破産手続きでは,相殺が問題になることがよくあります。



特に金融機関との関係においてよく問題になりますが,基本的には,破産手続開始決定時(破産の開始決定には午後●時と時刻まで記載されています)の前後で扱いが大きく分れます。




借入のある金融機関に預金口座があるという場合に,破産手続開始決定時に預金があれば,金融機関は借入金と相殺できますが,破産手続開始決定以降に口座に入金されたお金については相殺することができません。ほかにも,破産手続の申立をしてから開始決定までに振り込まれた預金はどうなるのかなど,時期によって状況や条件は異なりますが,破産手続開始決定の前後で分けると大まかにはこのようになります。

金融機関としては預金を担保に貸付をしているので,破産時点で預金がある場合には,相殺してそこから回収できるという期待があるだろうというわけです。




最近,預金ではなく,投資信託の解約金の場合にはどうなるのかという問題が提起されています。




例えば,破産管財人が,破産者が金融機関と取引していた投資信託を解約した場合はどのようになるでしょうか?




私などは単純なので,破産管財人が解約したことで初めて解約金が具体化したのだから,破産手続開始後に解約金相当額の返還請求権が発生したものと考えて,預金の場合と同様に金融機関からの相殺などできないのではないかと考えましたが,そう単純でもないようです。





投資信託の構造は,顧客である投資信託購入者(受益者),金融機関(販売会社),委託者(運用会社),受託会社(信託銀行)と複数の関係者がいます。

そして,顧客が投資信託の解約請求をすると,金融機関は委託会社に通知し,委託会社(運用会社)が解約を実行することで解約金が販売会社を通じて顧客に支払われるという流れになっています。

そして,ここがミソのようですが,顧客が投資信託の「解約を請求する前」であっても,金融機関(販売会社)は投資信託の購入者である顧客に対して,解約金相当額の支払い義務を負っているとされています。但し,委託会社から金融機関(販売会社)が解約金相当額の交付を受けたときはという条件付きです。

このような法律構成については最高裁の判例が出ています(平成18年12月14日)。なぜ,わざわざこんな法律構成をとるかというと,投資信託の解約が請求されていなければ顧客は金融機関に対して解約金相当額の支払請求権がないということになると,顧客の債権者は,顧客の資産である投資信託の解約相当額に対して差押えをすることができなくなってしまい不都合を生じます。
最高裁の事案はまさにそのようなことが問題となる事案でした。このとき最高裁が採った法律構成が、破産と相殺という局面に波及しているという状況です。





金融機関の立場としては,破産手続開始前に,投資信託の解約金相当額の支払い債務を負っているので,これと貸付金を相殺できるということを主張し,実際に相殺を有効とした裁判例があります(大阪地裁平成21年10月22日,控訴審である大阪高裁平成22年4月9日 銀行法務21-2012年4月号など)。




大阪高裁は,投資信託は販売会社である金融機関を通じて販売されるものであり,解約金の受け取りも当該金融機関の破産者の預金口座を通じて行われるものであるのだから,金融機関として破産者の貸付金と相殺する期待があり保護されるとして,破産管財人が行った投資信託の解約による解約金相当額の支払い請求権と貸付金との相殺を認めました。





なお,判文上はっきりしないのですが,この案件では,金融機関は委託会社から交付を受けた解約金相当額を破産者名義の口座に振り込んだということではないようです。





というのも,破産管財人からの投資信託の解約請求を受けて,破産者の口座に解約金相当額を振り込んだ事案では,金融機関による相殺の主張を認めていない裁判例があります(大阪地裁平成23年10月7日)。

この場合,振り込まれた解約金相当額は単なる預金であって,破産手続開始決定後に預金が振り込まれた場合と同様であるという判断がされています。





投資信託についてはいろいろと難しい問題があるようです。





申立代理人の立場としては,依頼者である破産手続の申立人が貸し付けを受けている金融機関に投資信託を有している場合には,申立前に解約して別の安全なところに現金化して破産管財人に引き継ぐのが賢明なようです。






■ランキングに参加中です。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。