紳士協定

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「紳士協定」ということばがあります。




色々な意味があると思いますが,法律の世界では,当事者相互間の信義に基づいて「自発的に」履行すべきであるが,法的に強制を求めることができない性質の約束という意味で使われることが多いです。




といっても,法律に規定されているわけではなく,裁判例を通じて形成されてきた概念です。




法律の世界では,書面などでしなければならないと決められている一定のものを除けば,例え口約束であっても守らなければならない拘束力があるとされます。




ただ,現実世界では,ちょっとしたリップサービスで口を滑らせたり,又は,とりあえず一定の合意を確認しておくという程度の意味で玉虫色の合意をしたりすることがあり,何らかの約束があるからといってすべて強制力のある合意として扱ってよいのかということが問題になります。




裁判例でも,何らかの合意(約束)があったとしても,それは当事者が自発的に履行するのであればそれでよいが,裁判所を通じての強制はできないという判断がされることがあります。




古くは,カフェー丸玉女給事件という大審院時代の古い判例があり,法学部生や司法試験受験生であればほとんど誰でも知っています。




最高裁の判例では次のようなものがあります(最高裁平成1年11月24日)。




既設のバス路線を経営していたA社と温泉や観光施設の開発整備をしているB会との間で利害調整をするため,両社が共同して当該事業の主体となるべき会社を新たに設立し、新会社の事業免許は限定免許とすること等を内容とする原協定が締結され、翌日、両社間にA社が新会社に代わって当該事業の主体となるべくB社からA社に対して出資及び役員派遣をすること等を内容とする修正協定が締結されました。




しかし,その後,B社が独自にバス事業を始めようとしたことから,A社が協定に基づいて,B社のバス事業の経営禁止を求めました。




原審がこのような協定にも法的拘束力があると判断したのに対して(もっとも,そのような協定は独占禁止法3条に違反し無効であるとしてA社の請求を棄却しています。),最高裁は,当時、新会社の規模、業務内容、営業体制等を未だ具体的に確定し得る段階になく、原協定で予定した新会社の設立自体もなお流動的、不確実な状況にあった上、修正協定でA社が新会社に代わることになったのも、速やかに当該事業の免許を取るため、A社の既存の免許申請を活かし、新会社の設立を取り止めたものであって、右各協定はいずれも両社が将来における当該事業の基本的な構想を策定したものにすぎないなどとして,右各協定の合意に法的拘束力を認めることはできないとしました。

ただ,結論としては,A社の請求棄却という結論は同じです。




同じく,最高裁昭和42年12月21日判決というものもあります。




これは,ダム建設に伴う損害に関して,A川流域の住民の有志が結成した対策委員会と電力会社との間で作成された協定書及び契約書におけるダム建設に伴う漁業及び流木の補償に関する記載について判断した事例です。




協定では,「漁業被害については、実害があれば補償する。流木被害については、実害があれば補償する。」という記載がありましたが,原審はこれを紳士協定として,地域住民らによる損害賠償請求を棄却しましたが,最高裁は,特別の事情の存しない限り当事者に対して何ら法的拘束力がないものとは解されないのに,原審がかかる特別の事情の存することについて十分判示することなく前記書面が全く法的拘束力を欠くものと判示したことは,審理不尽という外ないとして原判決を破棄し,事件を原審に差戻しました。





この点に関し私もある案件で争いになったことがあり,経済法令研究会というところら出ている「民事法の論点」(滝澤孝臣著)を参考にしながら裁判を闘ったことがあります。





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