判例タイムズ1377号で紹介された福岡高裁の判決例です。

永住者の滞在資格を有する中国人について,生活保護が受けられるのかという論点が問題になりました。




生活保護法2条では,生活保護を受けられる資格を「国民」に限定しているのですが,昭和29年の厚生省社会局長の通知で,「当分の間」生活に困窮する外国人についても国民と同様の基準で生活保護の取り扱いを行うとされ,以来,ずっとそのような運用がされてきました。

なお,平成2年には,生活保護を受けられる外国人を永住者など一定の外国人に限定されています。




また,日本が難民条約を批准する際に生活保護の国籍条項の削除が問題になりましたが,前記のような通知により運用されている実態からみて改正は必要がないとして生活保護法の国籍条項の削除が見送られたという経緯がありました。




さて,本件は,双方とも中国籍の永住資格を持つ夫婦のところに,夫の弟が引っ越してきて,預金通帳を取り上げたり,医療費などの費用を支払わない,「メシなんか食わさん」などの暴言を吐くなどの高齢者虐待の疑いがあるとして,地元の地域包括支援センターというところに相談が寄せられたことが発端でした。




包括支援センターでは,弁護士も交えたケース会議を行いました。

本件夫婦の財産としては,夫婦の預金や夫及び夫の亡くなった父親名義のままになっている不動産などがあり,弁護士からは,判断能力の低下した夫については妻が申立人となって成年後見人を選任してもらうなどのアドバイスがありました。

また,生活費の確保のために生活保護の申請を行うということも検討され,生活保護の申請を行ったところ,地元の福祉事務所から,夫婦には前記のような財産があるとして申請を却下されてしまいました。




そこで,却下処分を不服として知事に対して審査請求をしたところ,「そもそも,外国人には法律上生活保護を受ける資格がない」との理由で審査請求自体が不適法とされてしまいました。

もともと権利ではないのだから,却下されたとしても文句はいえないという理屈です。




そこで,訴訟提起をしたところ,一審は,外国人には生活保護受給権がないという理由で知事の判断に誤りはないとしました。




控訴審では,一審の判決を取り消し,福祉事務所長がした生活保護申請の却下処分も取り消しました。




高裁では,前記のような昭和29年以来の通知に基づく運用や難民条約批准の際の国会答弁などから,一定範囲の外国人については法的に生活保護の対象となると判断されました。




そして,前記のような夫婦の資産状況や経済的な虐待が疑われ通帳を取り上げられていたような状況では資産上の名義はともかく生活費をねん出することはできなかったとして,生活保護申請を却下した地元福祉事務所の判断も誤っているとしました。




本件は上告受理の申立がされているようです。




名義上資産があっても使えないという本件のような高齢者虐待のケースはよくあることで,その場合,生活保護の検討もしなければなりませんが,対象となっている人が外国籍ということは珍しいことではなく,生活保護の申請が却下されたというケースも頭に入れておかなければならないです。





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