平成19年5月,愛知県長久手町で起こった立て籠もり発砲事件の上告審判決です(第二小法廷 平成23年3月22日判決 判例時報2153号)。




この事件は,元妻との復縁を迫った男が,実弾入りのけん銃を所持して元妻を呼び出し,一緒にいた子供たちが110番したことから駆け付けた警察官に対し発砲し頸部に命中させて全治不明の重傷を負わせたり(殺人未遂),子どもたちに向かって発砲し傷害を負わせました(殺人未遂,傷害)。

そして,元妻らを人質に立て籠もった男を取り囲んだ愛知県警の警官隊に向かっても発砲したところ,警察官の一人に命中して死亡させたという事件でした(殺人既遂)。




一審,二審とも無期懲役の判決でしたが,検察官がさらに死刑を求めて上告しました(被告人側も上告)。




最高裁は,概要,まず,次のように述べます。

被告人は,元妻との復縁に執着する余り,けん銃を持ち出した上,被告人の行為を妨害しようとする者を排除するなどのために本件一連の犯行に及んだものであって,身勝手な動機に酌量の余地はない。量刑上重視すべき(1)警察官に対する殺人未遂,(2)長男に対する殺人未遂及び(6)警察官に対する殺人既遂の各犯行についてみるに,まず,(1)及び(2)の各犯行は,いずれも確定的殺意をもって,至近距離からけん銃を発射するという危険性の高いものであり,殺害するには至らなかったものの,いずれの被害者に対しても重傷を負わせている。特に,(1)の犯行の被害者である警察官は,重傷を負わされながら,その後被告人に5時間余りにわたって救助を阻止された上,幸い一命は取りとめたものの,胸部以下が不随になるという重い後遺障害を負っている。そして,(6)の犯行は,上記職務に当たっていた別の警察官を射殺したものであって,凶悪な犯行であり,結果が重大であることはいうまでもない。死亡した警察官の遺族や被害者らの処罰感情が厳しいのも当然であり,本件各犯行が社会に与えた衝撃も大きい。
 これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重大というべきであり,殊に,適法に職務執行中の警察官2名に対してけん銃を発射し,1名を殺害し,1名にひん死の重傷を負わせたことからすれば,被告人を死刑に処すべきであるとする検察官の主張も理解できないではない。」




しかし,次のように述べて,無期懲役とした一審,二審の判決を是認しました。



「(6)の犯行については,被告人には未必的な殺意が認められるにとどまること,被告人は,上記の経緯で本件一連の犯行を犯したものであって,綿密,周到な計画性があったとはいえないこと,被告人は被害者らやその遺族に対して謝罪の態度を示していること,服役した前科がないことなどの事情が認められる。そうすると,以上のような事情を総合考慮して,被告人を無期懲役刑に処した第1審判決を維持した原判決について,その刑の量定が甚だしく不当でこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとまでは認められない。」





警察官に対する殺人既遂について,確定的殺意(必ず殺してやろうと思って殺した)か未必的殺意(必ず殺すつもりまではないが,死んでしまったならそれはそれで構わないと思った)かが重要な要素になっているようです。





判例時報の解説記事によると,殺人の被害者が一人の場合に死刑判決とされた事案については,いずれも確定的殺意があった事件ばかりであるということです。




一命を取り留めた警察官が現在どうなっているのかは不明ですが,仮に植物状態のようになっていたとしても,法的には殺人未遂であり(家族からすれば殺されたのと同等かそれ以上の苦しみでしょう),殺人の被害者はあくまでも未必的殺意による一名ということになります。

被害感情からするとなかなか微妙です。








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