判例タイムズ1375号で紹介された東京地裁平成23年12月21日の判決です。




刑事訴訟手続では,違法収集証拠排除の法則というものがあり,違法な手続で集められた証拠は刑事事件の証拠とすることができないというものです。




覚せい剤事件などの薬物事件でよく問題となり,本来,差押令状が必要であったのに令状なしで薬物を押収するなどした場合,押収した薬物自体を証拠とすることができない結果,被告人が無罪となったりする事例がたまにあります。




アメリカなどの手続重視(デュープロセス)の国で重要視される考え方ですが,日本の場合には,ちょっとした手続き違反があった場合にすべて無罪となってしまうと社会秩序の維持や法感情が保てないということで,手続に特に重大に違法があり,証拠排除が相当であるという場合に,証拠能力を否定することとされています(最高裁昭和53年9月7日)。




本件では,覚せい剤の譲渡の被疑事実で逮捕された被疑者が警察官に対して弁護人を読んで欲しいと依頼し,その日の午後5時27分頃,弁護士会に対して登板弁護の要請のファクスが流されました。ちなみに,この時刻は実に微妙で,私が所属している弁護士会では5時30分までが当番弁護の待機時間になっています。




本件では,結局,その日のうちの当番弁護の出動はなかったようです。




警察では,被疑者に対して覚せい剤の自己使用の疑いも持っていたので,尿を自主的に出すように求めましたが,被疑者は,「明日朝一番で出す」などといって応じなかったようです。




弁護士会に当番弁護の要請がなされた翌日の2階にわたる取調べで警察官から被疑者に対してさらに尿の任意提出が求められましたが,被疑者が応じなかったため,警察官は,強制採尿令状の請求や病院の手配等の準備に入りました。

強制採尿とは,裁判所の令状に基づいて行うもので,強制的に尿道にカテーテルを挿入して尿を採取します。




当番弁護の要請を受けた弁護人は,その日の午後3時ころ,警察署に電話して約1時間後の接見希望を伝えましたが,ちょうど被疑者が腹部のかゆみを訴えて皮膚科を受診することになっていたことから,警察から「その時間は被疑者は皮膚の検診のため病院に行っている」と言われ,戻り時間は折り返し警察から弁護人に伝えることとされました。





それから,警察では強制採尿令状を取りましたが,弁護人からの接見希望があったときいことから,被疑者が皮膚の検診のため病院の受診から戻ってきた午後5時30分頃,警察内で,強制採尿を先にするか,弁護人との接見を先に行わせるか協議がなされ,被疑者の夕食後に強制採尿を先にすることとされました。




そして,警察から弁護人に対して,「今から強制採尿で病院に行くので戻りは午後10時くらいになる」と伝えられ,弁護人は「今日はちょっといけないかな」ということを言いました。




そして,午後6時45分ころ,令状が出ていることを被疑者に示したところ「令状が出ているのなら仕方ないかな」ということで,被疑者は尿の任意提出に応じ,その尿から覚せい剤の成分が検出され,覚せい剤の自己使用罪で起訴されました。





裁判では,弁護人からの接見希望が伝えられていたのにもかかわらず,弁護人との接見を調整せず,或いは,被疑者に対して皮膚科の受診を止めて弁護人と接見するかどうかを確認しなかったこと,また,強制令状の手続に先立って弁護人との接見をさせるべきであったことなどが指摘され,警察の措置は弁護人との接見交通権を侵害する違法なものとされました。





このような違法な手続に沿って,尿の任意提出がされたということから,提出された尿,ひいてはそこから検出された覚せい剤反応を示した鑑定書,また,被疑者の供述調書について違法収集証拠として証拠排除されるべきかどうかが争われましたが,裁判所は,尿については強制採尿令状が整っていたことや弁護人からの接見希望が伝えられる前にすでに強制採尿令状の請求の準備に入っていたことなどから,重大な違法として証拠排除するまでのことではないとしました。供述調書については,違法な逮捕勾留があったとはいえないとして同様に証拠採用しました。





本件は控訴されたようです。









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