判例時報2151号で紹介された東京地裁平成24年1月30日の裁判例です。




ある会社の代表者をしていた方が平成19年に亡くなり相続が発生しました。




相続人であった妻らは,税理士に相続税の申告業務を委任しました。なお,当該税理士は,東京都内で税務会計事務所を開業していた税理士で,亡くなった代表者が経営していた会社や生前の代表者及びその妻の個人の確定申告についても関与していました。




亡くなった代表者は,資産家であったようで,当該税理士の申告により,代表者の妻は約3084万円,会社の後を継いだ子が約4315万円,その他の子が約1326万円といった高額の相続税を納付しました。




しかし,申告の翌年の8月,国税局による税務調査が入り,被相続人の海外資産などの資産の計上漏れが指摘され,修正申告によって,被相続人の妻が約1億4508万円,その他の相続人も約2156万円,約362万円といった相続税の本税を追加納付することになってしまいました。さらに,過少申告加算税,重加算税も付加されてしまいました。





相続人らは,申告を担当した税理士に善管注意義務違反があったとして,きちんと最初から申告していれば加算されなかったであろう重加算税や隠ぺいが認定されたことによって代表者の妻が相続税の軽減措置が受けられなかった分について,損害賠償を請求したという事案です。

なお,当該税理士は,訴訟提起後に亡くなってしまい,税理士の妻や子が相続人として訴訟承継しています。





裁判所は,税理士の善管注意義務違反を認めて,税理士の相続人たちに損害賠償を命じました。




理由としては次の通りです。





申告漏れを指摘された海外資産について,当該税理士は,被相続人の生前に所得申告をした際,被相続人の海外の医療費の資料を受け取ったことがあったのであるから被相続人が海外に資産を保有している可能性が高いという認識があったと認定されました。

そして,そのような認識を持っていた以上,被相続人の妻たちに対して海外資産の有無を尋ねたり,資料を調べさせるなどの指示をすべきであったのにこれを怠った点に過失があるとしました。

ちなみに,被相続人の妻は,海外資産の存在を認識していたが,具体的な内容は把握しておらず,資料も手元になかったため,税理士からの指示もなかったことから特に調査したりすることはなかったとされています。

また,国税局の税務調査があった際に,調査官が帰った後,被相続人の妻が税理士に対して「海外資産について調べましょうか?」と質問したところ ,税理士は「お国が違うからいい」「分った時点で考えましょう」と回答したという認定がされています(この点は,生前に税理士が残した陳述書にはそのような発言をしたことはないと記載されていたようですが,裁判所が採用するところとはなりませんでした)。





そのほかに,被相続人が経営していた会社の株式について,当該税理士がしっかりとした調査を怠ったために,申告漏れが指摘された部分があったということも指摘されています。





結果として,裁判所は総額1億0605万5450円を損害額として認定し,法定相続分に応じて,税理士の妻に対して5302万7725円,子二人に対して各2651万3862円の賠償を命じました。







また,本件では,税理士に対して支払った申告報酬についても損害賠償として請求がされていましたが,これについては,調査義務の懈怠との因果関係はない,また,委任契約の解除は将来に向かってのみ効力があることから,すでに支払った報酬については返還請求できないという論理で,請求が退けられています。





なお,本件は控訴されています。





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