判例時報2151号で紹介された東京地裁平成24年1月10の判決例です。




歯科クリニック勤務していた勤務歯科医が,診療録に不実の記載をしたなど

して社会保険事務所から保険医の登録を取り消す処分を受けてしまいました。




保険医登録を取り消されてしまうと保険診療ができなくなってしまうので,医師や歯科医にとっては死活問題です。




社会保険事務所は,付増請求,振替請求,二重請求などの不正行為を行ったとして,当該勤務歯科医のほか,クリニックの院長などの保険医登録を取り消しました。




しかし,そもそも,不正診療について,最初に社会保険事務所に情報提供をしたのは,この勤務歯科医でした。勤務歯科医は過去に自己破産して保険医登録を取り消されたことがあり,クリニックでの不正行為についてこのまま黙っていると,自分もまきこまれてまた保険医登録が取り消されてしまうのではないかと危機感を抱いたようです。




ところが,社会保険事務所は,この勤務歯科医も一緒になって不正行為をしていたとして認定して保険医登録を取り消してしまったのです。その根拠としては,不正があった診療録には当該勤務歯科医の氏名が入力されていて,診療録の管理は責任者である診察歯科医がきちんと管理しなければならなのだから責任があるというものでした。




しかし,このクリニックでは診療録等のデータを入力するパソコンにパスワードが設定されておらず誰でも入力できる状態でした。また,そもそも経営者ではなく勤務している歯科医がそのような不正を行う動機がありませんでした。不正の情報提供を最初にしたのも勤務歯科医です。




これでは納得がゆかないということで,勤務歯科医は,行政手続きである聴聞の手続に代理人である弁護士も同席させて上記のような弁明をします。聴聞の場で,行政側は,「弁護士であっても代理人に直接答弁は許さない。不適切な発言をしたら退席させる」などと言い放ったようです。

いかにも,バカな行政担当者がい言いそうな発言です(ほとんどの行政関係者は真摯できちんとした方です。でも,中には,本当に傲岸不遜なのがいることも事実なのです)。




そして,行政側は,勤務歯科医側の弁明に対しまったく聞く耳を持たず,「診療録は歯科医の名義で作成されているのだから立証責任は歯科医側にある。」という論法で,保険医登録の取消処分としました。




勤務歯科医側は行政処分を提起して,この保険医登録の取り消し処分は取り消されました。




そして,勤務歯科医側が国賠請求を提訴し,裁判所は,行政の責任を認めて,逸失利益や慰謝料など約1132万円の支払いを命じました。




裁判所は,行政側は不利益処分を行う以上は行政側で主張立証ができるようにすべきであるのに,勤務歯科医や代理人の主張や指摘を無視したとして,行政庁が尽くすべき職務上の注意義務を怠ったと弾劾しています。





また,行政側は,本件処分が地方社会保険医療協議会の諮問を経ていることで正当性を基礎づけようとしましたが,諮問から回答までわずか2日程度の手続でどのような検討をしたのかも分らないとして,一蹴されています。




本件は確定しています。恥の上塗りはしたくなかったのでしょう。





にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


■弁護士江木大輔の法務ページに移動します。




コメント(2)