自動車保険ジャーナル1859号で紹介された大阪地裁平成23年1月14日判決です。




【事故の概要】

●被害者(原告) 大正9年生まれ(事故当時84歳)

本件事故以前は洗濯物を干したり,電話に対応するなどの家事に従事しながら,旅行や写真を楽しむ生活をしていた(特に写真について30年以上の腕前)

●事故日  平成17年3月8日午後4時37分頃

●場 所   大阪府内の交差点

●事故態様 交差点を右折しようとした加害車両(被告車)が横断歩道を横断中の被害者(原告)に気が付かずに衝突した



【被害者の受傷状況等】

右第2から第5肋骨の骨折,右股関節打撲・挫創,腰殿部打撲等の障害を負い,平成18年9月26日に症状固定と診断されました。

なお,同日付の後遺症診断書の記載内容は次のようなものでした。

・神経学的には明らかな異常,他覚症状はなし

・150メートルほどの歩行で右殿部から鼠径部の疼痛が出現している

・座位から起立まで時間がかかる

・歩行にはT字杖が必要

・しゃがみこみ動作,階段昇降は不可能

事故前に比べて顕著にADL(生活上の自立)が低下した(自覚症状として記載)



入院期間は平成17年3月8日から34日間,通院期間は約17か月間に及びましたが,実通院日数としては36日間でした。



事故日である平成17年3月8日から入院し,3月15日から歩行訓練を開始し,4月6日には不安定ながらT字杖歩行が可能となり,4月10日に退院しました。退院日における看護師の記録には「24時間誰から付添を要する」などの記載がありました。

退院した後の通院期間中の経過として,平成17年4月28日にレントゲン撮影で内側関節裂隙狭小化が認められたが,これについては従来からの変形性膝関節症によるものとしてその後私病扱い,自由診療となりました。

その後の大きな看護方針としては,主な疾患を右第2から第5肋骨の骨折,右股関節打撲として大きな精神症状やADLの低下もなくリハビリも進んでいるという現状把握がされています。

原告は,平成17年12月から5月までの間,インフルエンザに罹ったということでリハビリを中断しました。

その後平成18年9月26日に症状固定の診断がされたという経緯です。



ただ,損保料率機構では自賠責後遺障害等級は「非該当」との判断がされました。その主な理由は次の通りです。

・胸腰椎圧迫骨折については,画像上第12胸椎椎体の変形が認められるが本件事故による圧迫骨折とは認められない

・150メートルほどの歩行で右殿部から鼠径部の疼痛が出現していること,歩行にT字杖が必要であること,しゃがみこみ動作や階段昇降などが不可能であることなどについては,自覚症状を裏付ける医学的所見が認められない

・右股関節の可動域制限については,胴部に骨折,脱臼がなく,かつ,その可動域領域が左股関節と変わりがない

・右膝関節の可動域制限については,本件事故から約1か月が経過した時点から治療が開始されており,事故との因果関係が判然としない




【主な争点】

1 事故との相当因果関係

  原告は,本件事故によって,①右股関節の疼痛のほか,②右膝部の可動域制限と痛みがあること,③変形性関節症とみられる症状により,歩行にはバランス型杖が必要となり疼痛が出現するようになった,正座や胡坐はできなくなりベットから起き上がるのにも時間がかかるようになった,階段昇降はできず和式トイレも使えなくなった,入浴時の介護が必要になったなど,ADL(生活面での自立)が低下したとして,これらの症状は後遺障害等級7級4号「神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当すると主張しました。

これに対して,被告は,自賠責の等級認定では非該当であること,原告にそのような症状が認められたとしてもそれらは加齢によるものであって事故とは関係がない,また,原告にそれらの症状が現れたのは症状が固定した平成18年9月26日から2年以上経った平成21年以降のことであることなどを主張して争いました。



2 素因減額

  被告は,仮に事故との因果関係があるとしても,ADLの低下については原告の加齢による原因もあるとして寄与度減殺を主張しました。




【裁判所の判断】

1(事故との相当因果関係)について,本件以前に股関節にそのような症状があったと認められるだけの証拠はなかったことなどから,上記①原告の右股関節に生じている疼痛についてのみ後遺障害として認め,14級9号「局部に神経症状を残すもの」であるとしました。




②右膝部の可動域制限,痛みについては,このような痛みが発生したのが本件事故から約1か月以上経過した時点であることや,従来の症状に由来するものとして私病扱いとされた経緯などから,事故との因果関係が明らかでないとして後遺障害としての認定はされませんでした。




③ADLの低下についても,次のような理由から後遺障害として認めませんでした。

・現在の原告の状況を裏付けるべき診断書,その他の医学的所見を欠いていること(原告の法廷供述は事故をよく見せようとする現れであって実態を示していないという原告の長男の妻の供述は,原告の症状を誇張しているなどのふしがなくもないとしています)

・インフルエンザを理由に約5か月間もリハビリを中断したことは,高齢者である原告にとってADLの低下等の種々の悪影響を及ぼすものであることは容易に想定することができ,仮に原告が主張するADLの低下があったとしても本件事故との相当因果関係を欠く



2(素因減額)について

原告には以前から膝,腰の治療歴があったとしても,本件で後遺障害として認められた右股関節の疼痛に直ちに影響を及ぼすものではないとして,訴因減額は認めませんでした。




【損害】(      )は原告の請求金額

1 治療費 203万4755円(203万4755円)



2 入院雑費 5万1000円(5万1000円)

 日額1500円として算定されました。  



3 付添看護費 46万2000円(160万2000円)

 長男の妻が入院中に付き添ったとして,入院期間全日34日間については,日額3000円として認められました。 また,通院,自宅介護にいての付添看護についても,退院後も一定の期間は付添看護が必要であったとして,近親者介護として日額2000円,退院後6か月間について認められました。


4 将来看護費 0円(555万8220円)

 原告は,症状固定後も一人では生活できず,長男の妻に全面的に依存している状態であるとして将来の看護費も請求しましたが,事故に起因する神経症状としては14級所定の神経症状にとどまっているとして,相当因果関係のある損害しては認められませんでした。



5 福祉用具利用料 2万7850円(11万6172円)

 介護ベッド,杖を毎月1500円づつ,17か月間利用した分にいては認められました。

 ただ,今後の介護ベッド費用については認められませんでした。



6 家屋改造費 10万円(15万9646円)

原告が自宅1階にベッドを置いて療養せざるを得くなくなったため,間仕切りを設置しましたが(費用14万円),この間仕切りは原告だけではなく家人も便宜を受けるとして9万円のみ損害して認められました。

また,手すり設置費用のうち1万円が損害して認められています。


7 通院交通費 36万2350円(36万2350円)



8 文書料(交通事故証明書) 600円(600円)



9 休業損害 142万1649円(142万1649円)

一定の限られた範囲内ではあるが,家事に従事者していたとして,平成17年賃金センサス産業計,企業規模計・女子労働者学歴計の65歳以上の年額284万3300円の1/3を基礎収入として休業期間を1年6か月として認められました。



10 逸失利益 0円(258万0768円)

 症状固定時にはすでに満86歳に達しており,症状固定後は,家事労働として評価されるだけの労働ができるとは考えられないとして請求が認められませんでした。



11 慰謝料 250万円(1290万円)

 入通院慰謝料として140万円,後遺障害慰謝料は110万円が認められました。


12 上記の損害合計696万0204円から填補済みの既払い金253万7105円を控除し,弁護士費用40万円を加えた482万3099円について請求が認められました。





■ランキングに参加中です。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。