化ということなどが指摘されていました。



入所後,ご本人はほとんど1日中ベッドで過ごしており,褥瘡箇所にはハイドロゲル保護材が貼られていました。

裁判所の認定によると,正式入所した1月4日当日は5センチ四方の同保護材を貼り,8日には同様の大きさの保護材を貼ったということです。このことから,裁判所は,少なくとも,1月8日までは褥瘡の悪化はなかったと認定しています。




1月10日からご本人の体温が上昇するなどし,16日には本人の妻から「本人の元気がない」などの訴えがあり,施設側は救急車で病院に搬送しましたが,その時には,既に褥瘡からの悪臭が強くなっていたということです。

そして,治療のかいなく,結局1月21日に死亡が確認されたということです。




褥瘡の拡大,悪化がどのように生じたのかということについて争いがありましたが,裁判所は本人の褥瘡箇所に貼られていた保護材の大きさに着目し,1月16日に本人が病院に搬送される直前の保護材の貼り替えがあった1月14日には10センチ四方の保護材の貼り替えがなされており,その前の1月11日の貼り替えの際には5センチ四方の保護材が貼られたことからすると,遅くとも1月11日以降,褥瘡の拡大と悪化が生じたものと認定しました。

施設の往診医は,1月16日の診察の際に「褥瘡に悪臭などの問題はなかった」と証言しましたが,保護材の上から観察しただけであったことや,そもそも,貼られた保護材が10センチ四方に拡大していたこと自体が問題であったと指摘されています。

また,1月15日の看護記録には「褥瘡に関して,夜勤ケアより・・・変化ないと報告受ける」という記載がありましたが,伝聞であることに加えて,記載内容がきわめて概括的であることなどから異常がなかったことの証拠にはならないとされています。




そして,そもそも本件では本人が入所後1日中ベッドで過ごすことが多く自発的に体位変換による除圧が困難であったこと,本人が糖尿病にり患し血管が閉塞しやすい状態にあったことなどから褥瘡が治りにくい要因があったのであり,施設側は診療情報の提供も受けていたのであるから,褥瘡の拡大と悪化が生じた1月11日以降の施設側の措置として,2時間ごとの体位交換や幹部の洗浄や保護材の交換といった措置では足りず,施設側には褥瘡の拡大と悪化を防止すべき義務を怠ったとされました。




そして,施設側が適切な処置を怠ったことにより,褥瘡の悪化が生じ,本人の死亡に至ったとして因果関係も認めて,施設側に慰謝料や年金の逸失利益などの損害賠償として合計約2160万円の支払を命じました。





本件は控訴後和解が成立しているようです。







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